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プロジェクトの概要

ウズベキスタンでのフィールドミュージアム研究は、1990年ウズベキスタン初の世界文化遺産に登録された「イチャン・カラの博物館都市」の持続可能な発展を目的として、南博史(2020年3月31日まで国際文化資料館館長)が研究代表者となって2017年から本格的に開始しました。また、この研究は、元国際言語平和研究所所長で名誉教授の堀川徹先生が1992年から長年にわたって国際共同による学術調査を実施されてきた「シャリーア法廷文書収集・研究プロジェクト」の実績とご縁を背景にしています。

世界遺産イチャン・カラは、ウズベキスタン西方、ホラズム州ヒヴァの旧市街に残る16世紀に築かれたヒヴァ・ハン国都城の内城です。日干し煉瓦と土で作られた宮殿やモスクなどの歴史的建造物が残っています。さらにここには今も多くの住民が暮らしており、イチャン・カラを訪れる観光客を相手にした飲食業やホテル、おみやげ物屋さんなどを営んでいます。まちが博物館!まさにフィールドミュージアムです。

しかし、日干し煉瓦と土で作られた伝統的建造物は放置すると劣化が進み、また博物館として使用されている建造物内の展示環境も空調は無く、外気と直接接触していることもあって決してよくありません。ここに暮らす住民も冬期には観光客が減るために出稼ぎに出る人も多いようです。世界遺産がゆえに生活にもさまざまな制限があるようです。こうした課題を解決するための実践的研究がこのプロジェクトの特徴です。

国際文化資料館や学芸員資格課程では、外部連携活動としてこのプロジェクトに連携しています。住民の生活と世界遺産が一体となった例として、世界遺産を保存しながら住民の生活を向上させていくことが課題です。また、ウズベキスタンの協定校であるタシュケント東洋大学では日本語教育が盛んということもあって日本語学科との交流、国際貢献学部グローバル観光学科による観光学からのアプローチなど、学内の学部学科を横断するプロジェクトとしても取り組むことができます。

調査経緯一覧

調査年 時期 調査地・おもな調査テーマ 調査概要 調査参加者 備考
2015年 8月 タシュケント、ヒヴァ、サマルカンド 堀川徹先生代表による現地調査に同行。 堀川 徹、磯貝 真澄、磯貝 健一、木村 聡、南 博史  
2017年 2月 ヒヴァ 収蔵庫へ記録式。伝統的建造物内設置の展示ケースに温湿度計設置。自動記録を開始。 堀川 徹、木村 聡、南 博史  
9月 ヒヴァ 温湿度のデータを回収、冬期→夏期の変化を明らかにすることができた。 堀川 徹、木村 聡、南 博史 科研費挑戦的萌芽研究による
2018年 2月 ヒヴァ、伝統的建造物現状調査 保存科学の分野から内城の建造物および内壁の保存状況を観察する。とくに水問題が指摘される。 堀川 徹、木村 聡、松井 俊也、南 博史 同上
8月 タシュケント博物館調査、ヒヴァ 学芸員資格課程海外フィールドワーク「ウズベキスタン世界遺産見学」をヒヴァの調査に平行して実施。 木村 聡、南 博史、学生2名 同上
2019年 1月13日 中央アジアシンポジウム(東京外国語大学主催) 講師で来日したフダーイベルガノフ講演のディスカッタントとして発表。 木村 聡、南 博史  
2月 ヒヴァ、新館長へ挨拶、住民と博物館職員を交えた国際会議開催 持続可能な世界遺産に向けて課題となる水問題をテーマにあげ、住民と博物館が一体となって博物館活動を行うことの重要性を指摘、テレビ局撮影。城内の井戸水位調査開始。 堀川 徹、木村 聡、今村 栄一、南 博史 同上
7月6日 東北学院大学アジア流域文化研究所公開講演会 木村、南が発表を行う。 木村 聡、南 博史  
9月 ヒヴァ、伝統的建造物現状調査 松井氏の指示を受けて城内主要な建造物の外観を調査。新しいプロジェクト計画作成、科研申請目指す。 木村 聡、松本 拓也、南 博史 学内共同研究
2020年 2月 ヒヴァ、新プロジェクトによる調査開始、博物館協定向け協議 水利研究に向け文献調査開始。塩害調査のため城内および城壁でサンプルを採取。 堀川 徹、木村 聡、松本 拓也、南 博史 同上
新型コロナウイルス感染拡大のため、2020年2月以降は現地調査を中断。2022年度調査再開に向けて準備。
2023年 2月 ヒヴァを訪問し調査再開に向けて協議
フェルガナ地方陶器工房、織物工房とまちづくり調査
ヒヴァ:博物館職員へのゼミ開催。クラックゲージの回収。世界遺産保存についての教育普及展示室開設にむけた事前調査
フェルガナ:リシタンの陶器工房、マルギラン織物工房調査
堀川 徹、南 博史 同上
8月 ヒヴァ保護区博物館での調査 ヒヴァ:博物館職員へのゼミ開催。クラックゲージの確認。JICAウズベキスタン事務所での協議。 堀川 徹、木村 聡、南 博史、学生1名 同上

