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2024/12/12 19:50:00 宇治市源氏物語ミュージアム館長に聞くー『源氏物語と今』ー【全文】vol.3

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読み継がれていく物語

榎本:最後は、本当にシンプルな質問なんですけれども、あの、『源氏物語』が今もなお読み継がれている理由っていうのを、お話しいただければ。
家塚:まずは読み継がれていることがすごいと思いますね。今読んで、千年前にこんな面白いことがあったんだなすごいね、って再評価されているのではなくて、ずっと常に読者がいたこと。それがその時代によって解釈されて。注釈書も出ているわけじゃないですか。常に最新のメディアを通して発信されている。だから、『源氏物語』ができて約百年後というのが、大絵巻ブームで、優れた絵師に描かせた絵巻物ができる。それが、九百年ぐらい前にできた国宝「源氏物語絵巻」と言われている絵巻物です。
一方で、『源氏物語』を真似た短いお話を作っていく。それは残らなかったんですが。
戸田:残ったのは『更級(さらしな)日記』ぐらいですね。
家塚:菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ)も、本当に共感しますね。あと藤原俊成(しゅんぜい)は、その「源氏見ざる歌詠みは遺恨の事也」と言っています。『源氏物語』の中には795首あるから、やはりすごい一大歌集なんですよね。だから歌人ならば『源氏物語』の和歌は読んでるよねって、知ってるよねって。それを踏まえて、歌詠まないといけないよねっていう。俊成が言ったので、鎌倉時代以降の人はみんな、源氏の歌を読んだ上で歌を詠むとか。
榎本:理解しておかないと、歌すら読めない。
家塚:周りも理解できない。本人は『源氏』を踏まえて読んでいるのに、この歌そんな面白くないよねって言ってしまうと、君はそもそも『源氏』を知らないのか、みたいな。
榎本:(笑)
家塚:もうなんかね、いたたまれないでしょうね、その会話もね。室町時代になると能が流行れば、『源氏物語』の能もできる。屏風にも浮世絵にもなる。今にいたっては大河ドラマになります。源氏供養を踏まえた『刀剣乱舞』も。最近一番びっくりしたのは、今日(※1)までかな、歌舞伎座で『源氏物語』やってるんですね。
榎本:あ、やってるんですね。
家塚:(坂東)玉三郎が六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)で。
榎本:えー!ものすごく見たいです。
家塚:玉三郎って、2000年にやったときは藤壺だったんです。今回、光源氏が(市川)染五郎なんです。
常に最新のメディアで、今、話題の人が光源氏を演じています。古くは市川雷蔵もあったし長谷川一夫もあったし…宝塚でもやるし、いろいろやるけど、ついに玉三郎の六条御息所に対して染五郎かぁ、一番若いところにきましたよね。
榎本:そうですね。でも、確かに今、光源氏できるのは彼かもしれないですね。
家塚:ね、納得しますよね。最初はえっと思っても。
榎本:そうか、でも六条御息所、観たいですね、お岩さん並みに怖いでしょうね。
戸田:めちゃくちゃ、これは呪い殺されても仕方がないとか。
榎本:ああいう何か、生きているのか生きてないのか分からないとうのを演じさせると、もう玉三郎の上を行かれる方いらっしゃらないですよね。
家塚:玉三郎さんの六条御息所に対しての、その染五郎っていうことが、これはネタにできるな、と思いました。
やはり常に読まれるだけではなく、新しいものが生まれてくるっていうところが面白いなと思います。し、それがね、大河ドラマがきっかけだったのかもしれないですけど。でも、大河ドラマだけにとどまってないわけじゃないですか。大河でブームですねって言いながらも、染五郎が光源氏とうのは、一歩二歩進んでいる。多分こういうふうにして『源氏物語』って読まれているんだろうなと思いますね。
榎本:その時代、その時代に、合わせてというか。
家塚:合わせているのか、先を行っていくのかが、ちょっとわからないところありますけれども。だから、やはり社会現象になるんでしょうね。
榎本:いやあ面白い。
戸田:だから、それだけ後の時代の、時代を経た人でも、この題材で何かを作ってみたいと思わせる魅力があると。
家塚:あると思いますね。でも、なんだろうなと思うんですよね。でも、それが本当に『源氏物語』のテキストだけ、テキストからではないような気もするんです。だから本当に今、二次創作と言いましたけど、二次三次四次という流れで、作られていることも多いかと思います。能の「葵上」原作からすごくかけ離れちゃってるけど、600年経ったら、古典じゃないですか。
榎本:そうですね、古典になりましたね。
家塚:あと、大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』の影響も多大です。
榎本:ああ私も、もう完全にそうです。中学とか高校時代に読んだので。
家塚:この漫画を読んだ世代には、『源氏物語』の内容が、知らず知らずに刷り込まれています。特に人物造形については。本文には書いていないこと、特定していないこともたくさんあります。たとえば夕顔にとりついたのは誰かっていう問題はあるわけなんですよね。で、本文には誰とも書いてないんです。だけど六条御息所だと思っていますよね。
榎本:はい。思ってます(笑)。
