女性のためのカウンセリングルーム「ウィメンズカウンセリング京都(WCK)」のフェミニストカウンセラー。行政や大学などのハラスメント専門相談員も兼任。著書に「セクハラ相談の基本と実際」(新水社)がある。
(このコラムは、ハラスメント専門相談員の周藤由美子先生がキャンパスリポートに寄稿したものを再掲載したものです。)
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性犯罪に関する法律が改正されたことについて、ここでも何回かお知らせしてきました。法律はどうしても難しいイメージがあると思いますが、法務省が作成した学生向けリーフレットを紹介したいと思います。法務省のHPに「性犯罪関係の法改正等Q&A」というページがあり、ダウンロードできるようになっています。小学生向け、中高生向け、大学生向けと分かれていて「不同意性交等罪」「撮影罪・提供罪」「面会要求等罪」などについて漫画などを使って分かりやすく解説されています。学生の皆さんだけでなく、保護者の皆さんもぜひご覧ください。
2023年7月13日施行の改正刑法に関連して「撮影罪」などが新設されました。盗撮や同意なく性的な画像を撮影した場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。そして、その画像を友人などに送ることも「提供等罪」になり、ネットで公開するなどすれば5年以下の懲役または500万円以下の罰金になります。16歳未満の子どもに対して性的な画像を送るように要求することも、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるようになりました。盗撮やデジタル性暴力についても困ったことがあれば、人権教育啓発室に相談してください。
性犯罪に関する刑法が改正される見通しです。ひとつは「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」に罪名が変わるようです。そして、暴力や脅迫が証明されないと処罰されなかったのが、いろいろな状況で「同意しない意思」を形成・表明・全うできずに性交すれば処罰されるようになるそうです。また、いわゆる「性交同意年齢」が16歳に引き上げられるほか(加害者と5歳の年齢差が必要などの条件付きですが)、盗撮罪やデジタル性暴力の規定も新設されます。改めて被害者にも加害者にもならないように「性的同意」について考えることが必要になるでしょう。
警察学校で性暴力被害についての講義を頼まれることがあります。昨年末に依頼されたテーマは「男性や性的マイノリティの性暴力被害について」でした。男性や性的マイノリティの方が被害に遭うのは少なくないのに、相談のハードルは高いです。「男性が性被害に遭うはずがない」「被害に遭っても男性は傷つかない」などの誤解があったり、性的マイノリティであることで差別されるのを恐れたりして相談できないのではないかと思います。人権教育啓発室では、男性や性的マイノリティの方の相談も受け付けていますので、安心して相談に来てください。
モデルに興味があって面接を受けてみたら、いつの間にかAVを撮ることになってしまった。どうしよう…。これまでだったら、未成年であれば無条件で契約解除することができました。しかし、2022年4月に成人年齢が18歳になったことに伴い、18歳・19歳の被害を防げなくなる…、ということから新たにつくられた法律が「AV出演被害防止・救済法」。これは年齢に関係なく、誰でも無条件に契約解除できるなど、被害者を守るための法律です。相談窓口は性暴力被害者のためのワンストップセンターなので、困ったらまず#8891に電話してください。
「グルーミング」を知っていますか?日本語で「手なずけ行為」ですが、大人が若年者を信頼させて、少しずつ性的な行為に持ち込む手口のことです。2021年11月にNHKがNPO法人「ぱっぷす」と共同で、架空の「14歳の女子中学生」のツイッターアカウントを作成して、子どもたちを言葉巧みに性犯罪に陥れようとする大人たちの実態を調査した番組が放映されました。「グルーミング」を受けた被害者は被害と気づきにくく、相手の大人のことを「話を聴いてくれる良い人」と思ったりします。それだけ「グルーミング」は悪質な手口だということです。
『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版編集部編)という本が出版されました。これは34名の方が執筆されたもので、例えば「#Me Too」や「刑法改正」「フラワーデモ」について、被害当事者の伊藤詩織さんや、山本潤さんなどが書かれていたり、「就活セクハラ」についてのコラムもあったり、「痴漢」についてもいろいろな人が執筆されています。「痴漢撃退アプリ」についての情報もあり、おすすめの本も紹介されています。性暴力というとよくわからないと思われていた方も、そうだったのか…と、関心が広がりそうな本です。
ストーカー規制法が改正され、ストーカー行為とされる対象が広がりました(6月、8月より施行)。①GPS機器を取り付けたり、GPS機器から位置情報を勝手に取得する行為。②被害者の住居、学校、勤務先など通常いる場所だけでなく、たまたま入ったお店に押しかけるなど「実際にいる場所における見張り等」。③電話、FAX、メール、SNSに加えて、「文書を送る行為」。毎日手紙が届く、直接ポストに手紙が投函される…というのも怖いですよね。ストーカー(かもしれないこと)で悩んでいる場合は、遠慮せず人権教育啓発室に相談してください。
付き合っている相手に「下着姿の写真を送ってほしい」と頼まれ送ってしまった。性行為しているとき、気がつかない間に盗撮されていた。ケンカして別れたいと言った途端、写真をネットでばらまかれた。こんな被害は決して他人事ではありません。スマホやネットなどの機器やデジタル技術を用いた性暴力を「デジタル性暴力」と言います。専門の相談窓口「デジタル性暴力被害者支援センター」では、ネット上の性的画像の削除方法なども教えてくれます。もしデジタル性暴力に巻き込まれてしまった場合は、人権教育啓発室に相談してください。
「アンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)」とは、「性別」や「人種」「年齢」などで「決めつけ」を行ってしまう無意識の「思い込み」や「偏見」のことです。株式会社メルカリが社内研修用の資料を無償で公開して話題になりました。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したことが問題になりましたが、この発言もその典型と言えるでしょう。研修では、まず「アンコンシャスバイアス」に気づくことが大事と教えています。あなたもチェックしてみましょう。
コロナ禍の状況で、大学も遠隔授業中心だったり、活動も制限される中、新たなハラスメントも起きやすくなっています。感染者を差別したり、予防策が不十分な人を攻撃したりする「コロナ・ハラスメント」。遠隔授業の中での「アカデミック・ハラスメント」や、オンラインによる個人情報の拡散などの「デジタル・ハラスメント」などもあります。社会全体の不安やコミュニケーション不足もあるので、対策としては、できるだけ誰かと話すようにすることや、他者への想像力を持つこと、そして休養や適度な運動など自分自身をケアすることも大切です。
WiMN(メディアで働く女性ネットワーク)は、2018年の財務省事務次官による女性記者へのセクハラ事件をきっかけに結成された団体。被害者と自分を重ねた女性記者たちが「彼女を孤立させてはならない」と集まったのです。その女性記者たちが、自分たちの体験談を書籍化した『マスコミ・セクハラ白書』(文芸春秋)が、2020年2月に発行されました。仲間同士でインタビューし合う形式でまとめられているのも特徴的です。メディアを目指す学生に届けたいと、主要メディアのセクハラ対策調査も収録されています。女性の先輩からの贈り物といえる1冊です。
企業に対して職場でのパワー・ハラスメント(パワハラ)防止を義務づける法律(改正労働施策総合推進法:パワハラ防止法とも呼ばれる)が2019年5月にできたことは知っていますか。大企業では2020年6月から、中小企業でも2022年4月に施行する予定とのことです。2019年10月に提案された指針案では、残念ながら以前紹介した就活ハラスメントは対象に含まれていません。パワハラの定義や具体例が、実態に合っていないのではないかという疑問の声も上がっていますが、法律ができたことで企業のパワハラ対策が少しでも前に進むことを期待したいところです。
