2025年1月29日

京都外国語大学・京都外国語短期大学の学生のみなさんへ
学長 小野 隆啓
生成AI利用に関するガイドライン
1. ガイドラインの骨子
京都外国語大学・京都外国語短期大学は、
条件付きで生成AIを利用することを認めます。学生は
生成AIの特性を熟知し、生成AIが作成した文章を評価できるような
文章力を身につけるよう努めてください。
2.生成AIをめぐる現況
「生成AI」とは、あらかじめ学習したデータをもとに、画像、文章、音楽などを作成する人工知能のことを指します。ユーザーがAIに対して、プロンプトと呼ばれる命令や指令を出すと、生成AIは答えを出力します。プロンプトに条件を加筆すれば、その条件に合った答えを出力します。
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIは、私たちの社会に深く浸透するようになりました。生成AIは大きな可能性を秘めています。例えば東京都が発表したガイドラインには「本ガイドラインで取り上げる文章生成AIについても、これを適切かつ効果的に活用することで、これまでにない形での生産性の向上や、社会課題の解決につながる可能性を秘めており、AI活用に向けた検討や取組を進めていく必要があります。」1)という文言があります。学生のみなさんも、社会に出ればさまざまな場面で生成AIを使いこなすことが求められるでしょう。
3.「生成AIを使いこなす」とは?
では、「生成AIを使いこなす」とはどういうことなのでしょうか。ただ、ChatGPTを使って文章を書ければ、それでいいのでしょうか。「生成AIを使いこなす」ためには、次の2つが不可欠です。1) 学生が生成AIの特性を熟知すること、2) 学生が生成AIの作成した文章を評価できるような文章力を身につけることです。本ガイドラインでは、もっとも使う頻度が高いと考えられるChatGPTを主にみていきます。
ChatGPTは大量のデータを学習しているため、プロンプトに対応した文章を瞬時に作成できます。文法の間違いを正し、より分かりやすい文章にする校閲力にも長けています。またプロンプトを出した人とは異なった観点からのアイデアを提案することもあります。このような利点がある一方で、以下のような問題点が挙げられます。
① 正確性の制限
ChatGPTは常に最新のデータから導いた答えを出力するわけではありません。今後データがアップデートされていくとしても、データの学習時期と、それを反映した利用時期にはタイムラグが生じるでしょう。さらに、ChatGPTは学習していないデータが必要とされるプロンプトを入力すると、正しくない答えを、あたかも本当のように返します(幻覚、hallucinationと言います)。さらに、ChatGPTは出現頻度の高い情報を選択します。出現頻度が高い情報が必ずしも正しい情報とは言えないことにも留意する必要があります。
② 抽象的な文章
ChatGPTは「体験したことを書くのには弱い」との指摘があります。体験をした本人でなければ、具体的な内容、体験をする前と後での自身の変容を知ることはできないからです。実際の経験をしていないChatGPTが提示する文章は、書き手の意志や感情など「こころ」の部分が反映されず、抽象的でありきたりな内容になってしまいます。
③ 個人情報の漏洩
ChatGPTは個人情報や機密情報もデータとして蓄積し、第三者への回答に利用する可能性があります。実際に、電子機器で有名なサムスン(Samsung Electronics Co., Ltd)では、社員がChatGPTに機密性の高い社内情報を入力した結果、その情報が漏洩したことが報告されています。
④ 偏見や倫理観の偏り
ChatGPTは、インターネットの利便性などの影響から、欧米の見解に偏っているとの報告があります2)。ChatGPTが学習したデータの偏りが、結果として差別的な意見を生むこともあります。つまり、ChatGPTが作成した文章には客観性・公平性が担保されていません。
⑤ 著作権の侵害
ChatGPTが作成する文章には、情報の引用元が明記されません。その文章を論文やレポートで用いることは「剽窃」にあたる可能性があります。さらに、情報の収集過程で、著作権を侵害している可能性もあります。実際に、AIが生成した画像に対して、著作権の侵害だと指摘する事例が数多く報告されています。
⑥ 犯罪の誘発
ChatGPTは犯罪につながるような情報も提供する可能性があります。ChatGPTを用いたフィッシング詐欺やサイバー犯罪が技術的には起こり得ます。
⑦ 依存性のリスク
ChatGPTをはじめとする対話型AIは、話し相手に対して批判的なことはめったに言いません。相槌を打ったり、相談に乗ったりと、話し相手がして欲しいと思う対応をすることが多いです。その結果、精神的に対話型AIに依存してしまう可能性があります。
生成AIを利用する際には、以上のような特性に十分留意しましょう。