家塚:室町の注釈書にも六条御息所、って書いてあるんですよね。で、それは一説なんです。だけど、『あさきゆめみし』の中では完全に六条御息所です。知識っていうか、解釈のベースになってくらい影響を与えてる、と指摘された論文を読みました。
榎本:なるほど。大和和紀さん、すごい絶大な影響力。
戸田:結局あれですよね、「葵」の巻で、葵の上を六条御息所が取り殺すところが強烈すぎるんで、じゃあ、この女の生霊としたら六条御息所だろうって、みんな思ってしまって。
家塚:六条御息所の影はあるけれど、本当は一切書いてない。いくつか説はあるけれど、でも視覚化するとやはり、これも文字の面白いところで、文字だけだったら誰でもいいわけじゃないですか。そこは想像できるけれども、視覚化することによって、固定しなくちゃいけないですよね。
榎本:なるほど。すごいです『あさきゆめみし』絶大な影響力ですね。
家塚:侮ってはいけないですね。
戸田:そうなったら、中にはこの元の話どうなんだろう、って気になって『源氏物語』本体を手に取る人が出てくる。
榎本:多いですよね、漫画から、じゃあ誰かの現代語訳にいこうっていう方は。
戸田:映画を見て、これ原作あるのか、じゃあどんな話なのか、ちょっと読んでみたいな、って。
家塚:日本の話だけではなくて、それで外国語に興味を持つ人も多いわけじゃないですか。だから何がきっかけなのかというのは、何でもいいのかなと。
榎本:そうですね。
家塚:もう一つ思うのは、何でもデジタル化されているじゃないですか。だけど、これ、このデジタルっていうものは千年後とかどうなっているのか、と、ふと思うことがあって、でも紙だったら、千年後は残らないものも多いけど、でも、かろうじて残っていくっていう。
紫式部の和歌にもあるんです、この書き留めたものは誰が読むのだろうか…いや書き留めているから残ってるでしょ、そういう歌を詠んでるってすごいなと。
と、いうことで、皆さん図書館に行きましょうというオチですよね。
榎本:(笑)はい、ぜひ紙媒体も。
家塚:本は装丁もね。
榎本:大事です。装丁は大事。
家塚:与謝野晶子の源氏がそうですよね。与謝野源氏って、装丁がとても綺麗なんです。
榎本:与謝野晶子の本って、全て装丁が綺麗ですよね。
家塚:そうですね、もうミュシャだし。だけど、与謝野源氏のあの装丁があるから『源氏物語』の本って、谷崎源氏も、本の美しさがあるのかと。
谷崎源氏は、「桐壺」の中扉を描いてるのが安田靫彦(ゆきひこ)なんですね、挿図も安田靫彦や、前田青邨(せいそん)だったりで、谷崎潤一郎と同じ時代に生きた日本画家が描いているので。やはり『源氏物語』の本の装丁も貴重と思うんですけど、それは与謝野晶子が最初かなと。彼女は、江戸時代に出版された絵入りの『源氏物語』を大事にしていたといわれています。江戸時代に版本で出て、また流行するんです。
榎本:やっぱり百年後に絵巻ができたというのが大きいのかもしれないですよね
家塚:そうですね。
あと室町になると屏風になります。『源氏物語』って、読むのは大変ですけど、絵がどんと「源氏です」とあると、あー源氏だ!ってやはり思いますよね。婚礼調度にもなります。あと今、春画の展覧会を細見美術館(※2)でやっていますけれども、大名のお姫さまたちの婚礼調度に、源氏の春画持っていくんですよね。
榎本:そうなんですか?!
家塚:何て立派な豪華装丁春画!と思ったら、婚礼調度だそうです。
榎本:へえー!
家塚:はい、源氏なんですよ。それは『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』をベースにした春画。何でも源氏なんですよね。
榎本:『源氏物語』を題材にした春画、っていうのがあるんですね。
家塚:それはしやすいですよね。
榎本:そうですね確かに。
家塚:はい、記録にも室町時代の伏見宮貞成親王の日記『看聞(かんもん)日記』には、枕絵について出てくるんです。
榎本:そうなんですか『看聞日記』に、ありとあらゆるところで。
家塚:そうなんですよね。
戸田:その春画の題材になるような話を書いたから、紫式部は地獄に落とされたっていう。
榎本:言われてますよね。
家塚:でもね、正確に言うと、題材よりも、何がいけないかっていうと、嘘ついたことなんですよね。
戸田:創作をしたっていうこと。
家塚:創作っていうのは嘘じゃないですか。仏教の教えでは、嘘というのはいけないんですよ。
戸田:嘘って現実にないことだから。
家塚:だから、嘘をついたっていうことで地獄に落ちるんです。物語というのは嘘なので。
榎本:へえ、じゃあ、作家は全員嘘つきってことになるんですね。
家塚:はい。
榎本:あらーそんな…。
家塚:でも、その裏返しで石山寺の観音の化身なんです。
榎本:(笑)
戸田:結局、小野篁(おののたかむら)が助けてくれて。
榎本:そうですね。お隣で頑張って。
家塚:隣でね。だから、そういう話もなんかちょっとずつ、いろんなところでくっついていくという。
榎本:後付けでみんな楽しんでいますね。
(一同):(笑)
家塚:こうやって笑えるじゃないですか。だから、結構皆さんよく昔から、なるほどって思っているんだろうなと。
いやあでも、でもちゃんと本当にうまくできていますよ。嘘も方便なんで全て。方便として、紫式部は『源氏物語』
を書きました。だから石山寺の観音の化身として、方便、使いましたという救いが。
戸田:その嘘によって、衆生が救われたというか、楽しんでくれたからっていう。
家塚:本当に、嘘も方便って便利だと思ったけど、でも説話でもそう書いてあるし、その辺をうまく作って拾って、
能の『源氏供養』にもなっていますし。
榎本:いやあ、面白いですね。本当にこんなに『源氏物語』広がっていくものなんですね。
家塚:そうですね。ありがとうございます。
榎本・戸田:ありがとうございました。

