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【前13世紀頃~】ヴェーダ文学
  《ヴェーダ》(Veda) 
   インド最古の文献群の総称。神々への賛歌(リチュ)が集められた『リグ・ヴェーダ(サンヒター)』、祭式を執り行う祭官がつぶやく祭詞(ヤジュス)が集められた『ヤジュル・ヴェーダ(サンヒター)』、別の祭官が神々をたたえて歌う祭歌(サーマン)の歌詞とメロディーが集められた『サーマ・ヴェーダ(サンヒター)』に、基本的に呪術を扱う『アタルヴァ・ヴェーダ(サンヒター)』を加えたものが中核となる。 
 
 《ブラーフマナ》(Brahmana) 
   ヴェーダ祭式を解釈し、意味付けする文献群の総称で、サンヒター、ウパニシャッドと並んでヴェーダ文献を構成する。『シャタパタ・ブラーフマナ』や『ジャイミニーヤ・ブラーフマナ』には多くの説話や神話も伝えられている。 
 
 《ウパニシャッド》(Upanisad) 
   ヴェーダ文献に属し、インドの哲学的思想をまとめた最初の文献群の総称。ヴェーダ文献に属するものを古代ウパニシャッドと呼び、それ以降の新ウパニシャッドと区別する。 
 
 
【前2‐後2世紀頃】
 『マヌ法典』Manu-smrti)(Manava-dharmasastra前2-後2世紀頃
   古代インドの法典。古来インドで人生の三大目的とされたダルマ(社会的宗教的義務)、アルタ(実利)、カーマ(享楽)のうち、特にダルマを説くダルマ・シャーストラ(法典)のなかで最も古く重要。 
 
 
【~3-4世紀頃】二大叙事詩の現形成立
 『バガヴァッド・ギーター』Bhagavadgita 
   ヒンドゥー教の最も有名な聖典。1世紀頃(?)の成立。『マハーバーラタ』第6巻に編入されている。勇士アルジュナが、同族同士の戦いの意義について悩み、戦いを拒否するが、これに対して彼の御者のクリシュナ(バガヴァット)が、彼を立ち上がらせるために説いたものという設定になっている。 
 
  ヴァールミーキ(Valmiki) 
   サンスクリット叙事詩『ラーマーヤナ』の作者と伝えられる。7巻2万4千詩節よりなる。この作品が最終的に現在の形となったのは、おそらく3世紀ごろであろうと推定されている。 
 
 『マハーバーラタ』Mahabharata 
   サンスクリット叙事詩。18巻約7万5000詩節よりなる。作者は聖仙ヴィヤーサであると伝えられるが、実際には、仏教が興った時代よりも以前に行われたバラタ族(バーラタ)の戦争に関する物語が核となり、それに後代の種々の物語が時代ごとに付加されていったもので、現存の形にまとめられたのは、紀元後400年頃と推定されている。 
 
 『ナラ王物語』Nalopakhyana 
   『マハーバーラタ』第3巻に含まれる物語。成立年代不明。賭博に敗れて国を失ったナラ王が妻ダマヤンティーと森をさすらううち、妻とも別るが、それぞれが苦難を乗り越え、やがて再会し、ナラ王は王国を取り戻す。 
 
 『サーヴィトリー物語』Savitri-upakhyana 
   『マハーバーラタ』第3巻に含まれる物語。サーヴィトリーは、婚約者が1年後に死ぬと予言されたにもかかわらず、彼と結婚し、1年後に夫が息絶えたると、夫を連れていく死神ヤマ(閻魔)に追いすがり、懇願と機知により夫を取り戻す。 
 
 《プラーナ》(Purana) 
   インドにおいて古来より伝承されてきた文献群の総称。成立はヴェーダ期に遡り、後の『マハーバーラタ』編纂に引き続き、これらも編纂されたといわれている。プラーナとは、「古くから伝えられた物語・伝承」という意味。 
 