セクハラを被害女性が実名で訴える#MeToo運動が世界的に広がっています。そんな中、2019年1月に、職場で女性がヒールのあるパンプスを強制されることに疑問を感じた石川優実さんが、ツイッターでつぶやいたことから生まれたのが「#KuToo」です。「靴」「苦痛」「#MeToo」を合わせたハッシュタグに共感が広がりました。イギリス・フィリピン・カナダの一部の州など、男女平等の観点からハイヒールやパンプスの強要を法律で禁止している国もあるそうです。健康にも害があることを我慢せず声を上げてもいいのだと勇気づけられた人も多いのではないでしょうか。
日本労働組合総連合会が2019年5月28日に発表した、職場や就職活動(就活)中のハラスメント被害について行ったアンケート結果では、就活経験のある835人のうち10.5%の人が「セクハラを受けたことがある」という実態が明らかになりました。実は男性も「性的な冗談やからかい」「性体験などの質問」などの被害にあっています。女性の場合は「食事やデートへの執拗な誘い」「必要ない身体への接触」など、より深刻な被害内容も多く、企業における就活セクハラへの対策も検討されていますが、もし被害にあったら一人で抱えこまず大学に相談して下さい。
2019年1月17日付の京都新聞で報道された悪質スカウト事件をご存知でしょうか。四条河原町や京都駅周辺などでスカウトマンが女子大学生などに声をかけ、高額な飲食をさせて借金を負わせたうえで性風俗店などで働かせるというもの。被害女性は約260人に上ります。手口は恋愛感情を抱かせるなど巧妙で悪質です。京都府警察本部生活保安課ではHPで注意を呼びかけ、相談窓口にもなっています(075-451-9111:24時間受付)。
もし被害にあったならすぐに相談をしましょう。
ILO「国際労働機関」は労働条件・生活水準の改善を目的とした国連の専門機関です。2018年の総会で「仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント」に関する条約が提案されたことが話題になりました。それに伴い、日本の厚生労働省の審議会でも、セクハラやパワハラなどハラスメントを禁止する規定を作ることなどが検討されています。2019年にILO条約が採択されれば、国内でのハラスメント対策も強化されるかもしれません。2019年もセクハラ、パワハラを告発する動きが日本でも広がっていきそうです。皆さんもぜひ、国際的な動きに関心を持ってください。
関西の大学生有志と京都市男女共同参画推進協会が協働して、ジェンダーハンドブック『必ず知ってほしい、とても大切なこと。性的同意』を作成しました。このハンドブックには、「相手がイヤと言っていても、『イヤよ、イヤよ、も好きのうち』なので、性行為をしてもいい」、「酔った勢いで、性行為に及ぶのはしかたがない」など、10項目のチェックリストがあります。あなたはどれだけチェックが入りますか。相手の意思をちゃんと確認しないと、性暴力につながる可能性もあります。性的同意の取り方や断り方も紹介されています。学内配架棚に置いてありますのでぜひ、読んでみてください。
実名で「私も被害者です」とSNSや公の場で発言する「#Me Too」運動。欧米に比べて日本では広がらないなどと言われていましたが、財務省事務次官のセクハラ問題など少しずつ声が上げられ始めています。「自分が声を上げることで他の女性の被害を防ぐことにつながるから」と告発した動機を語っていた女性被害者もいました。私たちも「#We Too」と言って、「被害者をひとりぼっちにさせない」というメッセージを伝えていきたいものです。
2017年の京都府警のストーカー認知件数は622件で前年の1.4倍、検挙件数も1.6倍の81件だったそうです。それだけストーカーが増えている、というよりは相談しやすくなったのではないでしょうか。というのも11月に専門の相談窓口「京都ストーカー相談支援センターKSCC」が開設されたからです。電話やネットで相談でき、面接相談もあります。相談時間は現在は、午前9時~午後7時ですが、2018年度からは24時間になる予定とのこと。「交際を断ってもあきらめてくれない」「元カレ・元カノがまた付き合おうとしつこく言ってくる」など、「これってストーカー?」と迷ったときに相談窓口があるのは心強いですね。
性暴力被害にあった高校生が、被害後1カ月だったがフラッシュバックなどの後遺症はないと話してくれました。彼女は被害にあったことを自分が悪かったと思っていましたがすぐに友人に相談して、翌日には学校の先生に話すことができ、そこでやはりお母さんに話そうということになりました。その間、誰一人彼女を責める人はいませんでした。1カ月後、妊娠していないと検査でわかったときに友人は涙を流して喜んでくれました。父親は加害者のことを本気で怒ってくれ、周囲の反応で彼女は自分が大切にされていることに気付きました。もし相談していなかったら今でも自分を責めていただろうと彼女は話してくれました。彼女の「相談できる力」が彼女を回復に導いたといえるでしょう。
6月21日にNHK「あさイチ」という番組で「無関係ですか?性暴力」という特集が放映されました。性暴力被害の実態を紹介し、なぜ性暴力が「被害者にも原因がある」と言われがちで、被害者が声を上げづらいのか、その背景について考えるという内容でした。
番組が行った「“性行為の同意があった”と思われても仕方ないと思うもの」というアンケートでは「2人きりで食事」11%、「2人きりで飲酒」27%、「2人きりで車に乗る」25%、「露出の多い服装」23%、「泥酔している」35%という結果が紹介されていました。2人で食事することやお酒を飲むこと、車に乗ることに同意すること、露出の多い服装をすることと、性行為に同意することはイコールではありません。まして泥酔していたら意識がないわけですから同意できるわけがありません。
この6月の国会で110年ぶりに刑法性犯罪が大幅に改正され、3年後にも見直しが予定されています。それもあってメディアで性暴力について報道される機会も増えています。しかし、「同意のない性行為は性暴力である」ということや、「真の同意」について、男女ともにきちんととらえ直すことが必要だと改めて考えさせられました。
米国から帰国して性暴力防止キャンペーンをしている大藪順子さんは、講演の中で「ヌード写真が掲載された雑誌がコンビニで子どもの目につくところで販売されていることにびっくりした」と語られていました。テレビやラジオでも芸能人がアダルトビデオや性風俗について当たり前のように話しています。ポルノや性風俗に寛容な日本で、性的な話題を扱うことへの感覚が鈍くなってしまっているのではないでしょうか。
公的な場面で性的な話題を出して、聞いている人が不快に思ったら、それはセクシュアルハラスメント(セクハラ)です。「ちょっとした悪ふざけ、ざっくばらんに話しているだけ」などと、話している方には悪気はなく、相手を傷つけるつもりは全くないのかもしれません。しかし、聞かされる方は苦痛でたまらないこともあるのです。
もちろん気心の知れた仲間内で性的な話題で盛り上がることがいけないわけではありません。社会に出れば言葉のセクハラで処分されることもあります。場面によっては性的な話題を出すことがセクハラになるかもしれないという感覚を持つ必要があります。「これはセクハラだろうか」と思ったら、遠慮なく人権教育啓発室に相談にきてください。
「モデル等に勧誘された2,575人のうち73人が意に反して性的な行為などを撮影されていた」という衝撃的な調査結果が2017年2月8日に報道されました。内閣府がインターネットで行った調査を専門の会議で公表したのです。この人数は契約したうちの4人に1人という高い割合になります。求められた行為の内容は「水着・下着・露出度の高い衣服等を着用した状態での撮影など」だけでなく「性行為の様子の撮影など」もあります。スカウトされたり、SNSで届いた情報にアクセスしたりして、モデルやアイドルになれると思って契約したところ、AVへの出演を強要されてしまったという被害がこれだけあるということです。
求められた行為を行った理由は「お金が欲しかった」というのもありますが、「契約書などに書いてあると言われた」「多くの人に迷惑がかかると言われた」というのもあり、「写真や画像をばらまく」「多額の違約金が発生する」「親、学校、会社等に伝える」と脅された人もいるのです。
被害者の6割は誰にも相談していません。AV出演強要被害は、1人で解決するのは本当に困難です。もし、こういった被害に巻き込まれてしまった場合は、「京都SARA」など相談窓口にできるだけ早く相談してください。
警察の方から性犯罪に関する防犯の話を聞く機会がありました。京都は大学生の被害も多いので、大学と最寄りの警察署が協力して防犯マップを作るなどの取り組みも行われているようです。この道は暗いから通らないようにしよう、この角は植え込みがうっそうとしていて死角で危ない、など。ビデオを見ると、確かに怖いと思ってしまいました。