生成AIの登場後、「これからの人間に求められる能力は文章を書く能力ではなく、書かれたものを評価する能力である」という言説がよくみられるようになりました。確かにそうかもしれません。しかし、生成AIが作成した文章を評価するためには、評価できるだけの文章力、判断力が必要です。つまり、「生成AIを使いこなす」ためには、生成AIと同等かそれ以上の文章力を、身につける必要があるのです。そのためには、日頃から論理的な文章(新聞、書籍など)を読む練習も必要でしょう。
また、生成AIに文章を作成させるには、「どのような内容を、誰に対して、誰が書いたか」がわかるようなプロンプトを設定する必要があります。プロンプトがあいまいだと、想定していたような文章は返ってきません。適切なプロンプトを作成する能力も必要です。
以上を踏まえて、本学では生成AIについて以下のような使い方に限って、認めることとしました。
① 語学の自律的学習
生成AIは、外国語の自律的学習に活用できます。例えば、音声を使用した会話練習、単語帳やTOEIC・検定試験の練習問題などの自主教材の作成などが考えられます。担当の外国語教員と相談しながら、生成AIを適切に利用して、外国語運用力の向上に努めてください。
②自身が書いた文章の推敲
文法の間違いを修正する、より分かりやすい表現に直すなど、自身が書いた文章をより良いものにする際に、ChatGPTを一助とすることを認めます。
③自分以外の考え方を知る
みなさんが本学で学ぶ内容の中には、研究者によって見解が異なる問題や、正解のない問題があります。自分とは違う意見を知るためにChatGPTは有用です。
④プロンプトを書く練習
先述したように、自分が知りたい答えをChatGPTに書かせるためは、適切なプロンプトを書く必要があります。プロンプトには、キーワードの選定や具体性が求められます。プロンプトを書くことで、自分が書きたい内容をより深く考えることにもなりますし、Webにおける検索でヒットしやすいキーワードを見つける訓練にもなります。
授業の特性によっては、上記のルールが当てはまらない場合もあります。教員の判断により、生成AIの利用が認められない授業もあれば、逆に上記以外の方法で生成AIの利用を認める場合もあるでしょう。シラバスをよく確認するとともに、授業での教員の指示に従ってください。
5. 京都外国語大学・京都外国語短期大学での学び
本学の建学の精神は「PAX MUNDI PER LINGUAS — 言語を通して世界の平和を —」です。この建学の精神に基づく本学の教育理念は、「国際社会の平和に貢献し、次世代を担うことのできる『人間力』豊かなリーダーの養成」です。
この建学の精神と、教育理念の意味をもう一度考えてみてほしいと思います。ChatGPTが導き出した「言語」で、果たして世界の平和は実現するのでしょうか。ChatGPTに考えることをゆだねた人間は「人間力」豊かなリーダーになれるのでしょうか。
私たちはこの文章を、ChatGPTの力を借りずに書きました。校閲もかけていません。私たちが渾身の力で書いた文章を、学生のみなさんに公表する前に、ChatGPTの糧にしたくなかったからです。私たちの言葉が、学生のみなさんにどのように伝わったかはわかりません。ですが、伝えたいことを精一杯言葉にする努力なくして、「PAX MUNDI PER LINGUAS」を実現することは難しいのではないでしょうか。京都外国語大学・京都外国語短期大学の学生のみなさんには、「自分の力で言葉を紡ぐ」ことの大切さや大変さ、その言葉が伝わった時の喜びを知ってもらいたい、その経験を通して、世界の平和に貢献する人間になってもらいたいと私たちは切に願っています。
*本ガイドラインは今後の生成AIの進化や社会の変容によってアップデートしていく予定です。
【引用サイト】
1) 東京都デジタルサービス局 「文章生成AI利活用ガイドライン」
https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/ict/pdf/ai_guideline.pdf
2) Open AI Educator FAQ
https://help.openai.com/en/articles/8313359-is-chatgpt-biased
【参考サイト】
1) 明治大学 ChatGPTをはじめとする生成系AIの利用について
https://www.meiji.ac.jp/gakucho/message/20230517_generative-ai.html
2) 新潟医療福祉大学 ChatGPT等の生成AI利用に関する本学の方針と留意事項について
https://www.nuhw.ac.jp/n/topics/14982/
3) KUFS ICTサポートページ
https://sites.google.com/kufs.ac.jp/it-suportinfo/kufs_it
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