おもな調査テーマ

2017年~2019年:
ウズベキスタン世界遺産ヒヴァの持続可能な発展・開発のための実践的博物館の研究

イチャン・カラ中央道路

イチャン・カラ最古の建造物であるジュマ・モスク内木製列柱室にて温湿度計の設置

2020年~現在継続中:
世界遺産ヒヴァの持続可能な開発に課題となる「水」問題の解決に向けた博物館の挑戦

城壁劣化状況の調査

イチャン・カラ内井戸水位の計測

2022年~2023年:
世界遺産を共通項としたウズベキスタンと日本の国際的平和貢献に取り組む博物館協働研究

「世界遺産を共通項としたウズベキスタンと日本の国際的平和貢献に取り組む博物館協働研究」として、2023年2月に現地調査を行った。

報告1:世界遺産ヒヴァ国立博物館保護区

1. ヒヴァ国立博物館保護区との協議

1年前に着任された博物館新館長Shakir Madaminov先生と面会し、ヒヴァに関する国の観光政策などの現状について説明を受けた。また、カーミルジャン研究部長との研究協議の中では、建造物の保存修復にかかる経費獲得に苦労しているとのことであった。(写真1)
一方、3年前に設置したアルタミノル塔とパフラヴァン・マフムド聖廟の結果を踏まえて、博物館職員へのゼミの実施の依頼を受け、約10数名の研究員、職員に2つの建造物の今後の確認方法について説明した。(写真2)

2. 伝統的建造物に設置したクラックゲージの確認

アルタミノル塔:クラックゲージに変化は無かったが、地上から約3mあたりは、補修部の剥落など多くのダメージあった。
パフラヴァン・マフムド聖廟:一部に傾きと博物館側がマークしている紙の破れが目立った。(写真3)
なお、3年前の写真との比較も含めてできるだけ早く報告書を提出。アルタミノルについては、耐震などの専門家の調査と評価が必要と伝えた。一方、カーミルジャン先生から城内の井戸一年通して水が無くなったと報告。3年前の調査で明らかになった塩害と生活雑排水との関係をあらためて説明したが、この3年間で職員の方にも理解がすすんでいるように思った。

3. 展示室候補調査

3年前までの調査をもとに城内に伝統的建造物の保護にむけた教育普及施設の設置を提案していたが、今回それを踏まえた展示室候補の提案があった。場所は、西門入って左手にある本屋さんの隣の部屋、現在インフォメーションセンターに使われている。ここをリニューアルして、インフォメーションセンターの機能にあわせ、文化遺産の保存修復にかかる展示室を設ける展示案を南が作ることになった。
ここには展示だけではなく、観光客、さらには地元のこどもたちや住民に対して遺産をみんなで護る意識を持ってもらえるようなワークショップを実施したいと考えている。
なお、具体的な準備を進めるにあたっては、学芸員資格課程履修生にも関わってもらえるような仕組みも今後考えてみたい。(写真4)

