イギリスの古典学派経済学者であるトマス・ロバート・マルサス(1766-1834)は、ケンブリッジ大学のジーサス・カレッジで学んだ。その頃、イギリスでは産業革命が進展してフランスの生産性を凌駕し、
社会的にはゴドウィンやコンドルセなどの急進思想に人気が集まっていた。マルサスは父と討論を重ね、彼は父とは逆に新思想に反対する立場から1798年に著したのが本書『人口論』の初版で、時あたかもナポレオンのエジプト遠征が開始された年であった。
この中で、人口は人間の本能によって幾何学的に増加するが、食料は算術級数的にしか増加しないこと、そのため過剰人口による食糧不足は不可避であり、このことから貧困は死亡率を高める積極的要因、悪徳は出生率を低める予防的要因となるので、過剰人口の抑止力として是認されることを述べた。これは貧困問題や貧民救済策が無意味であり、ゴドウィンたちの主張する理性による理想社会は実現しないと
するものであった。
本書は第2版であるが、マルサスはこの版から最終の第6版まででは人口増加を抑制する要因として悪徳と貧困だけでなく道徳的抑制の存在を認め、初版とは大きな相違点を持つことになる。この『人口論』は斯界の独立した最初の著作で、「人口問題に関するあらゆる近代的思索の出発点」となった。
(28×23cm )
所蔵情報 (蔵書検索書誌詳細画面)