※1 インタビューは10月25日(金)に行われ、歌舞伎座での『源氏物語』公演が含まれた「錦秋十月大歌舞伎」は26日(土)に千穐楽
※2 細見美術館「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」展は、9月7日(土)~11月24日(土)開催
  • ミュージアム内にある図書館
  • 瀬戸内寂聴さんの『源氏物語』
  • 『源氏物語』の香りのコーナー

2024/12/12 19:40:00 宇治市源氏物語ミュージアム館長に聞くー『源氏物語と今』ー【全文】vol.2

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平安時代の女性と学問

榎本:ではもう一つ、書かれたその巻がまず年代順になってないっていうのは何故かっていうところで。年代中に整理されたのはいつからなのか、紫式部本人が編集したのか、というのを知りたいなと。
家塚:それこそね『源氏物語』研究の大きなテーマですよね。
戸田:あ、そうなんですね。
家塚:書かれた順になってないっていうのは、そもそもどこから書いたかっていうのも、大きな問題であって。もう一つ言うと、『源氏物語とその作者たち』っていう本も出ているぐらいなので、『源氏物語』の作者が誰なのかっていうのも、大きな研究テーマなんです。わかりやすく言うと、宇治十帖を誰が書いたかとか。別人説っていうのは、ずっとあるんですね。あと玉鬘(たまかずら)十帖も別人説とか。大きな研究の課題だと思います。
戸田:解明されるのでしょうか。
家塚:いやあ、これは解明されたら面白くないかも知れないですね。
本当に、『源氏物語』の大きな課題というかテーマです。一般的には「帚木(ははきぎ)」くらいから書いて、「若紫」ぐらいまでは、ちょっと身近な話じゃないですか。出てくる人が別に光源氏じゃなくてもよくて、中流貴族の女性が、誰かに出会うみたいな話というのは、身近な話ですよね。それが全部光源氏になって、だんだん宮中の政治の世界になってくると、「女房が見た」。
榎本:(笑)
家塚:「桐壺」はどの時点で書いたのかとかもありますけど。「桐壺」は一条天皇と定子(ていし)の問題に注目されています。昔から「長恨歌(ちょうごんか)」だと言われています。だから「長恨歌」をベースに、一条天皇と定子の話を重ね合わせるというすごいですよね。一見、「長恨歌」風なんですけれど、いやいや時事ネタみたいな。
榎本:一条天皇はあれ読んだときどう思われたのかなと思いながら。
家塚:『紫式部日記』には『日本紀(にほんぎ)』をよく読んでいると一条天皇にほめられたと書いてあるし、漢籍を読んでいることもわかっている。「桐壺」の巻の構成や、和歌と定子の辞世の和歌が似ていることなどに注目され、「桐壺」はこのぐらい時期に書いたのかな、というのがわかってくる。パーツって言ったら変ですけれども、小さいことから全体が見えてくるっていうことでしょうか。
戸田:どっちにしても、「桐壺」は宮中に上がらなかったら書けなかったでしょうね。
家塚:書けなかったでしょうね。ベースとして、「長恨歌」を日本語訳しているところが、またうまいなって思いますね。源氏の中は白居易がすごく多い。ですから、これもやはり読者としてはくすぐられますよね。
榎本:一条天皇も漢詩読まれていますからね。この作者の女性ちょっと只者ではないなっていう。
戸田:あの時代の男性は、知識としては漢詩、漢文がベースですからね。
榎本:これまでの話に少し関連性はあるかと思いますが、千年前の、一条天皇を支えた女性たちのキャリアについて、どう思われますか。
家塚:女房にも、やっぱりいろいろクラスがあったり、働くきっかけっていうのがあるんですよね。これもそれこそ女性史とかジェンダーの研究の中でよく話題になりますけれども、あの時代の女性という自由だったのか不自由だったのかとか。
榎本:そうなんです、すごく気になります。
家塚:気になりますよね。やはり、学問というのは身を助けるというか、評価はされているだろうと思います。だからこれだけ、平安時代の女性の文学が盛んになった。
榎本:そうですね、本当その通りですね。学問は今でも身を助けるんでしょうね。
家塚:百人一首のちょうど真ん中ぐらい、みんな女性!って並んでいるじゃないですか。彼女たちは、受領(ずりょう)階級の育ちですよね。紫式部、清少納言、和泉式部。紫式部は学者の家でもあり、そういう環境にはありました。一方で、『紫式部日記』のあの書きっぷりで女子には学問はいらないとか、漢字読めないふりしているとか。でも、『源氏物語』の中でも、やはり皆さん賢く描いていますから。当時は結婚問題がありますから、親たちも、いかに賢くしようかと、女房たちに勉強をさせて。教育熱心ですよね。だから彰子にも。
榎本:紫式部をつけてっていう。
家塚:本当に。私はその中で言ったら、赤染衛門(あかぞめえもん)先生のサロンに入りたいです。あそこいい感じじゃないですか、いろいろと理解もあり。酸いも甘いもというところも含めて。だから、やはり皆さん賢く学んで、それがもう常識だったでしょうし。
あともう一つ、女性史などで、改めて注目されていますが、紫式部でも生没年がわからないんです。本名もわからない。でも、夫は藤原宣孝、お父さんは為時(ためとき)ということはわかっているんです。紫式部の娘は大弐三位(だいにのさんみ)、名前は賢子(けんし)です。何故わかっているかというと、賢子は後冷泉(ごれいぜい)天皇の乳母(めのと)になってるんですね、皇太子が天皇になったときに従三位(じゅさんみ)という位をもらってるんです。典侍(ないしのすけ)で、彼女は、国家公務員なんですね、歌人としては大弐三位。大弐っていうのは、太宰府の役人の官職なんですが、それは夫の官職で、彼女は従三位。「大弐三位」とは、夫の役職名と、彼女が持っている位のドッキングなんですね。典侍で従三位をもらっているから、記録に残る人なんですね。だから、賢子という名前もわかる。でも母は『源氏物語』を書いても、その公式記録には残らない。
戸田:あの時代の女性で名前が残っているって言ったら、それこそ。
榎本:奇跡みたいな。
戸田:宮中で高い位のお后になったか、あるいは宮中で位人臣を持っている人の奥さんになったとかじゃないと、名前残らないですね。
家塚:もし記録に残ろうと思ったら、やはり自分のキャリアで、国家公務員になると残るということを、紫式部と大弐三位でちょっと考えましたね。
  • 女性たちが囲碁を打つ様子
  • 宇治の間