 
【1-2世紀頃~】古典サンスクリット文学、および文学に準ずる学術的・実用的専門書、古代タミル文学など
 カウティリヤ(Kautilya)前4世紀-前3世紀?
   マウリヤ朝創始者チャンドラグプタの宰相で、別名チャーナキヤ。インドの古典的政治論書『アルタ・シャーストラ(実利論)』の作者と伝えられるが、現存の書の成立は前2世紀~後2世紀の間と推定されている。 
 
 『ヤージュニャヴァルキヤ法典』Yajnavalkyasmrti)(Yajnavalkya-dharmasastra3世紀-5世紀?
   古代インドの法典。『マヌ法典』に次いで重要な法典(ダルマ・シャーストラ)。聖仙ヤージュニャヴァルキヤがダルマ(社会的宗教的義務)について説くという形式をとっている。 
 
 ヴァーツヤーヤナ(Vatsyayana) 4世紀-5世紀?
   インド古典期の性愛論書『カーマ・スートラ』の作者。『カーマ・スートラ』は現存のカーマ・シャーストラ(性愛論)のうちで最も古くかつ重要な作品。第一巻第二章で作者は、ダルマ(社会的宗教的義務)、アルタ(実利)とともに、カーマ(享楽、性愛)も、人間にとって重要であり、真摯な学問の対象となる得ることを力説している。 
 
 シュードラカ(Sudraka) 4世紀-5世紀?
   サンスクリット語詩人、劇作家。戯曲『ムリッチャカティカー(土の小車)』の作者。高潔な商人チャールダッタと気高い遊女ヴァサンタセーナーとの恋愛を主題にしているが、古典期としては珍しく、社会劇、政治劇の要素も含まれている。 
 
 カーリダーサ(Kalidasa)350-450頃
   サンスクリット語詩人、劇作家。グプタ朝最盛期に王都ウッジャイニーで活躍したとされる。ゲーテらドイツ文学者に強い感銘を与えた戯曲『シャクンタラー』、流謫の身の男が、ひとりわびしく夫を待つ妻に思いをはせ、胸せまる想いを妻への伝言として雲に託すという内容の抒情詩『雲の使い(メーガドゥータ)』は、サンスクリット文学の傑作とされる。 
 
 ティルヴァッルヴァル(Tiruvalluvar)5世紀?
   古代タミルの箴言詩集『ティルックラル』の作者。職工カースト出身、あるいはバラモンと最下層民との子であるといわれるが、作品の内容からするとおそらくジャイナ教徒。 
 
 バルトリハリ(Bhartrhari)5世紀-6世紀?
   サンスクリット詩集『シャタカ・トラヤム(三百頌)』の作者。大文法学者のバルトリハリと同一人物であるかについては、さまざまに議論されている。 
 
 ダンディン(Dandin)7世紀
   インド古典期の伝奇小説『ダシャクマーラチャリタ(十王子物語)』と詩論書『カーヴィヤーダルシャ(詩作の鏡)』の著者とされるが、この両書の著者はそれぞれ別人とする説もある。 
 
 『アマル・シャタカ』Amaru-sataka7世紀-8世紀?
   サンスクリット抒情詩集。成立年代や作者のアマル(アマルカ)についてはよく分かっていない。約100の詩節からなり、官能的な恋愛の情緒を伝える。 
 
 ダーモーダラグプタ(Damodaragupta)8世紀-9世紀?
   カシュミールのジャヤーピーダ王(在位779-813)の宰相にして詩人。サンスクリット風俗抒情詩『クッタニーマタ(遣手女の忠言)』(邦題は『遊女の手引き』)の作者。遣手女(クッタニー)が遊女に、種々の手管を用いて男を籠絡する方法を教えるという内容であるが、当時の社会風俗を知るうえでの貴重な資料となっており、文学作品としても高い評価を受けている。 
 
 ナーラーヤナ(Narayana)10世紀?
   サンスクリット説話集『ヒトーパデーシャ』の作者。5巻からなる教訓説話集『パンチャ・タントラ』のベンガル伝本を4巻に改編したもの。 
 
