京都外国語大学国際文化資料館では、京都外国語大学ラテンアメリカ研究センターと共同で行う新たな総合学術研究「アメリカ地中海文化圏研究」の一環として、2013年中米ニカラグア共和国マタガルパ県マティグアス郡をフィールドとする『プロジェクト・マティグアス』を開始しました。
このプロジェクトは、国際文化資料館館長の南博史教授(考古学、博物館学)をリーダーに、マティグアス郡の中央にあって遺跡が広く分布するキラグア山周辺で「考古学と博物館学を仲介者とする実践的地域研究」を行っています。つまり遺跡の学術的調査研究を背景として、考古学の成果を博物館学的手法によって地域に還元する、また地域をミュージアムと見立てて博物館活動を行うことで、地域の課題解決と持続可能な地域社会を可能にする方法を具体的なモデルを提示し明らかにすることを目的としています。
現在、考古学調査を実施しているマティグアス郡ティエラブランカ地区にあるラスベガス遺跡は、約1万m2の調査対象範囲のなかに約40のマウンド(直径5~10m、高さ1~2mの塚)と多数の集石遺構が確認されています。また、遺跡にはモノリートと呼ばれている長さ3mと4.5mの石柱が2点確認されており、その学術的価値の高さが注目されています。

ニカラグア共和国は、中央アメリカ中部に位置するラテンアメリカの共和制国家。北西はホンジュラス、南はコスタリカと国境を接し、東はカリブ海、南西は太平洋に面している。首都はマナグア。

全長4.5mのモノリート

マウンド1発掘調査の様子
2014年の調査では、ラスベガス遺跡のモノリートの北東側に位置する直径25mのマウンド1の測量調査と試掘を実施しました。そのほか地域住民から寄せられる遺跡の情報をもとにした踏査などを行いました。

遺跡測量の様子
2015年度で3年目を迎えるプロジェクト・マティグアスは、ラスベガス遺跡での考古学調査を地域に還元する活動を行いました。当プロジェクトでは、マティグアス郡庁や議会でのプロジェクトの説明など、マティグアスの方々に向けた報告会を調査のたびに開いています。今後も、発掘調査だけでなく、ティエラブランカ村やマティグアスの地域住民と連携し、研究成果を地域に還元できるような活動を計画して、地域に根付いたプロジェクトを展開できればと思っています。

ティエラブランカ村の児童と遺跡見学会を実施
2016年春から2017年春までの1年では研究が大幅に進展しました。まず、考古学調査を実施しているラスベガス遺跡のマウンド(土盛遺構:住居または墓、祭壇と推定している)のおおまかな配置が明らかになりました。また、集落の中心と推定しているマウンド1の発掘調査の結果、これが祭壇であること、さらに上部で発見した石組み遺構が遺跡の東側に位置するキラグアの山並みと関連している可能性を指摘し、その解釈として天体運行と結び付けた仮説を提唱しました。
2017年に実施した調査地の精密測量の結果、マウンド群の正確な位置と調査地の地形の凹凸が明確になりました。それによると、中央広場を囲むマウンドとその外側に分布するマウンドの間が溝、または段状に区画されている可能性が指摘されました。また、マウンドの配置が東側のキラグア山系のピークと対応する可能性が高いことがわかり、先の仮説を実証する結果となりました。

現地報告会では駐ニカラグア今井大使ご夫妻もご出席された
一方、これまでに実施してきたティエラブランカ地域住民への調査報告会、および現地見学会など先住民文化に対する理解を深める交流活動の結果、地域住民と協働した文化財ガバナンスの構築が可能な段階に発展してきたと感じています。住民アンケート調査をみても、「コミュニティ・ミュージアム」づくりに関連し、先住民文化に関する関心が高まっていることが明らかになりました。
具体的には、ティエラブランカ地区住民へのワークショップ「コミュニティ・ミュージアムって何?」についてのアンケートの結果、住民が主体となった「コミュニティ・ミュージアム」にむけて、「こどもたちのため」「自分たちの歴史を知るため」という意見が多く出ています。また、それを観光に結び付け村を発展させていくなど住民自身の主体性を感じる回答が増えました。なお、マティグアス市長は、2018年度からコミュニティ・ミュージアム建設を始めると発表しました。