ただ、実際に被害にあった方が、「そんな遅い時間に暗い夜道を歩いていたから被害にあったんだよ。もっと気をつけないといけなかった」と言われたら、どう感じるでしょうか?気をつけなかった自分が悪かったんだと思って、それ以降相談しにくくなってしまうのでは?と心配になってしまいました。
でも、被害にあわないほうがいいことは確かです。ビデオを見て、地域の人が危険な場所の樹木を伐採して見通しよくしていたのはとても良いと思いました。また、犯人が自転車にわざとぶつかって、警察には言わないから触らせろとわいせつ行為をする事件もあるそうです。「自転車で歩行者にぶつかったら、すみやかに警察に通報する」ということも、当たり前のことかもしれないですが、周知する必要があるのではないかと思いました。
一橋大学法科大学院の男子学生が同性愛者(ゲイ)であることを同級生に暴露され自死したことに対して両親が同級生と大学に損害賠償を求める裁判を起こしたニュースはご存じの人も多いと思います。報道によれば、2015年4月、男子学生は同級生に恋愛感情を告白、同級生は「気持ちには応じられないが友人関係は続ける」と答えたそうです。しかし、その後同級生10人でつくるLINEグループで「お前がゲイであることを隠しておくのムリだ。ゴメン」と投稿。男子学生は2015年8月に校舎6階のベランダから転落死したのです。
同性愛者などセクシュアル・マイノリティの人が自分自身のセクシュアリティについて周囲に伝える(カミングアウトする)相手やタイミングなどは、自分で選択することです。勝手に周囲に暴露されることはセクシュアル・マイノリティに対するハラスメントと言えます。また、たとえ周囲に知られたとしても、差別されることがないと思えたら、自死するまで追いつめられることもなかったでしょう。この事件は他人事ではなく、私たちの身近なところからセクシュアル・マイノリティの方が「カミングアウトしても大丈夫だ」と思える環境を作ることが大切なのではないかと思います。
「痴漢抑止バッジ」を知っていますか?「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」と書かれた缶バッジです。2015年11月には、このバッジを普及させるために、痴漢抑止バッジデザインコンテストがクラウドファンディングで行われ、その中から人気の高かったバッジを商品化する動きもあるとのことです。
この缶バッジは、女子高生が考案したカードが元になっています。電車通学をしていた女子高生が、毎日のように痴漢被害に遭い続けて、さまざまな方法を試みたけれど効果がなかったので、自分で作ったカードをつけたところ嘘のように痴漢に遭わなくなったというのです。
性犯罪の加害者は、反撃したり、訴えたりしないだろうと思う相手を狙って犯罪行為を行います。だからこそ、自分は訴えるぞとアピールすることに効果があったわけです。
女子高生は「犯人を捕まえるのは怖いし、恥ずかしい。『やめてください』と声をあげても逆ギレされるかもしれない。痴漢されてから声をあげるのではなく、痴漢行為を未然に防ぎたい」そんな思いでカードを作ったそうです。被害者に声を上げるように訴えるのではなく、「被害者も加害者もつくらない」新しい発想の抑止策といえます。
「働く女性の3割がセクシュアル・ハラスメント(以下セクハラ)被害にあっている」という調査結果が2016年3月に発表されました。厚生労働省の初の実態調査で明らかになったものです。男女雇用機会均等法で会社に義務規定が入ってから20年近く経ちますが、いまだにセクハラはなくなっていないのです。
被害の内容は「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」が53.9%で最も多いのですが、「執拗に2人きりでの食事等に誘われたり、交際を求められたりした」も27.5%もあり、「性的関係を求められた」という深刻な被害も16.8%あるのです。
本人の対応として最も多かったのは「がまんした、特に何もしなかった(63.4%)」というものでした。実際は「何かしたくてもできなかった」ということかもしれません。ただ、「会社の相談窓口、担当者に相談した(3.1%)」「上司に相談した(10.4%)」場合に、会社が「発言者・行為者に対する注意が行われた(36.4%)」など対応してくれる場合もあるようです。
セクハラ被害にあったら、どこかに相談してみましょう。在学中や卒業後1年間であれば、人権教育啓発室に相談してもらえばどうしたらいいか一緒に考えることもできますよ。
男子中高生、大学生の2人に1人は「恋人なら相手の性的な要求にこたえるべきだ」と考えているというアンケート結果が報道されていました(2015年7月6日毎日新聞)。「デートDV」(恋人同士の暴力)の予防教育に取り組む大阪のNPO法人「SEAN(シーン)」が、授業前に実施しているアンケートの中・高・大学生計7,396人の回答を分析した報告書「若者の性意識とデートDV」で明らかにされたものです。
記事によると「『恋人なら相手からのキスなどの性的な要求にこたえるべきか?』の問い(同5,589人)に、男子の49%が『大変思う』『やや思う』と回答。中・高・大と年代とともに割合が高くなり、大学生は61%に上った」ということです。
「好きだからもっと仲良くなりたい」「恋人だから当たり前」と思っていることでも、相手にとっては「好きだけどまだ嫌」「恋人だけど今は気が進まない」ということもあります。そのときに、「嫌だからやめておこう」と断ることができて、「わかった。無理にとは言わないよ」とそれを受け入れられる関係が、本当の意味でお互いを大切にする関係といえるのではないでしょうか。もし、断れなかったり、断っても聞いてくれなかったりしたらそれは「デートDV」です。改めて、このような意識が「デートDV」につながっていく危険性があるのだと考えさせられた記事でした。
もし、自分や友人の恋人との関係が「デートDV」ではないかと悩んだら、身近な人に相談してみましょう。人権教育啓発室にいつでも気軽に相談に来てください。
ある大学でセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)のグループワークを学生さんにしてもらいました。「ゼミの先生に誘われて断り切れずに一緒に食事に行ったところ、帰りにキスされてしまった」という設定で対応を考えようというものでした。いろいろ意見が出た中で、あるグループで「ゼミの先生が有名な先生だったら大学に訴えると大事になるので相談しにくい。警察の方がまだ相談しやすいけれど」という発言があったのです。それを一緒に担当していた大学の先生が聞いてびっくりされていました。警察よりも大学に相談する方がハードルが高いなんて、と。
皆さんはどうでしょうか?警察に相談するなんて、ものすごく大変そうで、とても考えられない、という人も多いのではないかと思います。一方で、警察に訴えても大学に言わなければ、自分の周りの人には知られないですむかもしれないと思うのかもしれません。
また、この意見には、有名な先生を自分が訴えて、先生が大学を辞めさせられたりしたら、周りの人に迷惑がかかってしまう、というニュアンスもあるようです。セクハラの相談をしてこられる方も、周りのことを心配して訴えるのを迷っている場合も少なくありません。
セクハラの被害はなかなか訴えにくいものですが、それはこのようなさまざまな心配や気遣いが影響しているのだと改めて思いました。それでも、まず相談してほしいと思いますし、そんなに我慢しなくてもいいんだよということも伝えたいと思いました。
京都府大学安全・安心推進協議会事務局発行の「京都キャンパス安全・安心通信」によれば、京都府で2014年に起こった大学生の性犯罪被害(強制わいせつ、強姦)は45件で、府下全体の約2割だったということです。京都は学生の街ということで、大学生の被害が多い傾向があると言われています。
性暴力の被害にあわないのが何よりですが、もし被害にあってしまったら…。すぐに警察に訴えるのも何だか不安かもしれません。病気や妊娠の心配を考えると、できるだけ早く病院で診てもらった方が安心できると思いますが、どう言っていいかわからず行きづらいかもしれません。
そんなときに、まず電話で相談できて、必要があれば警察や病院に一緒について行ってもらえるワンストップセンターがあればどんなに安心でしょうか。大阪や兵庫、滋賀などでは病院にワンストップセンターが設置されたところがありましたが、これまで京都にはありませんでした。それがこの8月10日に京都府庁近くの事務所に相談センターがオープンしたのです。名称は「京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター」です。しばらくは10時から20時という相談時間ですが、いずれは24時間対応で、しっかり研修を受けた支援員さんが相談を受けてくれます。あなたや身近な友人などが性暴力で悩んでいたら、一度電話してみたらどうでしょうか?