 ソーマデーヴァ(Somadeva)11世紀
   カシュミールの詩人。サンスクリット説話集『カター・サリット・サーガラ』の作者。カシュミールのアナンタ王(在位1029-64)、およびその息子カラシャ王(在位1064-88)に仕えた。人間の死体に憑いてこれを活動させる鬼神ヴェーターラが、主人公の王に謎をともなう約25話の物語をし、各物語の最後で王に質問して、王がそれに対して答えるという枠物語『ヴェーターラ・パンチャヴィンシャティカー(屍鬼二十五話)』は、サンスクリット諸伝本のうちで『カター・サリット・サーガラ』の中に収められているものが最も文学的に優れている。 
 
 ビルハナ(Bilhana)11世紀後半
   インド古典期の詩人。カシュミール生まれ。父は文法学者、兄弟たちも詩人。語学を修得した後、各地を遍歴し、南インドのカリヤーナの宮廷に仕え、ヴィディヤーパティ(学問の主)の称号を得た。彼の名声を不朽にしたサンスクリット詩集『チャウラ・パンチャーシカー』は、50の詩節すべてが「今もなお」という文で始まり、ある女性との恋を生き生きと描写している。 
 
 『シュカ・サプタティ(鸚鵡七十話)』Sukasaptati 
   古代インドのサンスクリット説話集。作者や成立年代は不明。夫が留守をしている間に他の男に心を動かされた妻が、毎夕逢引に出かけようとしてオウムに相談すると、オウムは様々な窮地に陥ったものの話をし、その解決ができるなら出かけてもよいと言い、彼女がそれを考えているうちに夜が明けると、オウムが解決法を教え、そうして七十夜がたち、妻は無事に夫を迎える。 
 
 『パンチャ・タントラ』Pancatantra 
   サンスクリット説話集。作者や成立年代は不明。西北インドに流布していた伝本がイランでパーラヴィー語(中期ペルシア語)に翻訳され、これを基にしてイブン・アル・ムカッファアのアラビア語訳『カリーラとディムナ』が誕生した。 
 
 ジャヤデーヴァ(Jayadeva)12世紀頃
   ベンガル生まれ。サンスクリット詩人。ラクシュマナセーナ王(12世紀頃)の宮廷詩人のひとりに挙げられている。ヴィシュヌ神の化身である牧童のクリシュナ神を題材に、抒情詩『ギータ・ゴーヴィンダ』を書いた。 
 
 
【15世紀~】近代諸言語による文学
 カビール(Kabir)1398-1448頃
   ベナレス(ヴァーラーナスィー)生まれ。ヒンディー語の詩人、宗教家。宗教家として特別の生活を送ることはせず、生涯を通して織工であり続けた。彼が創作した膨大な詩の一部は、弟子たちの手で『ビージャク』として編集された。 
 
 ミール・ムハンマド・タキー・ミール(Mir, Muhammad Taqi Mir)1722-1810
   アーグラー生まれ。ウルドゥー語の詩人。デリーでムガル朝高官に仕えて戦役にも参加した。1782年にラクナウーに移住、ここで没した。簡明な文体で情熱的な内容にあふれたガザル(抒情詩)は、今もウルドゥー古典の代表格として愛されている。 
 
 
【19-20世紀~】現代諸言語による文学
 ラビンドラナート・タゴール(ロビンドロナト・タクル)(Tagore, Rabindranath)1861-1941
   カルカッタ(現コルカタ)生まれ。ベンガル語の詩人。イギリスで教育を受け、帰国して村人たちと交流を持ちながら『ギーターンジャリ』(1910)を刊行して英訳し、ノーベル賞を受賞した。宗主国イギリスからナイトの称号を贈られたが、アムリッツァル大虐殺に抗議して返還した。 
 