ティエラブランカ村の児童と考古学ワークショップ
ラスベガス遺跡マウンド1の発掘調査を継続しました。マウンド頂部で確認されていた石組み構造の地山(マウンド造成時の盛土層)をさらに掘り下げたところで土坑を確認しました。土坑の底にあった炭化物の放射性炭素年代測定を行ったところ、紀元前後~2世紀とする結果が出ました。またマウンドは、小石の層と硬い土の層が交互に重なる構造になっていました。サグラリオ先生によると、このような構造をもつマウンドは、ニカラグアでは確認されていないようです。
今後の調査方針として、次の3点を課題とします。一つは今期検出されたマウンド1の土坑の発掘とマウンド裾部の発掘でマウンドの形状を明らかにする。二つは、遺跡の全体精密測量で確認された円状区画がどのように造成されているかを確認する。マウンド1の造成年代が紀元前後までさかのぼることが分かったことから、集落の継続年代が予想よりもはるかに長い可能性がでてきました。集落構成のさらなる分析が三つ目です。

2018年には、これまでに出土した土器と石器の分析を行いました。土器の分析からは、バガセス期(紀元後300~800年)以前に遺跡が繁栄したのではないか。また遺跡では石器製作が行われていた可能性が高いことも分かってきました。
ティエラブランカ地区における「コミュニティ・ミュージアム」の建設に向け、地区住民とマティグアス市民と協働したイベントや交流活動を継続的に実施しています。2019年の調査では、子供向けワークショップ開催」の要望を小学校から受け、ティエラブランカ地区の児童を対象にした考古学ワークショップを初めて実施しました。

また、調査報告会では「ティエラブランカ観光開発」を議題として、グループワークを実施しました。観光開発に関して肯定的な意見が多かったほか、村の魅力を活かせる案が多く発表されました。これはティエラブランカ地区住民がコミュニティの本来の魅力・価値を認識し始め、地域資源活用に向けた第一歩を踏み出したといえるでしょう。「もっと知りたい、学びたい」という意欲もみられます。ティエラブランカ地区やマティグアス郡の小・中学校教員は、当プロジェクトと協力して、積極的に考古学やワークショップの実施・参加を希望する姿勢がみられました。

2022年8月~9月、約2年半ぶりに中米で現状確認調査を実施しました。詳細は、「中米太平洋岸地域プロジェクト」を参照ください。
2023年度は、学内競争資金である他機関連携「世界遺産の持続性にかかる住民主体の仕組みづくりに関する比較研究」として、中米ニカラグアとコスタリカをあわせて調査した。HPでは「中米太平洋地域プロジェクト」とまとめて報告する。
ニカラグアのマタガルパ県マティグアス市、キラグア山西麓のラスベガス遺跡を中心とした地域をミュージアムとみたてた地域活性化プロジェクト「プロジェクト・マティグアス」は、2013年以来、当時館長の南博史が代表する国際共同研究、さらに国際文化資料館の外部連携、研究活動として実施してきた。故大井邦明先生が実施されてきた1991年からのグァテマラのカミナルフユ遺跡、および2006年からのエルサルバドルのチャルチュアパ遺跡の考古学調査の成果を踏まえて、あらたに中米地域を対象とした調査を開始した。特徴は南が主張するフィールドミュージアム活動、考古学と博物館を仲介者とした実践的地域研究である。プロジェクト・マティグアスはそのスタートである。
2022年南が館長退任後は、南の個人研究として引き続きニカラグアのほかエルサルバドル、コスタリカの中米地域の大学や博物館、関係研究機関と連携した国際共同調査を行っている。
2019年度からは太平洋側オサ半島のティグレ川流域を対象としたプロジェクト・ティグレを開始している。コスタリカ国内でもっとも経済的に貧しい太平洋側の開発は、コスタリカ政府にとっても地域格差の解消に向けた喫緊の課題となっている。連携機関である国立博物館においても、オサ半島のディキス遺跡の世界文化遺産登録を契機に、この地域の文化財を活用した観光開発を含めた博物館による地域連携活動を試みている。
このオサ半島のプロジェクト・ティグレでは、ティグレ川流域をミュージアムとしてとらえ、豊かな熱帯ジャングルの中に点在する遺跡の考古学調査と博物館活動を通して、地域の活性化につなげたいと考えている。現在活動拠点となっているガジャルド村の文化委員会の要望であるカンタレロ遺跡の調査と保護、活用による地域活性化の要望に応じたものである。具体的には、ティグレ川上流の自然遺産コルコバード自然公園からカンタレロ遺跡などの考古学遺跡を見学するルートを整備することによって観光客を誘導しようという計画である。
なお、国際文化資料館ではコスタリカの3つの博物館(国立博物館、ヒスイ博物館、黄金博物館)と協定を結び、博物館交流活動を進めてきた。また、国立博物館とはこのオサ半島でのプロジェクトについて共同調査を開始したところである。ニカラグアでのコミュニティミュージアムつくりに向けた活動を参考に、ガジャルド村でも地域住民と一体となったコミュニティミュージアムづくりに向けた活動を行いたいと考えている。
コスタリカは、本学の建学精神「言語を通した世界平和を」実現していくために協働するにもっともふさわしい国である。国際文化資料館が行ってきた研究の成果を引き継ぎ、再びコスタリカの博物館と友好交流協定を結び、学生を含めた日本とコスタリカの平和交流につなげていってほしい。
調査期間は、2023年9月2日~9月21日である。具体的な調査は以下である。

