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ロシア語圏の豆知識

2025/04/16 17:30:00 ベラルーシの伝統模様をビーズで編んでみた

  • Categoryロシア語圏の豆知識
  • Posted by三好マリア
 こんにちは!京都外大ロシア語学科の三好です。大変ご無沙汰しています。

 大学の長期休暇中、教員たちは何をしているのか、考えたことはありますか?
もちろんまずは試験の採点や成績の入力、授業準備、個人研究などをします。
でも、それが一段落すると・・やっと、自分の趣味にじっくり取り組める時間がやってきます。私の趣味はビーズ編みなので、2024/2025の年末年始に「世界各国の伝統模様をビーズで編む」というチャレンジプロジェクトを立ち上げることにしました(^^;)

 最初に取り組んだのは、もちろん自分の故郷・ベラルーシの模様です。ベラルーシの伝統模様といえば、赤と白の幾何学的なオーナメント。民族衣装には必ずと言っていいほど刺繍として施されており、テーブルクロスやナプキンなどにもよく見られます。白はベラルーシ人の肌や髪を象徴し、赤はなんと、日本と同じく太陽を意味します(詳しくは前の記事を見てね)。太陽は豊作と深く関わっていることから、赤は命や健康の象徴でもあるのです。こうした模様の中でも、特に頻繁に登場するのが、「火・豊かさ・春・心・いのち・大地・美しさ・若さ・たね・先祖・繁栄・太陽・家族・豊作・清らかさ・力」といったシンボルで、どれもベラルーシ人が昔から大切にしてきた、願いのこもったモチーフです(写真1)。

 私はまず、大きめのビーズで比較的シンプルな模様からスタートしました。
簡単なものをすべて編み終えたところで、それらを早速研究室前のフェルトボードに飾りました(写真2)。
その後、もっと複雑な模様に挑戦しましたが、それにはより小さなビーズが必要でした。苦戦しながらも、なんとか完成させることができました!(写真3)

 次はロシアの伝統模様にも挑戦!あのブルーと白だけの「グジェリ」(ロシアの伝統的な陶器の絵付け)をモチーフに、さらにいくつかのピースを作ってみました。(ベラルーシの模様もそうでしたが、ネットで見つけた写真を参考に、製図はゼロから自分で考えました。)が、ちょうどその頃、年末年始が終わったので、プロジェクトも一旦お休みになりました(T T)

 次の休暇に入ったら、今度は、ロシアのもう一つの伝統的な絵付けである「ホフロマ」にも取り組む予定です。中央アジアの国々の伝統模様もぜひ作ってみたいと思っています。(というのも、本校は中央アジアとの交流が盛んで、ロシア語学科の学生が2年生の時に必修の短期留学に行くのも中央アジアだからです。)さらに、ウクライナやポーランド、チェコなど、他の多くの国々の伝統模様にも挑戦するつもりです!アイヌの模様にも!

 これから、ロシアのグジェリを含む完成作品の写真を、少しずつこちらで紹介していきますので、どうぞお楽しみに!
  • ベラルーシの伝統模様に頻繁に登場する要素(www.symbal.byより)
  • 三好研究室前のフェルトボードに飾ったビーズ作品
  • より小さなビーズで編んだ、今後飾る予定のピース

2024/10/24 19:00:00 黒でも良いイメージ?

  • Categoryロシア語圏の豆知識
  • Posted by三好マリア
 ご無沙汰していました。色彩のテーマの続きとして今日は「黒」という色です。黒色に対するロシア語圏の国々で昔から受け継がれてきたイメージについてお話しします。

 「黒」といえば、欧米では黒猫に道を横切られると不幸なことが起こるという迷信があったり、日本でも「ブラック企業」という言い方があるぐらいだから、「闇、不吉、孤独、死」といったマイナスイメージを漂わせる色のようですが、昔のロシア語圏の人々の間では、マイナスどころか実は凄くプラスなイメージをもった色だったのです。なぜなら、それに二つの大事な連想が関わっているからだと思われます。