 プレームチャンド(Premchand)1880-1936
   ベナレス(ヴァーラーナスィー)近郊の農村ラムヒー生まれ。ウルドゥー語・ヒンディー語作家。本名はダンパト・ラーエ Dhanpat Rae。貧しい小作人の家に生まれ、教職のかたわら現実を描く。ガンジーの民族独立運動に共鳴して教職を辞し、彼をモデルにした『行動の広場』を発表するが、民族の自立がなかなか達成できない現実を見つめて、貧しい農民を主人公とする小説『牛供養』を書く。 
 
 タラションコル・ボンドパッダエ(Bandyopadhyay, Tarasankar)1897-1971
   西ベンガル州ビルブム県生まれ。ベンガル語の作家。小さなジョミダル(ザミーンダール、ベンガルの地主)の家に生まれるが、幼少時に父を亡くす。ジョミダルの仕事として村々を回るなかでの社会活動やさまざまな人との出会いが彼の世界を広げ、後にバラエティーに富んだ短編小説の名手としての彼の名を知らしめるにいたった。ベンガルで最も読まれている作家のひとり。 
 
 バグワティープラサード・ヴァージペーイー(Vajpeyi, Bhagvatiprasad)1899-1973
   ヒンディー語の作家。短編『甘露(アムリット)と毒(ザハル)の間』では、わずかでも現金収入を得ようと、裕福な家庭の住み込み下男として働く農民の実態を下男の側から描いている。 
 
 バグワティーチャラン・ヴァルマー(Varma, Bhagvaticharan)1903-1981
   ヒンディー語の作家。短編『猫の顛末』では、年若い嫁が、家に出入りし傍若無人に振る舞う猫を懲らしめようと打ちつけたことから、「猫殺し」の罪とその因果応報をバラモンがまことしやかに説いて姑の不安を煽り、贖罪にかこつけて搾り取れるだけ搾り取ろうとする姿を描き、そのエセ聖職者ぶりを伝えている。 
 
 R.K. ナーラーヤン(Narayan, Rasipuram Krishnaswami)1906-2001
   マドラス(現チェンナイ)生まれ。現代インドの代表的英語作家。マイソールのマハラジャ・カレッジ卒業後、短期間、高校教師や日刊紙の地方通信員などの職を経験し、その後、本格的に文筆活動に入る。1935年、イギリスの著名な作家グレアム・グリーンの推薦で第一作『スワミと友人たち』がイギリスで出版される。以来、同作品に描かれた架空の町マルグディは、生涯、彼の作品の舞台となった。 
 
 ウペンドラナート・アシュク(Ashk, Upendranath)1910-1996
   パンジャーブ州、ジャーランダル生まれ。ヒンディー語の詩人・小説家。11歳でパンジャービー語の詩作を始め、16歳でウルドゥー語による処女短編小説を発表。インドの下層中産階級の生活をリアリスティックに描く。 
 
 アッギェーヤ(アギェーヤ)(Agyeya)1911-1987
   ヒンディー語の詩人、小説家。評論家としてはサッチダーナンド・ヒーラーナンド・ヴァーツヤーヤン Saccidanand Hiranand Vatsyayan の名で知られる。ウッタル・プラデーシュ州生まれ。学生時代インドの独立運動に参加し逮捕される。30-34年、獄中で「アッギェーエ(知られざるもの)」として詩や小説を綴った。短編『復讐』では、分離独立に伴う混乱に巻き込まれた庶民の姿を描き、暴行・殺戮が横行する中の人道主義の有効性はともかく、復讐の不毛性を強調する。 
 
 クリシャン・チャンダル(Chandar, Krishan)1914-1977
   パキスタン、パンジャーブ地方のワズィーラーバード生まれ。ウルドゥー、ヒンディー作家。幼少時代をヒンドゥー教徒の医師である父の転勤先カシミールで過ごす。『ペシャワール急行』で印パ分離独立にともなう混乱と悲劇を描く。 
 