もちろん人権教育啓発室に相談にきてもらったら、情報提供やカウンセリングもできますので、遠慮なく相談にきてください。
5月2日の京都新聞朝刊に“痴漢撃退!”という見出しで、京都府警などがJR京都駅前で痴漢防止キャンペーンを行ったことが報じられていました。
その記事の中で、電車通学の途中で被害にあった小学6年生(当時)の少女の母親のコメントが紹介されていました。母親が府警に思い切って相談したことで容疑者逮捕につながり、「もう被害に遭わずに済むと思うと、何よりも安心」と語っていました。
記事を読んで気になったのが、「警察に通報してもいいのか、こちらに落ち度があると言われないかと迷った」という母親の言葉でした。痴漢など性暴力犯罪は、被害者(この場合は本人ではなく母親ですが)の方が、なぜか「落ち度を責められる」とまず考えてしまうのです。とは言え、小学6年生の少女の母親がそう考えて、通報をためらったというのはショックでした。
京都府警の痴漢防止キャンペーンでは、痴漢への対処法として「にらむ」「かばんで防ぐ」「声を出す」などの方法を寸劇で紹介したそうです。ただし、痴漢に遭ったときに、とっさににらんだり、声を上げたりできるのかは疑問です。実際、小学6年生の少女もかばんを挟むなど工夫をしたけれど防げなかったそうです。
痴漢を撃退できればその方がいいのでしょうが、それができなかった場合に、防げなかった自分に落ち度があったと思わなくてもいいということを、もっと広めていけないだろうかと思います。皆さんも痴漢に限らず何かあれば、責められるのではないかと心配せず、いつでも人権教育啓発室に相談してください。
男性管理職が部下の女性にセクシュアル・ハラスメント(以下セクハラ)発言を繰り返したことを理由に、出勤停止の懲戒処分を受けたのは重過ぎるのかどうか。2015年2月26日に最高裁は、処分妥当の判決を下しました。
職場や大学でセクハラが行われた場合に処分の可能性があることは、もう常識と言えるでしょう。しかし、それはホテルに誘ったり、無理やりキスをしたりする場合のことで、「言葉のセクハラ」だけなら注意程度で済むのではないかという感覚もあるのではないでしょうか。今回の出勤停止の処分は懲戒解雇に次ぐ重い処分でした。
それでは、最高裁の判断のポイントは何だったのでしょうか?報道によれば、最高裁は「管理職が弱い立場の派遣社員の女性らに1年あまりにわたってみだらな発言を繰り返し、強い不快感や屈辱感を与えた」と指摘しました。つまり、「管理職としてセクハラ防止を指導すべき立場だったのに」セクハラ発言を繰り返したことが重視されたのです。また、発言には浮気相手との性交渉など露骨な内容も含まれていて、被害にあった女性2人は退職に追い込まれたり、精神的に不安定になったりしたということです。「言葉のセクハラ」でも状況によっては被害者に深刻な影響を与えることが認識されたのだといえます。
管理職でなくても、セクハラ発言をしないように注意する必要があるのはもちろんのことです。また、もし「言葉のセクハラ」で悩んでいる場合は、いつでも人権教育啓発室に相談に来てください。
最近、芸能人の離婚のニュースで話題になっている「モラル・ハラスメント(モラハラ)」という言葉があります。モラハラとは言葉や態度による精神的ないやがらせ行為のことです。今回話題になったケースは夫からの暴力ですが、デートDVや職場でのパワー・ハラスメント、大学でのアカデミック・ハラスメントの場合にもあります。フランスの精神科医であるマリー=フランス・イルゴイエンヌさんが提唱した言葉です。
モラハラの加害者は、「おまえなんて生きていく資格がない」「お前に我慢してやっているのだから感謝しろ」などと相手の人格を攻撃して、精神的に屈服させることで快楽を得るというような人格に問題のある人です。しかし、モラハラを受け続けた被害者は「自分が悪いからこんな目にあうのだ」「自分は価値がないから言われても当然なんだ」などと自分を責めてしまい、ハラスメントを受けていることに気付きにくいのです。たまたまインターネットでモラハラの事例を見て、あまりにも自分のケースにぴったりで「自分はモラハラの被害者だったんだ」と気が付いたという話もよく聞きます。
それではモラハラに遭った場合に、どうすればいいのでしょうか。加害者は自分がモラハラをしている自覚はありません。被害者にとっては加害者から離れることが現実的な解決策という場合が残念ながらほとんどでしょう。自分が受けているのがモラハラかもしれないと思ったら、一度人権教育啓発室に相談に来てください。
2014年10月23日に最高裁判所が、妊娠を理由にした職場での降格は、原則として男女雇用機会均等法が禁じる不利益処分にあたるという判決を下しました。いわゆるマタニティ・ハラスメント(略して「マタハラ」とも言われます)を違法とする画期的な裁判でした。
マタニティ・ハラスメントとはどういうものでしょうか?「マタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラNet)」という団体のHPでは、「子どもができたらやめなきゃいけない雰囲気だったので、自分で退職した」「出産後『正社員は無理でしょ』とパートに降格された」「育児休業に入った後に、『君が戻ってくる場所はないよ』と言われた」などの例が挙げられています。厳しい職場環境で切迫流産を繰り返す体験談も寄せられていました。
これまで「少子化が問題だ」とされながら、働く女性が妊娠することを歓迎する職場ばかりではないという現実がありました。労働基準法や男女雇用機会均等法などの法律があっても、あまり力になってくれませんでした。そんな中で出された今回の最高裁判決は、妊娠、出産、子育てをしながら働く女性に大きな勇気を与えた裁判といえます。この裁判に背中を押されて、以前からの上司によるマタハラを職場に訴えたという話も聞きました。
学生にとっては、マタハラはまだ身近な問題として考えにくいかもしれません。ただ、「マタハラを受けずに安心して働き続けられることは当然の権利である」ということを知っているのは大切なことだと思います。
東京都議会で6月18日、少子化問題について質問していた女性都議に対し、「早く結婚した方がいいんじゃないか」「自分が産んでから」などのヤジが飛び、大きな社会問題となりました。ヤジが飛んだ時に、知事や他の都議は、笑っているだけで注意する人は誰もいませんでした。もしかすると、「これくらいのことは今までもよくあったことだ」ととらえて、問題だと思わなかったのかもしれません。しかし、これまではよくあることとして見逃されてきたかもしれませんが、結婚や出産に関する発言によって相手が不快に感じたら、それは明らかにセクシュアル・ハラスメントです。東京都議会として「それは許されないことだ」ときちんと示す必要があったでしょう。
また、そのときの女性都議の反応は苦笑するだけでした。もっとき然と抗議すればよかったという見方もあったかもしれません。しかし、笑ってとっさにその場をとりつくろうのは、被害者の行動としてはよくあることなのです。
この問題をきっかけにして、実は自分も以前に同じような被害にあったと声を上げた例もありました。これまでは不快に思っていたけれど、しかたのないこととしてあきらめていたことが、問題にしてもいいと明らかになったのです。皆さんも、身近でおかしいと思うことがあったら、流してしまうのではなく声を上げてみてほしいと思います。セクハラかどうかよくわからないという場合は気軽に人権教育啓発室に相談してください。いつでもお待ちしています。
いろいろなところでパワーハラスメントの相談を受けるのですが、最近改めて感じることは、ハラスメントをしている側が自覚することは本当に難しいということです。「相手が自分の思ったように動いてくれなかったから注意しただけだ。ちゃんとしなかった相手も悪い」と思っているようなのです。あいさつをされても無視したり、話題の中に入れないなどは、それほど意識もせずにしているのかもしれません。誰かと比較して否定するのも、ほめられた方も不快に思っていることもあるのですが、している側はまったくそんなことは思いもよらないようです。
誰しも自分がパワーを持っていることになかなか気がつかないものです。自分は自分のことを怖くは思わないですよね。でも、たとえば先輩と後輩、先生と学生、上司と部下、正社員と非正規社員などの力関係がある中で、弱い立場の人は、上の立場の人になかなか言いたいことが言えないのです。私自身も、クライアントさんが言いたいことを言えないでいたのかもしれないと、常に意識しておく必要があると思っています。