 まず、一つ目は土です。土が肥沃であればあるほど色が黒いらしいです。今でも、作物が最もよく育つとされる非常に肥沃な土の種類のことをロシア語でчернозём[チェルナジョーム]と言いますが、черно-は「黒」、-зёмは「土」という意味なので、要するに「黒土」のことです。因みに、この「黒土」を日本語で検索してみると、なんと「チェルノーゼム」というwikiの記事がヒットするのです。ここで皆さんは一瞬「あれっ?」と思いませんでしたか。先ほど、黒土のことをロシア語で「チェルナジョーム」と言うと書いたと思いますが、この「チェルノーゼム」は間違いではないか、と。筆者も知りませんでしたが、実はwikiの「チェルノーゼム」はウクライナ語の発音なのです。どうしていきなりウクライナ語かというと、(これはソ連生まれ育ちの筆者も流石によく知っていたのですが)実はユーラシア大陸の中で特にウクライナが黒土に恵まれているのです。おかげで、ウクライナは昔から農業がとても盛んな国でした。筆者も実は畑仕事が大好きで、ウクライナではなくベラルーシでですが、子供の頃からчернозёмとたくさん関わって来ていますが、手触りから何からとても立派なお土なので、昔の人々がその連想から黒色にプラスイメージを持ったのも全然理解できます。

 さて、もう一つの連想は何でしょう。それは、чёрный хлеб[チョールヌィイ・ホゥリェープ]と言って、他でもないあの黒パンです。アジア側はやや違いますが、ヨーロッパ側のロシア語圏の人々にとって、黒パンは主食なのです。スープやマッシュポテト、目玉焼き、お肉などなど、どの料理とも一緒に食べます。ロシア語圏の黒パンは表面が固く、噛み応えがあって、ほんのりとした酸味もあって、独特の食感と味を誇ります。そして、この黒パンも、やはり黒ければ黒いほど栄養分が多く健康に良いらしいです。黒パンの主な材料となるライ麦粉ですが、もともと黒味がかかっており、そこにさらに、皮や胚芽を残して精製度を低くすることで焼き上がったパンをもっと黒くすることができます。

 ここで筆者が黒パンについて調べたことをいくつか共有したいと思います。まず、ロシアでの黒パンの人気の理由の一つは、ロシアの土地が昔から他のどの穀物よりもライ麦の栽培に適していたことにあります。また、ライ麦パンの方が小麦パンよりも栄養価が高く保存性も良いから、長い冬を乗り越えるのに大いに役立っていたので、階級や地位に関係なしに、君主たちも一般農民もみんな同じ黒パンを食べていました。(これは、貧乏人と下級の召使いしか黒パンを食べなかったというイギリスや他のヨーロッパの国々とは大きく違うところでもあります。)

 因みに、筆者は日本のスーパーでもよくライ麦パンを見かけるのですが、ロシア語圏の黒パンのように色が本当に黒いものは希少品です。見かける度につい衝動買いしてしまいがちです。

 さて、最後になりますが、ロシア語圏の人々の「黒」の感覚と、日本人のそれとはどうも微妙に違うらしいです。特に、筆者が昔から理解できずにいていつか誰かに教えてほしいのが、日本人の「肌が黒い」という発想です。できれば、反対の「肌が白い」もセットで教えてほしいのですが、「白」の感覚についてはまた次回お話ししたいと思います。

  • 耕したての黒土畑の風景(https://agroexpert.mdより)
  • その形から「レンガ」とも呼ばれるロシア語圏によくある黒パン(http://ru.freepik.comより)
  • どの伝統料理レストランのメニューにも必ず載るという大人気名物「ガーリッククルトン」(http://ru.freepik.comより)

2024/09/08 16:30:00 昔のロシアの太陽は赤かった

  • Categoryロシア語圏の豆知識
  • Posted by三好マリア
いきなり質問します。皆さんの太陽は何色ですか。日の出を象徴するあの白地に赤の「日の丸」を国旗にしているくらいですから、日本の太陽は間違いなく赤いです。日本人の子供に太陽を描かせれば赤いのが多く返って来るでしょう。一方で、眩しいからなのか、砂漠の国の太陽は白いイメージがあるらしいです。そう言えば、中央アジアのカラクム砂漠を舞台にした「Бе́лое со́лнце пусты́ни(砂漠の白い太陽)」というソ連時代の映画がありましたね。