 ビーシュム・サーヘニー(Sahni, Bhisham)1915-2003
   パンジャーブ州ラーワルピンディー(現パキスタン領)生まれ。ヒンディー語の作家。大学で英文学を学ぶ。印パ分離独立後はカシュミールからボンベイ(現ムンバイ)、デリーへ移住。1967年から1980まで年デリー大学デリー・カレッジの英文学教授。1976年から1986年まで全インド進歩主義作家協会事務局長。分離独立に伴う、故郷喪失、社会変動、価値観の変容、家の崩壊を描く。 
 
 シヴァーニー(Shivani)1923-2003
   ヒンディー語の女流作家。短編『サティー』では、寡婦殉死(サティー)、つまり死んだ夫を荼毘に付すとき、その火中に妻も自らの身を投じて死ぬというヒンドゥーの古い習慣を題材に、聖と俗の間で揺れ動くインド女性の心理を描く。 
 
 モーハン・ラーケーシュ(Rakesh, Mohan)1925-1972
   パンジャーブ州アムリッツァル生まれ。ヒンディー語の劇作家、小説家。本名マダン・ググラーニー Madan Guglani。弁護士の父からサンスクリット語の手解きを受ける。大学でサンスクリットとヒンディーを修める。1940年代初頭から創作を開始、印パ分離独立後は理想を求めて闘う庶民の姿を描くいっぽう、カーリダーサの生涯に取材した『アーシャール月の一日』で劇作家として注目される。60年代には、不信と孤独、内面の葛藤が主題となる。 
 
 クリシュナー・ソーブティー(Sobti, Krishna)1925-
   パキスタン生まれ。ヒンディー語の女流作家。パンジャーブの風土のかおりのする小説を書く。分離独立の翌年に書かれた短編『お上が変わった』では、宗教の違いを越えた共生の場であった村を追われる老女の心情を描きながら、民衆にとって「独立」とは何かを問う。 
 
 モハッシェタ・デビ(Devi, Mahasweta)1926-
   東ベンガルのダッカ生まれ。ベンガル語の女流作家。父は共産主義文学者で有名なモニシュ・ゴトク。幼少のときに西ベンガルへ移り、カルカッタ(現コルカタ)などで教育を受ける。不可触民・部族民の地位向上をめざして農村組織と関わり、彼らの発表の場として季刊誌『灯火』を編集。小説、史伝、児童小説など、主としてベンガル語で発表。 
 
 マスタラーム・カプール(Kapur, Mastaram)1926-
   ヒンディー語の作家。短編『辞令』では、政変におののく上級官僚と、その顔色に右往左往する用務員を対比させながら、官僚の生態と庶民の立場をうまく描いている。 
 
 シヴプラサード・シン(Singh, Shivprasad)1929?-1998
   ヒンディー語の作家。短編『怒りの河』では、ビハール州の寒村を舞台に、河の氾濫と身分違いの男女の恋を対置し、旧態依然の農村の姿との対比の中で、人間の尊厳とは何かを描き出している。 
 
 ラージェーンドラ・ヤーダヴ(Yadav, Rajendra)1929-
   ウッタル・プラデーシュ州アーグラ生まれ。ヒンディー語の作家。ナイー・カハーニー(新しい小説)の先駆者、世代交替の先駆者といわれる。短編『昼休み(ランチ・タイム)』では、知的職業の代表である弁護士が、昼休みのひととき、取り巻きの司法修習生と寄ってたかって社会的弱者である依頼人を玩具にする光景を描き、弱者の置かれた状況を告発する。 
 
 ラージェーンドラ・アヴァスティー(Avasthi, Rajendra)1929?-
   ヒンディー語の作家。短編『フリヤーの恋』では、マディヤ・プラデーシュ州、オリッサ州、ビハール州にまたがって居住する先住部族のゴンド族の娘の恋を中心に、男性優位のゴンド社会で自分の意志を貫こうとする女性の内的葛藤を描く。 
 