ハラスメントが問題になったときに、「そんなことは誰でも経験すること。そんなに大げさにする必要はあるのか」という反応も必ず出てきます。そういう反応には、せっかく訴えてくれた人がいるのにと、残念でたまりません。
ハラスメントについて理解することは、被害者にも加害者にもならないために、とても大切なことだと思います。そして、大学内はもちろんのこと、アルバイト先でのハラスメントなどがあった場合には、いつでも人権教育啓発室に相談してください。
大学でのセクハラ相談でここ数年多くなっているのはストーカー被害です。人権教育啓発室では、加害者が教職員や学生の場合には注意や指導を行うなどの対応もしていますが、早い段階で警察に相談することを勧めることもあります。
2013年10月に起きた東京都三鷹市のストーカー殺人事件以降、全国の警察でストーカーへの対応に力を入れてきているようです。2014年1月10日付の朝日新聞の記事によると、京都府警では2013年12月に、危険度が急激に高まる可能性のある事件に対して部門横断で対応する「人身危機タスクフォース」という特別チームを発足させたそうです。
記事では、被害者のアルバイト先に押しかけて店長に暴行を加えたストーカー加害者の大学生が傷害容疑で逮捕された事例を紹介していました。この大学生が「お前はおれの女や」などのメールを何度も送信し、教えていないアルバイト先や自宅近くに現れたために、女性が警察署に相談。警察署が注意の電話をかけたところ、大学生は「警察に用はない」と一方的に電話を切りました。危険性が高いと判断した京都府警は、すぐに女性を保護。傷害事件を起こした大学生を全国に指名手配し、逮捕したのです。出会ってからわずか10日でした。
京都府警のHPでも「ストーカーは早期解決がポイントです。被害に遭ったらすぐに相談を」と呼びかけています。困ったときには早めに相談したらいいと思います。いきなり警察に相談するのが不安な場合には、まず人権教育啓発室に相談してください。
入学や進学、就職など新しい出会いの季節ですね。楽しくワクワクすることも多いでしょうが、自分にとっては苦手だったり不快だったりする出来事もあるかもしれません。そんなときに、嫌だと思っていることを相手に伝えるのはどうしたらいいでしょうか?
何十年も前のことですが、職場でヌードカレンダーを置いていた先輩にそれをやめてほしいと伝えたことがあります。みんなの前で言うと先輩も気まずいだろうと思ったので、廊下で偶然二人になったときに「やめてもらえませんか?」と言いました。「え、なんで?」と聞き返されましたが、あえて「セクハラですよ」という言い方はせずに「私はああいうのは苦手なんですよ」と言ってみました。先輩は納得したわけではなかったようですが、それからカレンダーは撤去してくれました。
相手に嫌だと伝えるときのポイントはいくつかあるのですが、ひとつは相手を説得しようと思わないことです。説得しようとすると、相手はいろいろな理屈をつけてきて納得してくれないかもしれません。私が嫌だからという理由で十分なのです。また、相手の状況や伝えるタイミングなども考えましょう。そして、どうしてほしいかをはっきりと伝えると、相手も対応しやすくなると思います。
何よりも「自分が嫌だと思っていることを相手に伝えてもいいのだ」と自信を持つことが大切です。一人では確信が持てなかったら、事前に誰かに相談してもいいかもしれません。人権教育啓発室でも一緒に考えることはできますよ。
昨年10月に三鷹市で女子高校生が元交際相手に殺害されたストーカー事件は非常に衝撃的でした。女子高校生は学校や警察にも相談していましたが、結局、事件を防ぐことはできませんでした。ストーカーは場合によっては殺人事件にまで発展してしまう危険性があります。しかし、今回のように相談しても防げないのならどうしたらいいのでしょうか。実は、10月には改正ストーカー規制法が施行されたばかりでした。法律が改正されても、なぜまたこのような悲惨な事件が起きてしまったのかと残念でなりません。今回、たとえば担任の教諭が学校の近くの警察署に相談した際に、被害者の自宅近くの警察署に情報提供されていて、被害者が帰宅する際に警察官が同行していればどうだったでしょうか。仮定の話をしてもしかたないかもしれませんが、本当に危険な場合は、自宅には帰らずに警察や婦人相談所などで一時的に保護してもらうことも可能だったはずなのです。
一方で、そこまで深刻になる前に早めに対処することで、つきまとい行為がストップすることもあります。相手がそこまで迷惑していることに気づいていない場合などは、注意されることで行動を改めることもあるのです。人権教育啓発室ではこれまでもそのような相談を受けてきています。「こんなことくらいで対応してもらえるのだろうか?」と遠慮せず、早めに相談してもらえれば、対応策を一緒に考えることができます。深刻な場合には、警察とも連携しながら対応していますので、一人で抱えこまないでまず相談することを考えてみてください。
本屋さんで書名に目をひかれて思わず手にとってしまったのが『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)という本です。著者は牟田和恵・大阪大学教授。日本で初めて「セクハラ」の語を流通させるきっかけとなった福岡セクハラ裁判に関わり、現在もキャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワークの中心メンバーという方です。
そのセクハラ対策第一人者の本だったら、さぞかし男性に厳しい内容なのだろう、と思って読んでみたところ…。「(男性が)セクハラしたつもりはないのに、セクハラだと訴えられる、『理不尽』と思える目になぜ遭わなければならないのか。(中略)どうしたら、そんな目に遭うのを防げるのか」「男性には不本意に思える、セクハラ発生のメカニズムと背景に分け入って、男性が気付けない理由を解き明かし、予防のためのレッスンを提案します」とあります。ずいぶん男性の立場に立っているのだなあと意外に思いました。
章ごとのレッスンとして「男性が気付けない理由」を短くまとめてあるのも親切な作りです。いくつか抜粋すると「セクハラの大半は、グレーゾーンである」「『俺は真剣なんだ!』は大間違い」「女性はイヤでもにっこりするもの」「中高年のモテ要素は、地位と権力が九割がた」「露出の多いファッションは、男性のためではない」など。どういうこと?と関心を持たれた方は、一読をお勧めします。特に男性がどんな感想を持つのか、是非聞いてみたいと思っているところです。
先日、「スポーツ界におけるセクハラ・暴力の現状と課題」という学習会に参加してきました。オリンピックの金メダリストが、指導している女子大学生を強姦したということで有罪判決が出されたり、最近も全柔連の理事がセクハラで実質的に除名されたことが報道されるなど、スポーツ界におけるセクハラ事例は後を絶ちません。学習会では、この問題を専門に研究している大阪府立大学の熊安貴美江先生が、調査のデータなどを使ってスポーツ界でセクハラが起きやすい要因を分析されました。
紹介された調査結果の中で驚いたのは、女子大学生を対象に「肩や腕にさわる」「マッサージ」「自室に呼ぶ」など19項目についてセクハラと思うかどうかを聞いたところ、体育系学生は一般学生よりもセクハラとは思わないと回答する割合が高かったということです。また、男性の指導者が女子選手にいつも自室でマッサージをさせて寝ていたという証言が新聞記事で紹介されていました。しかも、それを証言した女性の卒業生は、まったくおかしいとも思っていなかったのです。
熊安先生は、スポーツ界においてセクハラや暴力が見えにくい要因として、「身体接触や個室指導などの機会が多い」「指導者と選手が共有する時間や空間が多い」「上意下達の人間関係あるいは家族的な親密関係」「勝利至上主義的価値観」などがあると指摘されました。
スポーツ界におけるセクハラ問題の根深さを改めて実感しました。熊安先生の改善に向けた提言の中に「スポーツにかかわるすべての人への人権に対する意識啓発とトレーニング」とあったのですが、そこから地道に始めることが必要なのかもしれません。