しかし、なんと、ロシアの太陽はいずれとも違います。黄色なのです。夕日ではない昼間の太陽なら、ロシアの子供たちはみんな黄色く描くに違いありません。ちなみに、ベラルーシと日本のハーフである筆者の息子に聞いたら「オレンジ色」と言っていました。なるほど、血が混ざれば太陽の色まで混ざるのですね。

赤は日本では情熱や活力を意味することで知られています。だどすると、地球上の活力の源である太陽が赤いのも十分納得できます。では、黄色はどうでしょう。黄色を狂気の色として貫いていたドストエフスキーや、精神状態が悪化していた時にこそ黄色を多く使っていたゴッホなどはさておいて、黄色を愉悦や幸福、そして(純金の色でもあることから)裕福の色とする文化が多いようです。そう考えたら、人を元気にさせ喜ばせるという太陽が黄色いのも分からなくはないですね。

しかし、ここで一つ、ロシア語母語話者でも意識したことのある人が少ないという情報を皆さんと共有したいです.実は、古代ルーシ(昔のロシアの名前)では、日本と同じく太陽は赤かったのです。当時の衣装やカーテン、テーブルクロスなどに太陽を意味する模様の刺繍をよく施していましたが、全部白地に赤でした。また、赤は何よりも血の色であり、青白く貧血気味の顔よりも血の巡りが良く赤くて元気そうな顔(ほっぺた、唇)の方が美しいとされていました。赤=元気、という意識から、赤=美しい、という発想が生まれたわけです。кра́сно со́лнце(赤日)もそうですが、кра́сна де́вица(赤い娘→美女)、кра́сно словцо́(赤い言葉→名言)といった語句が、枕詞のようなものとしてロシアの古典にも定着していたようです。

ロシアの古典といえば、見た目に一つ大きな特徴があります。添付写真にもありますが、各段落の頭文字が赤色で大袈裟なほど大きく美しく綴られていました。Писа́ть с кра́сной строки́「赤い行から綴る」という表現がその時に生まれ、現代ロシア語でも「改行して書く」という意味で受け継がれ、日常的に使わられています。

因みに、「赤の広場」というモスクワの名所はご存知ですか。実は、赤の広場も、煉瓦だから「赤」とかソ連だから「赤」とかではなく、美しいから「赤」なのです。しかも、あの広場はずっと「赤の広場」と呼ばれていたわけではなく、17世紀後半にそこにロシア正教の聖堂などの美しい建物が建てられるようになってからそう呼ばれるようになり、それまでは「売買の広場(Торг)」や「火事の広場(Пожа́р)」と呼ばれていたらしいです。

赤が、活力の色でもあると同時に攻撃性・危険を象徴する色でもあったり、また、黄色も、愉悦を表す色であると同時に狂気の色でもあったりするように、色彩というのは一見矛盾している部分はあっても、人間の様々な感情や意図を表現するための欠かせない手段であり、その地域や民族の文化に深く根ざしている要素でもあるので、皆さんも学んでいる外国語の国の色彩について今度調べてみてはどうですか。

ロシア語圏の国々の色彩についても、筆者はまだまだ言いたいことがたくさんあるので楽しみにしていてください。
  • ロシアの伝統人形マトリョーシカも、ほっぺたと唇が赤く塗られている(写真はロシア民芸品協会のHPより:https://nkhp.ru/)
  • 頭文字を朱墨で美しく綴られた古典の原本(写真はロシア文化省主催プロジェクト「Культура.РФ」のHPより:https://www.culture.ru/)
  • 少し珍しい角度から撮られた赤の広場(写真はモスクワ市観光プロジェクト「МосКультура」のHPより:https://moskultura.ru/)

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