 ラメーシュ・グプタ(Gupta, Ramesh)1932-
   ヒンディー語の作家。短編『弔い』では、独立後の近代化と発展の陰で貧しさから抜け出せないでいる多くの人々が、その貧しさゆえにいつも死と向かい合わざるを得ないという厳しい現実を描くことで、独立の内実を問う。 
 
 マールカンデーヤ(Markandeya)1932-
   ヒンディー語の作家。独立後のインド農村の現実を描く作家として知られる。短編『マフアーの樹』では、独立して間もない1950年代初期の北インドの寒村を舞台に、地主の横暴に立ち向かう老婆をとおして、下からの変革のかすかな兆しを描いている。 
 
 V.S. ナイポール(Naipaul, Vidiadhar Surajprasad)1932-
   イギリスの小説家。トリニダードにインド系の子として生まれ、オックスフォード大学を卒業。その後作家の道を歩み、『自由の国にて』(1971)がブッカー賞を得て有名作家になり、『暗い河』(1979)などを発表した。また、紀行文学でも『インド―闇の領域』(1964)や『イスラム紀行』(1981)などがあり、世界的に評価が高い。 2001年度ノーベル文学賞受賞。 
 
 マドゥカル・シン(Singh, Madhukar)1934-
   ヒンディー語の作家。短編『ご神体』では、人口の5パーセントにも満たない地主が、九割を超える農民を支配するビハール州を舞台に、搾取され、洪水・干ばつにさらされながらも、信仰を支えにつましく生きる民衆と、力の論理を行使する身勝手な強者を描く。 
 
 ダルメーンドラ・グプタ(Gupta, Dharmendra)1934-
   ヒンディー語の作家。短編『海』では、食を求めて地方から多くの人が流れ込む「人の海」のカルカッタ(現コルカタ)と、資産家たちが自然の「海」を楽しみ保養する場のカルカッタ。この両面を対比させながら現代インドが抱える矛盾を指摘する。 
 
 ジャヤカーンタン(Jeyakantan)1934-
   タミルナードゥ州の小さな港町カダルール生まれ。タミル語の作家。保守的な中産階級の男性中心社会の中で抑圧される存在(ほとんど女性)の逡巡、既成の制度や価値観に対する戦いを描く。 
 
 シェーカル・ジョーシー(Joshi, Shekhar)1934-
   ヒンディー語の作家。近代化の中で崩壊する人間関係を街に求め、農村に芽生える新しい人間関係・社会関係を求めて写実的に描く。短編『悪臭』では上司に対する未組織工場労働者のささやかな抵抗を描き、個の解放を約束したはずの「独立」が、民衆にとってはただの幻想に過ぎなかったという現実を告発する。 
 
 ヒマーンシュ・ジョーシー(Joshi, Himanshu)1935-
   ウッタル・プラデーシュ州生まれ。ヒンディー語の作家。国鉄勤務ののちヒンディー語週刊誌の主任編集員となる。1960年代から小説を書き始める。短編『時の人』では、農村の改良改善の政策にからむ利権を奪い合う政治家たち、そこで要領よく立ち回り、私腹を肥やす「時の人」である富裕層、そして近代化と無縁の生活を強いられ、貧困に耐える村の人々を描き、民衆にとっての「独立」の意義を問い直す。 
 
 アニター・デサイ(Desai, Anita)1937-
   女性英語小説家。ベンガル人の父とドイツ人の母を持ち、7才から著作を始める。最初の作品『鳴け、クジャクよ』で注目され、2作目『街の声』で有名になる。 
 
 カーシーナート・シン(Singh, Kashinath)1937?-
   ベナレス(ヴァーラーナスィー)近郊の村ジーワンプル生まれ。ヒンディー語作家。独立後の経済的・文化的危機の中でありのままのインドの現実をとらえつつ、農民、都市の中・下層階級、労働者の生活を描く。バナーラス・ヒンドゥー大学で教授をつとめた。 
 