ある自治体でセクハラ・パワハラが起こり、そのことで相談されたことがありました。加害者だけでなく、職場全体を対象にした研修を考えたいので協力してほしいということでした。再発を防止する必要がありますから、あまり一般的な内容では意味がありません。そうかと言って、ハラスメントの詳しい内容を知らされていない職員もたくさんいるため、実際にあったハラスメントの事例をそのまま使うわけにもいかず、似たような事例を考えて研修資料を作ることになりました。
そして研修を実施。「このような例についてどう思いますか?」と問いかけられた参加者から、「今時、そんなことをしたらハラスメントになることは誰だってわかっているはず。もっと、ハラスメントになるかどうか微妙な例を挙げてくれないと研修の意味がない」などという批判の声が出たそうです。担当者はその感想を聞いて、それもそうだと思いつつ、「そんなこと」が実際にあったわけですから、とても複雑な気持ちになったそうです。
わかっている人にとっては、それがハラスメントであることは「常識」で、今更言われなくても「そんなこと」をしてはいけないことは決まりきったことです。一方、加害者は依然としてそんなこと問題ではないだろうと思ってやっているわけです。
ハラスメントをめぐってはこういったギャップがあります。だからこそ「今更そんなこと」などと思わず、ハラスメントに対する取り組みをずっと続ける必要があるのです。
1月5日の朝日新聞に“「ネットで胸を見せた」と告白した少女は”という衝撃的なタイトルの記事が掲載されました。フェイスブックなどのソーシャルメディアを使ったハラスメントを取り上げたものです。記事では、カナダの15歳の高校生が昨年10月に自殺してしまったケースを取材していました。彼女は「ネット経由でおしゃべりしていて、相手から『かわいいね』と言われ、求められるままウェブカメラに胸を見せた。その瞬間の画像を記録されてしまった」ようで、その男に「(フェイスブックの)友達みんなにその写真を送られてしまった」というのです。2度転校しても状況は変わらなかったそうで、逃げても逃げ場所がないソーシャルメディアを使ったいやがらせの深刻さを改めて考えさせられました。
彼女の場合は見知らぬ男が加害者でしたが、別れ話をした交際相手からフェイスブックにプライベートな写真を掲載された、といったハラスメントの相談もよく聞きます。15歳の少女の場合は、もっと気を付けたらよかったのに、と言われてしまうかもしれません。ただ、誰しもつい相手を信用してしまうということはありますし、それを悪用した加害者が卑劣なのです。
相手が特定できない場合には、有効な対応策を見つけるのは難しいかもしれませんが、(元)交際相手からのソーシャルメディアを利用したいやがらせは、デートDVやストーキングの一例といえます。そんな時は、一人で抱え込んでしまうのではなく、一度、人権教育啓発室(セクシュアル・ハラスメント相談)に来てみてください。
2012年9月に京都の30歳代の大学職員が殺され、数日後に50歳代の同僚の職員が逮捕された事件には、皆さんもショックを受けられたのではないかと思います。加害者からストーカー被害を受けていた女性職員から相談を受けた30歳代の職員が、ストーカーをやめるように加害者を説得したことで、恨みを募らせたのではないかと報道されていました。
この女性職員の心情を考えると、本当に胸が痛くなる思いがします。女性職員は学内のハラスメント対策の相談員には相談していなかったそうです。大事にしたくないなど、いろいろな理由があって、なかなか相談しにくかったのではないかと思います。
しかし、ストーカーの問題を解決するのは、本当に難しいものです。ストーカーの心理として、「自分がしていることは悪いことではない。きっとそのうち、相手も自分の好意を受け入れてくれるはずだ」などという思い込みがあって、いくら被害者が迷惑していると伝えても納得しないのです。警察などが介入することで、やっと止まる場合も少なくありません。
今回の事件によって、ストーカー事案は単なる個人的なトラブルということではなく、場合によっては殺人にいたる可能性もあるのだと、今更ながら認識させられました。もし被害にあったり、被害を相談されたりしたら、自分(たち)だけで解決しようとせず、大学や警察や専門の機関に、できるだけ早く相談してほしいと思います。
大津の中学2年生が自殺した事件には皆さんも関心を持たれているのではないかと思います。学校や先生がもっと早くいじめに気づいて介入できなかったのだろうか、と問題になっていますね。
周りの生徒が先生に知らせたのに、現場に行った先生が男子生徒に聞いたところ「大丈夫」と答えたので、いじめとしては対応しなかったというようなことが報道されています。そのとき相手側の生徒たちも一緒にいる場で、先生が男子生徒にいじめかどうか確認したという話もあります。
この話を聞いて私が思い出したのは、アメリカの警察のドメスティックバイオレンス(DV)対応のことでした。殴られている妻から通報を受けて現場に駆けつけた警察官は、夫がいる前で妻に事情を聴いてはいけないとされています。暴力をふるう夫の前では、妻は夫の報復を恐れて本当のことが言えません。「ただの夫婦ゲンカです」「もう大丈夫です」と答えるでしょう。そうではなく、必ず妻を別のところに呼んで、夫がいないところでDVかどうか、告訴するかどうかなどの意思を確認するのです。
被害者はなかなかSOSを出すことができません。加害者が一緒にいたらなおさらです。これはデートDVやセクハラ、パワハラでも共通していることです。何かおかしいと気づいた場合には、被害者がSOSを出せるように周囲の注意深い対応が必要なのです。
ぽっちゃりした体型をからかわれたり、「結婚できない」としつこく笑いものにされたり。TVのバラエティ番組などではよく見られる場面で、からかわれたタレントもそれを売り物にしていたりします。しかし、授業で先生が学生に対して「そんなだったら結婚できないぞ」と言ったり、職場で先輩からみんなの前で日常的に体型をからかわれたりしたら…。からかっている側は相手を傷つけている自覚もなく軽い気持ちで言っているのかもしれませんが、言われる側がいつも笑ってすませられるとは限りません。言われてもそれほど気にならない人もいるかもしれませんが、言われるのが嫌でたまらない人にとっては、それはセクハラになります。
「そんなことくらい、たいしたことないのではないか」と思うかもしれません。しかし、度重なると、授業に出たくなくなる、職場に行くのも憂うつになってしまうなどの影響が出ることもあります。「不快だったら嫌だと言えば相手もやめるのではないか」という反応もあるかもしれません。でも、大勢の前で言われるとなかなか反論しにくかったり、上下関係がある場合には相手に逆らえなかったりすることもあります。
「相手の望まない言動で不快感や屈辱感を与えること。相手の人格や尊厳を傷つけること」がセクハラです。どういったことがセクハラになるのか改めて考えてみてもいいのではないでしょうか。
セクハラなどのハラスメントと、恋愛や人間関係のトラブルとの違いは何でしょうか?簡単に言えば、パワーが関係しているかどうかです。
たとえば先生と学生、上司と部下、先輩と後輩などの上下関係というパワー。「嫌だからやめてほしい」と言うと、その場の人間関係が気まずくなるので言えないというのも、被害者にとっては集団のパワーの影響を受けていると言えるかもしれません。また、交際していた相手に別れたいと言ったら、脅されたりしつこくつきまとわれたりするデートDVやストーカーのケースでは、物理的なパワーに対する恐怖があります。
問題なのは、加害者となっている側は、自分(たち)がパワーを持っていることに気づいていない点です。自分のことを相手が怖がっているかもしれない、というのはなかなか認めにくいことです。「嫌だったら嫌と言えばいい」とよく言われます。でも、思っていても言えないのは、パワーが関係していることを考える必要があります。
もし「あなたがしていることはハラスメントですよ」と言われたときには、「自分は意識していなかったけれど、パワーを濫用していたのかもしれない」と自分のことを振り返ってみてください。そこまでいかなくても、あなたのいる環境でハラスメントが起きやすくなってないか、見直してみるといいかもしれません。
セクハラで困っている被害者がまず相談するのは、身近にいる友人という場合も多いでしょう。話を聞いて自分のことのように心配し、人権教育啓発室にも一緒に付き添ってきてくれる場合もあります。被害者は「もっと自分がしっかりしていたらこんなことにはならなかったのに」と自分を責めたり、怖くて加害者に対して何か行動を起こすことも考えられなかったりします。そんなときに、「あなたが悪いわけではないよ」「大丈夫だよ」と支えてくれる人が1人でもそばにいてくれると、ずいぶん気持ちが楽になると思います。