ニカラグア・マタガルパ県マティグアス市役所表敬訪問(左手前:駐ニカラグア木村日本大使)

ニカラグア・マタガルパ県ラスベガス遺跡にて

ニカラグア協定校UNICA表敬訪問(中央:UNICA学長)

ニカラグア文化庁表敬訪問(左:ルイス・モラレス文化庁副長官)
| 予備調査 | 2012年 | 3月 | 予備調査としてニカラグアを初訪問する。共同で調査を行うことになるニカラグア国立自治大学のサグラリオ先生にニカラグアでの考古学調査について相談する。 |
|---|---|---|---|
| 9月 | 予備調査としてマティグアス郡ティエラブランカ地区で表面踏査を実施する。サグラリオ先生の案内によって、マティグアス郡ティエラブランカ地区フィンカ・ラスベガスを実見する。 | ||
| 第1次調査 | 2013年 | 8~9月 | マティグアス郡ティエラブランカ地区で表面踏査を継続して行う。ラスベガス遺跡(フィンカ・ラスベガス)にて遺物の表面採集・実測などの分析を行う。 |
| 第2次調査 | 2014年 | 3月 | マティグアス郡ティエラブランカ地区ラスベガス遺跡で測量調査を実施する。 |
| 第3次調査 | 8~9月 | ラスベガス遺跡でマウンド1の発掘調査と測量調査を継続して実施する。 | |
| 第4次調査 | 2015年 | 2~3月 | ラスベガス遺跡でマウンド1の発掘調査と測量調査、周辺地域の踏査を実施する。また、カリブ海岸ブルーフィールズの博物館を初訪問する。 |
| 第5次調査 | 8~9月 | ラスベガス遺跡でマウンドの発掘調査と測量調査、周辺地域の踏査を実施する。また、ニカラグアの北部山地エステリでの博物館収蔵の考古遺物の調査を実施する。 | |
| 第6次調査 | 2016年 | 2~3月 | ラスベガス遺跡でマウンド1の発掘調査を継続して実施する。 |
| 9月 | 第8回世界考古学大会(WAC8)が京都で開催され、南、植村のプロジェクトメンバーはじめ国際文化資料館が全面協力をしていたため発掘調査は実施しなかった。 | ||
| 第7次調査 | 2017年 | 3月 | 1年振りにラスベガス遺跡マウンド1の発掘調査を実施する。IELAK客員研究員の嘉幡茂先生を中心とした測量チームによって遺跡の精密測量を行う。 報告会では、駐ニカラグアの今井日本大使ご夫妻が出席される。紙芝居「コミュニティ・ミュージアムって何?」を発表し、村人から好評を得る。 |
| 第8次調査 | 8~9月 | マティグアス市内にある遺跡の視察を行う。ティエラブランカ地区の小学校では前回(2017年春期)に行ったアンケート調査の報告を行った。 | |
| 第9次調査 | 2018年 | 2~3月 | ラスベガス遺跡マウンド1の発掘調査を再開する。また川合剛先生(名古屋市博物館)らによる遺物分析を実施する。マティグアス郡内にプロジェクトの拠点となる事務所を設立する。 |
| 第10次調査 | 8~9月 | ニカラグアにおける治安悪化のため調査を中断する。 | |
| 第11次調査 | 2019年 | 2~3月 | ラスベガス遺跡マウンド1の発掘調査を実施する。一方、ティエラブランカ地区住民への報告会の実施だけでなく、子どもを対象とした考古学ワークショップを行う。 |
| 第12次調査 | 8~9月 | 2019 ICOM京都大会開催のため調査は実施していない。 | |
| 休止 | 2020年 | 4月~ | コロナウィルス感染拡大による渡航の中止。 |
| 2021年 | コロナウィルス感染拡大による渡航の中止。 | ||
| 2022年 | ~7月 | コロナウィルス感染拡大による渡航の中止。 | |
| 調査再開準備 | 8~9月 | 調査再開に向けての現地訪問と協議(エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ) | |
| 2023年 | 9月 | 国立ニカラグア自治大学考古学情報機関のメンバーと意見交換を行った。 ニカラグア、ラスベガス遺跡近隣のティエラブランカ村の村長ほかと意見交換を行った。 |
このムービーは、現地のカウンターパートであるANIDES(The Nicaraguan Association for Sustainable Development)に所属していたボランティアスタッフが製作しました。
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