 ムリドゥラー・ガルグ(Garg, Mridula)1938-
   ヒンディー語の女流小説家。1971年より小説を書き始める。短編『ガンディー帽』では、ガンディーの非暴力的抵抗運動に共鳴し、運動に参加した人々の多くが、独立後、理想と現実の狭間で挫折感を味わう様子をシニカルに描く。 
 
 ラヴィーンドラ・カーリヤー(Kaliya, Ravindra)1938-
   ヒンディー語の作家。短編『新しいシャツ』では、印パの分離独立後も貧しさを共有するがゆえに保たれていたヒンドゥー教徒とイスラーム教徒との和のもろさと危うさを、数年がかりであつらえたシャツがもとで、イスラーム居住区の仲間としての資格を奪われる若者をとおして描く。 
 
 K.P.プールナ・チャンドラ・テージャスウィ(Tejasvi, Purnacandra)1938-
   カルナータカ州生まれ。カンナダ語の作家。父はカンナダ語作家・カンナダ語教育者のクーヴェンプー(Kuvempu, クッパリ・ヴェンカタ・プッタッパ)。マイソール大学で学ぶ。農村のカースト秩序の矛盾や社会対立、迷信、搾取などを題材に小説、戯曲、映画脚本を発表。 
 
 スダー・アローラー(Arora, Sudha)1946-
   ヒンディー語の作家。短編『十三階からの眺め』では、ムンバイ(旧ボンベイ)の都市造りを建設労働者として支えたスラムの住人、その彼らを政府の進める近代化政策を受けた美化運動の名の下に街から追い出そうとする市当局、その一方で近代化の恩恵を享受しマンションに暮らす中間層など、社会が抱える矛盾解消の難しさを描き出す。 
 
 サルマン・ラシュディ(Rushdie, Ahmed Salman)1947-
   イギリスの小説家。ボンベイ(現ムンバイ)のイスラーム教徒インド人の家庭に生まれる。ラグビー校、ケンブリッジ大学卒業。ブッカー賞受賞の『真夜中の子供たち』(81)、多くのイスラーム教徒から冒涜的であるとされた問題作『悪魔の詩』(88)、長編『ムーア人の最後の溜息』(95)など、インドに関係する作品を発表している。 
 
 ミティレーシュワル(Mithileshwar)1950-
   ビハール州バイサーディーハ村生まれ。ヒンディー語の作家。1965年から作家活動に入る。短編『望まざるも』では、村人たちに娯楽を提供する旅回りの大道芸人が、独立後に村にも家計経済が入り込んだために実入りが減り、その日の食料すらままならない状況を描き、生きる権利をも奪われがちな者の悲しみとやり切れなさを伝えている。 
 
 
 
※ローマ字表記形について 
  文学者・文学作品のローマ字表記には、すべてのダイアクリティカル・マークが省かれています。また、現代ヒンディー語作家の ローマ字表記では、無気音のチャ行がchに、2種類のシャ行がshで表記されています。 


人物・作品紹介の参考文献
 田中於菟彌, 坂田貞二著 『インドの文学』 (ピタカ 1978年)
 鈴木良明編・著 『現代ヒンディー文学への招待』 (めこん 1984年)
 『現代インド文学選集』 1~6 (めこん 1986-1999年)
 『アジアの現代文芸』 インド 1~5 (大同生命国際文化基金 1991-2002年)
 辻直四郎著 『サンスクリット文学史』 (岩波書店 1973年)
 上村勝彦, 宮元啓一編 『インドの夢・インドの愛 : サンスクリット・アンソロジー』 (春秋社 1994年)
 『世界文学事典』編集委員会編 『集英社世界文学事典』 (集英社 2002年)
 週刊百科編集部編 『朝日百科世界の文学』 12 アジア・アフリカ・オセアニア (朝日新聞社 2002年)
 『コッラニ : インド亜大陸の人と文化』 第17号 特集インドの文学 (コッラニ編集部 2002年)