被害者の相談を聞いたり、周囲でサポートをする人も、実はその人自身がとても傷ついたり、セクハラの影響を受けることがあります。被害者をサポートすることで自分の方に加害者からの攻撃の矛先が向けられてしまうのではないかと怖くなることもあるでしょう。
「自分は直接の被害者ではないのだからこんなに傷つくのはおかしい」とか、「被害者が一番大変なのだから自分のことは後回しにするべきだ」などと思う必要はありません。セクハラなど深刻な人権侵害を見聞きするだけで深く心が痛むことはありますし、直接の被害者でなくても辛くて抱えきれなくなったら自分自身のケアが大切です。無理をしてサポートし続けて、耐え切れなくなって途中で投げ出してしまったら、その方が被害者にとってはショックなことかもしれません。1人で抱えこまないで誰かに相談して助けてもらうことは、被害者にとってもプラスになることなのです。
昨年3月の東日本大震災以降、被災された方はもちろんのこと、直接に被災していなくても、それまでとは何もかも変わってしまったと感じる人はたくさんいます。また、大変な状況を頑張ってきた人たちの中には、心や体にたまってきた疲れがピークに達して、体調を崩す方も少なくないと思います。さらには、震災から時間が経過するにつれて、周りから理解してもらえていないと感じる人も多くなっているかもしれません。そして、それはセクハラの被害者にも共通しています。
周囲の人に理解してもらえなくて傷つけられることを「二次被害」といいます。「二次被害」の打撃は深刻です。孤立感や無力感を感じたままでは、トラウマの後遺症から回復することは難しくなってしまうからです。また、なぜ理解してくれないのだという激しい怒りを「二次被害」を加えた周囲の人にぶつけてしまうこともあります。
励まそうとした言葉であっても「あなたよりももっとつらい目にあった人もいるのだから、まだましだ」「いつまでも過去のことに縛られていないで前を向いたらどうか」というのは、相手は否定されたように受け取られます。
まずはじっくり話を聞いて、その人の感じていることを否定しないでください。誰かが「二次被害」を加えず、その人の側にいてくれたら、被害者は少しずつ回復の道を進むことができます。
ここ外大だけでなく一般的にセクハラ相談室では、セクハラを受けたという相談者からの訴えを聞いて、すぐに調査委員会を開いたり、加害者を処分したりすることはありません。相談者の要望を聞いた上で、「セクハラ行為をやめてくれたらそれでいいです」という場合には、加害者として訴えられた人の担任の先生や上司などから、加害者に話をしてもらうことがあります。たとえば「あなたがしていることを相談者は不快に思っています。もうメールをするのはやめてください」というようなことを伝えるのです。
そのように言われた加害者が、「自分は相手を困らせるつもりはなかった」「もう近づきません」と約束して無事に解決ということもあります。しかし、中には、「なんでこんなことで呼び出されないといけないんだ」と呼び出しに応じなかったり、「自分はそんなことはしていない」とセクハラ行為を否定したりすることもあります。
セクハラを訴えられた加害者は、自分がしていることがセクハラだと思っていないことがほとんどのようです。「自分は相手のことが好きなんだから」「相手は嫌がっていなかったはず」などの理由で「これはセクハラではない」と思っているのかもしれません。そのときに「相手は嫌だと言える状況だっただろうか?」と相手の立場に立って考えてみることがポイントになります。あなたのまわりでは大丈夫ですか?一度つきあい方を点検してみてもいいかもしれません。
大学のイベントのことでメールアドレスの交換をしたら、それほど親しくないのに個人的な話題のメールが送られてくるようになった。最初は適当に返事をしていたけれど、どんどん内容がエスカレートしてきている気がする。毎回返事をしないようにしたら、相手も迷惑に思っていることに気がつくかもしれないと期待したが、どうも気がついた様子もない。だんだん不安になってきてどうしたらいいかわからなくなってきた。
こんな場合はどうしたらいいでしょうか?自分の気持ちを伝えるときには「Iメッセージ(わたしメッセージ)」を心がけると伝えやすくなります。たとえば「あなたがしつこくメールしてくるのはセクハラよ」などというのは相手に焦点をおいた「YOUメッセージ(あなたメッセージ)」です。それに対して「Iメッセージ」で言うとすれば「あなたからのメールが個人的な内容が多いのでどんなふうに返事をしていいか私は困っています。メールをもらえるのならイベントについての連絡だけにしてほしいのです」などとなります。「Iメッセージ」は、「私は」を主語にして自分の気持ちや要望を伝えるやり方です。「YOUメッセージ」は相手に攻撃的に受け取られることもありますが、「Iメッセージ」だと相手も受け入れやすくなるのです。
嫌なことを断りたいときにはこの「Iメッセージ」を思い出して使ってみてください。一人では難しそうだったら相談に来てもらえれば一緒に考えることもできますよ。
このたびの東日本大震災は、被災された方はもちろんのこと日本全体にとっても経験したことのないような大きなトラウマ体験だと思います。こうした体験をした人には「トラウマ反応」といわれるような様々な心身の症状が出ます。強い恐怖や無力感を感じたり、生き残ってしまったことへの罪悪感を抱いてしまうこともよくあります。自分がおかしくなったのではないか、と思ってしまうかもしれませんが、「それだけ大変な目にあったのだから当然の反応なのだ」と理解する必要があります。周囲の人にできることは「そばにいるよ」「見守っているよ」ということを伝えることだと言われています。特に、今回は東北の方が我慢しがちであることから、「抱え込まないでつらいと言ってね」というメッセージもよく聞かれました。
セクハラ被害も深刻なトラウマ体験のひとつです。震災とセクハラ被害はまったく同じとはいえませんが、共通しているところもたくさんあります。被害者は自分が悪くないのに「もっと自分がしっかりしていれば」「なぜあのとききちんと拒否できなかったのだろう」などと自分を責めたりすることもよくあります。周囲の人にできることも共通しています。被害者に寄り添い、被害者がひとりではないと思えるようにサポートすることです。そして、やはり被害にあったら、自分ひとりで悩みを抱え込まないで相談してほしいと思います。人権教育啓発室では、いつでもあなたの来室を待っていますよ。
卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんの中にはこれから新しい環境、新しい人間関係の中に入っていかれる方も多いと思います。
空前の就職難で、何十社も試験を受けて採用されなかったりすると、「自分には何か問題があるのではないか」「自分はどこにも必要とされていないのではないか」などと自信を失いがちですよね。
「自分にも問題がある」と思ってしまうと、どうしても力がわいてきません。セクハラやパワハラなどのハラスメントを受けたときも同様です。ハラスメントは、する側の問題なのですが、「こんな目にあうのは自分だけだ」「これをおかしいと思う自分の感覚の方が間違っているのではないか」などと自分を責めてしまうと、とてもつらくなって体調も悪くなってしまいます。
誰かに相談して「あなたが悪いわけではないよ」と言ってもらえると良いのですが、特に新しい環境に入ったばかりだと、周囲に親しく話ができる人もいなくて孤立しがちです。また、せっかく入った会社なのに辞めるわけにはいかない、と我慢してしまうことも多いのです。
状況が大きく変わらなくても「自分は悪くない。相手の問題だ」と思えるだけで、ずいぶんストレスも違ってくるものです。そのためにも一人で抱え込まないで誰かに相談してみましょう。あなたの味方になってくれる人はきっといるはずです。
内閣府が2008年に行った調査で「異性から無理やり性交された」経験があると回答した人が女性の7.3%もいました。そんなにたくさんいるのか?と驚かれた方もいるかもしれません。でも、もっと驚くのはそのうち62.6%の人は「どこ(だれ)にも相談しなかった」と答えているのです。つまり半数以上の被害者は誰にも相談していないのです。なぜ、被害にあってもなかなか相談できない(相談しない)のでしょうか?