2024/12/12 18:30:00 宇治市源氏物語ミュージアム館長に聞くー『源氏物語と今』ー【全文】vol.1

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宇治市は、『源氏物語』の最後を飾る宇治 十帖の主な舞台。この特集にあたり、宇治市にある源氏物語ミュージアムの家塚智子館長から、『源氏物語』にまつわる貴重なお話を伺ってきました。ミュージアムをご丁寧にご案内くださった後は会話も弾み、家塚館長の『源氏物語』への溢れる愛が伝わる取材となりました。
インタビューは 60 分に渡り、『GAIDAI BIBLIOTHECA vol.241』に対談内容をすべて掲載することができなかったため、こちらの「図書館ブログ」に掲載いたします。 (聞き手:榎本恭子、戸田奈緒子)

宮中に与えた影響

榎本:本日は、よろしくお願いいたします。私は『源氏物語』について本当に不勉強で、大和和紀さんの描かれた漫画の『あさきゆめみし』を過去に読んだことがあるだけなのですが、この取材のために少しだけ勉強しました。本日いくつか質問させていただきたいと思っています。
まず最初に、『源氏物語』が、当時の宮中に与えた影響というのを、お伺い出来たらと思います。
家塚:宮中に与えた影響は様々あると思うのですが、まず、当時は、漢籍や和歌に対して、仮名文字で書かれた物語は、所謂サブカルチャーのような扱いでした。ところが、『源氏物語』が執筆され、高く評価されたことによって、物語自体の評価があがりました。語弊があるかもれませんが、この数十年の間で、漫画やアニメが高く評価され、現代の日本を代表する文化になったじゃないですか。それと同じと考えていただくと分かりやすいかもしれませんね。次に、やはり女性が書いた文学が一気に花開いたっていうことが大きいのかなと思いますね。『源氏物語』の時代は、紫式部の時代よりも少し前の時代設定にして書きつつも、時事ネタも織り交ぜているところもあるので、やはり皆さん熱心に読んだし、面白かったのではないでしょうか。長編化させたのは藤原道長のサポートだと思うのですが、やはり文字の力は大きいですよね。
榎本:やはり、清少納言の『枕草子』があったからこその『源氏物語』っていう。
家塚:最近言われていますよね。実際には紫式部と清少納言は時期はずれるけれども、やはり書いたものは読んでいるだろうから意識はしているでしょうね。
榎本:大河ドラマでは、彰子(しょうし)のところに一条天皇が九年間くらい全く来られなくて、それで一条天皇に興味を持ってもらうために書いたという内容でしたが、やはりそういう戦略もあったのでしょうか?
家塚:道長的にはあったのでしょうね。だけど最初から、道長が『源氏物語』を書かせたのかどうかはわからないですよね。よく言われるのは、紫式部の夫の宣孝(のぶたか)が亡くなって、悲しみを紛らわせるためにちょっと書いていたものが話題を呼び、宮仕えして、そこから長編化して話題になり、一条天皇の目にも留まったと。最初から『源氏物語』ありきかどうかというのは、研究者の間で議論がわかれるところかなと思います。大河ドラマ監修の倉本先生は、「道長プロデュース」というお説ですから、ドラマではそう描こう!という感じです。そこはまだ決着がついてないんじゃないでしょうか。
ただ、その面白さというのが、物語が面白いだけではなくて、これが政治的に利用されたのかというと、何か嫌な感じがしますけれども、やはり皆がすごく興味を持ったというのは事実なんだろうなと。それが結局、政にも影響を与えたかどうかっていうのは、また評価の問題にはなりますけれども、やはりその当時の読者たちも一生懸命読んだのだろうと思います。