写真1:イチャンカラ国立博物館保護区館長先生、幹部の方々

写真2:博物館職員向けゼミナール

写真3:パフラヴァン・マフムド聖廟の調査

写真4:イチャンカラ国立博物館新ガイダンス展示室予定建造物

報告2:フェルガナ地方の調査

今回の調査では、はじめてフェルガナ方面での伝統工芸製作にかかるリシタン(陶芸)、マルギラン(織物)の2つの町を訪問して工房見学、まちづくりにかかる聞き取り調査を実施した。(写真5、写真6)
リシタンやマルギランでは、研究の目的である歴史的景観まちづくりという視点からは、両市とも近年の大規模な道路整備のため残念ながら往時の面影はなかった。一方、各工房では昔ながらの行程と天然材料を用いたものづくりがあり、シルクロードを通した京都の織物、陶芸という共通点を見出すことができた。
フェルガナ州立国立歴史文化博物館の見学調査を実施した。博物館は現在1階エンタランスと3階の展示ソーン(企画展示室の設置)のリニューアル中。解説員の方に展示室を案内いただいた。構成は、大きく2階のフェルガナ地方の地質・古生物、自然、動植物、産業(絹、綿)と考古・歴史、民俗と3階の美術展示室(企画展開催中)からなる。
2階の展示室の展示ケースは古く、壁面ケースのガラス、アクリルはかなり汚れていた。また、ジオラマや模型、展示パネルなどもかなり老朽化している。展示資料についての解説はほとんどがキリル文字。英文は一部のみ。
これからの博物館がもとめられている役割を踏まえると、博物館学の知識提供と実践的博物館活動、マネジメント面でのサポートが重要と思われた。

写真5:マルギランの織物工房

写真5:マルギランの織物工房

このほか、JICAウズベキスタン事務所で現地の博物館、文化財保護、観光政策についてレクチャーを受けるとともに、ヒヴァでの調査の目的や現状などを報告、今後の連携につながればと思う。



「世界遺産を共通項としたウズベキスタンと日本の国際的平和貢献に取り組む博物館協働研究」として、2023年8月に現地調査を行った。

ウズベキスタンの世界遺産「ヒヴァの博物館都市」の持続可能性についての研究は、本学堀川徹名誉教授が実施した文献史学研究の成果の活用として、当時館長の南博史が代表する国際共同研究、さらに国際文化資料館の研究活動として実施してきた。2022年南が館長退任後は、南の個人研究として引き続き国際共同調査を行っている。
2023年度も堀川先生、東京外国語大学木村聡先生の日本チームとヒヴァ博物館保護区研究部長のカミルジャーン先生との共同調査を学内競争資金である他機関連携「世界遺産の持続性にかかる住民主体の仕組みづくりに関する比較研究(ウズベキスタン世界遺産ヒヴァ)」として実施した。
調査期間は、2023年8月24日~8月30日である。今回の具体的な調査は以下である。

1. ヒヴァ保護区博物館での調査

世界遺産の入口にあるガイダンスセンターを、遺産内の歴史的建造物の持続性に影響がある課題をテーマにした展示室にリニューアルする方法を提案していた。2023年2月の調査後にレイアウトした展示案に沿って、博物館職員とのゼミにて具体案を提案した。
また、引き続きアルタミノル塔とパフラヴァン・マフムド聖廟におけるクラックゲージの確認を行い、双方に見られた変化を同じく博物館職員とのゼミの中で報告し、今後の注意と対応を依頼した。
博物館職員に向けたゼミナールは、上記の報告のほか、職員アンケート調査を実施した。その結果、2015年以来進めてきたプロジェクトとの協働もあって、職員の方に理解がすすんでいることがアンケートから明らかになった。

2. JICAウズベキスタン事務所での協議

日本への帰国の直前にJICAウズベキスタン事務所を訪問した。4月に新しく着任された三島健史さんと意見交換を行った。
具体的には、ヒヴァの伝統的建造物の保存修復、水と塩害問題など遺産の持続性に課題のある中、住民と観光客をいかに巻き込んでいくかがプロジェクトの特徴という取り組みを説明し、興味を持っていただいた。そのうえで今回、展示室案を提案したことなどを伝えて、JICAの協力支援の可能性について意見を伺った。

まとめ

個人研究としてのウズベキスタンの調査は2年目となった。研究資金の確保に苦労しているところである。一方、本学と協定を結ぶタシュケント東洋大学にはロシア語学科3年生の荒岡香梨子さんが初めて半期ではあるが留学した。荒岡さんは学芸員課程の履修生でもあり、引き続きウズベキスタンの危機遺産、ヒヴァのあるホラズム州考古学の研究を目指している。国際文化資料館で実施してきた外部連携活動の成果ともいえる。
また、今回は南のゼミ生で英米語学科3年生の安井大遥さんが参加した。こうした学生参加もウズベキスタンのプロジェクト特徴である。あくまで自己責任での参加であるが、これからもゼミ生や学芸員課程の学生の参加の機会を設けていきたい。

参加者記念撮影

世界文化遺産ヒヴァ:アルタミノル塔調査

世界文化遺産ヒヴァ:パフラヴァン・マフムド聖廟調査

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