相談者の中には、「誰にも相談しないで一人で頑張っていた時の方が自分は強いと思えていた。誰かに相談しないとやっていけないのは、自分が弱くなった気がする」と話す人もいます。そんな時には、「あなたは自分で相談先を探して、予約の電話をかけて、ここまで相談に来たんですよね。つらいけれど自分の問題にしっかり向き合って、解決しようと動いたわけですよね。それはすごく力があることだと思いますよ」と伝えます。
「自分のことで誰かに迷惑をかけてしまうのは申し訳ない」と思う人もいます。でも、かけがえのない大切な存在であるあなたが、ハラスメントという人権侵害を受けているのに、周囲がそれに気付けなかったために何もできなかったら…。その方が周囲は悲しいし悔しいと思うのです。相談してもらって何かできる事の方がみんなにとってはうれしいことなのです。「困った時には相談してもいい」「誰かに相談することは弱いことではない」ということを是非、覚えておいてほしいと思います。
私はいくつかの市役所のセクハラ専門相談員もしています。先日、職員を対象にしたセクハラ防止や対応のマニュアルをつくりたいと相談を受けました。保健師や介護士などは仕事で市民のお宅を訪問することがあるのですが、そこで職員がサービスの利用者である市民からセクハラ被害にあうことがあるのです。それをどのように防ぐかといったマニュアルをつくりたいということだったのです。
マニュアルをつくる担当者の提案の中に「被害にあう危険性の高い相手のところに訪問するときには気をつける」という内容がありました。それに対して私は、「これまでの経験からすると、セクハラをするように見えない人が加害者である場合も多い。セクハラの加害者はすごく巧妙に、相手が嫌と言えない状況をつくってセクハラを繰り返す常習者であることもよくある」という説明をしました。
いかにもセクハラをしそうな人に対して注意をしていれば被害にあわないということならむしろ安心でしょうが、そうではないところがセクハラの難しいところです。少なくとも被害にあった場合に、被害者が「もっと注意していればよかったのに」と責められないようにすることが大切なことだと思います。
これはキャンパスでのセクハラにも同じことが言えると思います。あなたやあなたの周りで被害にあって悩んでいる人がいたら、ひとりで抱え込まないで人権教育啓発室に相談してください。
「デートDV」という言葉を知っていますか?結婚している相手からふるわれる暴力はドメスティックバイオレンス(DV)といいますが、交際相手からの暴力のことを「デートDV」というのです。
たとえば、勝手に携帯のメールを見られたり、いつどこに誰と行くのか常にチェックされるので彼・彼女以外の友達とつきあえなくなってしまった。彼・彼女に内緒で男女数人で遊びに行ったことがばれたら一晩中責められた。「別れたい」と言ったら殴る、蹴る、の暴力をふるわれた。別れた後にもう一度つきあってほしいと学校やアルバイト先で待ち伏せされてしつこくつきまとわれた。こういったことが「デートDV」の例です。
自分が経験していても、「こんなことをするのは彼や彼女が自分のことを愛してくれているからだ」「彼や彼女を心配させたり、怒らせたりしたから自分が悪いのだ」などと思って、どんなにつらくても我慢している人もいるかもしれません。
「デートDV」にあって、怖い思いをしたり、大学生活を送ることに影響が出ているようなら、一人で悩まないで、是非、相談に来てください。また、友達の様子を見て「デートDV」ではないかと思ったら、「一緒に相談に行ってみよう」と声をかけてみてください。どんなに好きだとしても相手を支配して傷つけることは人権侵害であり、ハラスメントなのです。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。新入生にとっても、在学生にとっても、春はさまざまな出会いがある季節ですね。
きっと、初めて出会った人たちの間では携帯電話の番号やメールアドレスなどを教えあう場面もあちこちで見られるのではないかと思います。そこから人間関係が広がり、大学生活が楽しく充実することでしょう。
ただ一方で、何気なく教えたことから、その後しつこく電話がかかってきて、断っても「会おう」と誘われたり、不快な内容のメールが送られてきたり…などのセクシュアル・ハラスメントにつながる危険性も残念ながらあるのです。
「聞かれたら教えないと相手が変に思うかもしれないから」と電話番号やメールアドレスを教えるのが当たり前と思っている人も少なくないようです。しかし、電話番号やメールアドレスはあなたの大切な個人情報です。あなたが教えたくなければ、誰にでも教える必要はないのです。
もし、迷惑な電話やメールがあったときには、できそうだったら「不快なのでやめてほしい」と、伝えてみましょう。怖かったり不安になったり、自分だけではどうしていいかわからなくなったら、一人で悩まないでいつでも相談に来てください。
お互いに相手の人権を尊重した人間関係をつくれるように応援していきたいと思います。
これを読んでいる方の中には、この春から卒業して社会人になられる方もいると思います。そういう皆さんに伝えたいことは、「自分の気持ちや感覚を信じてほしい」ということです。
たとえば、就職したばかりの職場の飲み会で上司や先輩からお酌を強要されたり、異性との交際の経験を根掘り葉掘り聞かれたり、カラオケでデュエットを強要されたりして嫌だったけれど、みんながそれを当たり前だと思っている様子だったとしたら…。あなたは、「不快に感じるのは自分がまだ学生気分が抜けていなくて、社会人になったらこれくらいのことには慣れなければやっていけないのだろう」と思ってしまうかもしれません。
しかし、不快だと思うあなたの感覚が間違っているわけではありません。あなたが不快だと思ったらそれはセクハラです。セクハラは男女雇用機会均等法で事業主に防止と措置が義務付けられているのです。これくらい我慢しなければならないのかな…と思っているうちに、もっと深刻なセクハラ被害にエスカレートする危険性もあるのです。
でもセクハラを訴えたら「せっかく就職できたのに、仕事を失うのではないか」と心配するかもしれません。行動を起こす場合には慎重に考える必要はあるでしょうが、そのまま無理をして体調を崩してしまっては、働き続けることができなくなるということも考えられます。
「おかしいな」と思うことがあったら、早めに、信頼できる友人や家族に相談してみましょう。また会社に相談窓口があるかもしれないので確認してみましょう。卒業して1年間は人権教育啓発室に相談することができますので、困ったら電話をしてきてください。
セクハラを受けたときにはどこに相談に行けばいいか知っていますか? 9号館の7階に人権教育啓発室があります。いつでも来てもらえばよいのですが、私が直接お話をお聞きできるのは毎週木曜日の15時から19時です。私が京都外大のセクハラ専門相談員になったのは2000年なので今年で10年目になります。
この10年でセクハラの相談を受けた人の中には、加害者が怖くてたまらなくなり、眠れなくなったり食事が摂れなくなったり、体重も激減して、大学を休まざるを得なくなるなど、深刻な影響が出た人もいました。また、「自分がもっときっぱり断っていたらよかった」とか、「なぜあんな行動をとってしまったのだろうか」などと自分を責める人も多くいました。
相談を受けて私が必ず伝えることは「あなたは悪くない」ということです。嫌だと思っても相手が先生だったり、先輩だったり、バイト先の上司だったり、教育実習先の担当者だったりするとなかなか断れないですよね。それに予測もしないところで急に相手からセクハラを受けたら、びっくりして声も出せないということもあるのです。また、嫌だと言っても聞いてくれないという相手の問題もあります。だから、自分を責める必要はないのです。
でも、まだもうひとつ納得できないと思われる人もいるかもしれません。セクハラをもっと身近に考えてもらうために、これからいろいろな角度から取り上げていきたいと思います。
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