角田光代さんにお話を伺ったときにおっしゃっていたのですが、執筆をやめさせてもらえなかったんじゃないかと。作家のお立場としたら、そういうご意見なんだなと思いました。
榎本:少年ジャンプのようですね。もうどうしようもなく人気が出た漫画に関しては、どんどん。
家塚:そう、引き延ばし。やめたくても長編化していくという。角田さんもおっしゃっていて、「少年ジャンプの発売日が楽しみっていうのと一緒ですよ」と。
榎本:それを生きがいにしている人たちも多くいる中で。
家塚:最初は小さなお話だったかもしれないけれども、本人の才能も含めて周りのプロデュースもあって、どんどん長編化することによってその当時の人々に大きな影響を与えて、ついには政まで影響を及ぼしたのかな、というところかなと思いますね。やはり面白いものっていうのは人の気持ちを動かすものなんだなっていうことを今回の大河ドラマ見ていても、改めて思いました。
榎本:道長は本当に『源氏物語』を政治に利用したのでしょうか?
家塚:利用したでしょうね。彰子のため。一番の読者は彰子になりますよね。最初は違ったかもしれないけれど、一番の熱心な読者は彰子でしょうし、その辺は後世の人たち、後世の読者たちもわかっている肌感覚です。だから彰子が書かせたっていう説もありますね。彰子と『源氏物語』、紫式部っていうのは切っても切っても切り離せないものだと思います。その結果、政治に利用したというか、その当時の社会に大きく影響を与えたと思います。
戸田:当時は、今ほど娯楽がない時代ですから。人が読んでいると、読もうかなってと思う人が今よりよっぽど多いと思いますね。
家塚:あとはドラマに影響されているかもしれませんが、例えば『源氏物語』の中で「絵合(えあわせ)」の巻では、まさに絵を合わせるんですね。それもやはり帝の関心を引くためにやる。本当そういうふうに書いてあるんです。絵を持ち寄ってどちらがいいと優劣を競います。明らかに一大政治イベントで、それをわかっていて書いているんだなって改めて感じます。
榎本:もうあれですね、一条天皇が最初に彰子を寵愛していたら、この物語はできなかった可能性も。
家塚:あるかもしれないですよね。別の形で作られ残ったかもしれない。『源氏物語』の中にも、今は残ってないような物語の題名がたくさんありますから。本の名前だけ残っているとか、やはり散逸されるんですね、面白くなかったら、誰も書き写さないし(笑)。
榎本:(笑)後世の人たちが残していかないと。
家塚:いろいろ考え方はあると思うんですけど。もしもっていうのは、あまりね。
榎本:いろんな人たちが、もしもで考えて。
家塚:歴史研究の中でもしも、っていうのはタブーですけど。でも、あえて考えるならば、そうですよね。
榎本:それを上手に大河が描いてくれているという。
家塚:そう思いますね。
戸田:紫式部が宮仕えをしてなかったら、その宮中のことを詳しく書いたりはできなかったということですよね。
家塚:それはもう明らかにね。宮仕えしたから知り得たっていう。「家政婦(夫)は見た」じゃないですけど、一大政治小説になるのは宮仕えしたから。それは間違いない。
戸田:女房は見た、ですよね
家塚:本当にそうです(笑)。本当に垣間見てますからね。
榎本:(笑)そういう目線で見たら面白いですよね。
家塚:『源氏物語』後半は、完全にそうです。女房が見た!


2024/11/06 15:10:00 「学生選書展2024」が始まりました!

  • Categoryイベント
  • Posted by榎本恭子
今年度もL.E.M.による「学生選書展2024」が始まりました(L.E.M.は、日々図書館の可能性を探求するグループです)!

2024年8月1日にL.E.M.のMISSIONとして、丸善京都本店へ行き、図書館に所蔵する本を選ぶ“ブックハンティング”を行いました。ブックハンティングをして感じたこと、何故その本を選書したのか等、学生の感想と、選書した本を展示しています。展示している本は全て借りていただけます。
皆さんも学生が選んだ本で、読書の秋を楽しんでみてはいかがでしょうか。

選書本は図書館本館ギャラリーにて展示しています。また、ポスター展示は4号館南側エントランスと図書館1Fギャラリーにおいて、11月1日(金)~11月30日(土)まで1ヵ月間開催中です。

2024/06/24 10:40:00 【本のPOP作り方イベント】を開催します!

  • Categoryイベント
  • Posted by付属図書館
「本が読みたくなるPOPの作成ってどうしたらいいんだろう・・・」
図書館の職員は日々そんなことで頭を悩ませていたりします。
このPOPを作る作業は、何かを説明したいとき1枚のプレゼンボードに説明したい内容を魅力的にデザインすることと同じ作業だったりします。
そんなPOPの作り方のコツを、教わってみたくありませんか?
とても魅力的なPOPが並んでいる図書館「京都学・歴彩館」で日々POPを作成されている職員さんを講師にお迎えし、学生の皆さんはもちろん、教職員の皆さんにも受けていただけるイベントを開催します。
就職後に突然「商品のPOPを作って!」とか「チラシを作成して!」など、そんな指示があったときにも役立つ内容です。
きっと楽しく、今後の自分にも生かせるイベントになると思うので、興味のある方はぜひ参加してみてください!

日程:7月12日(金)
時間:11:00~12:40
場所:R443
講師:赤羽莉奈氏 (京都学・歴彩館)
   長元美緒氏(京都学・歴彩館)


参加申込はこちらから↓
https://docs.google.com/forms/d/1_CyqfxptY8IzGJrP5_ty5kpoUeANBbeS-7zvHZN_PPQ/edit

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