| ベルネ(ヴェルヌ)著 ; 井上勤訳 『月世界一周』
明治16(1883)年
本書の訳者、井上勤(1850-1928)は徳島藩医井上春洋の長男として生まれ、7歳にしてオランダ人ドンケル・クルチウスに英語を学び、16歳で神戸に移った後、ドイツ領事館に入りドイツ語を修めた。明治14(1881)年上京して大蔵省関税局に入り翻訳掛として多くの小説を翻訳した。
明治期に好んで翻訳され、大衆に読まれた本の多くは児童書であった。ヴェルヌ(Jules VERNE)の作品もその科学的、近未来的内容が人々の西洋科学文明への関心と合致し、さらに児童書の理解し易さと相俟って大衆に好まれた。井上勤はヴェルヌ作品の翻訳の多くを手がけたが、明治期において多くの作品が英語の翻訳本の重訳であったのと同様に、本書も英語訳を底本としている。タイトルページに「英国ジュールス・ベルネ著」とあるが、これは彼の底本が英訳本であったため、ヴェルヌを英国人と誤解したためである。当時の翻訳は西洋文化にふれた事のない日本人にいかにして西洋の思想を伝えるかに重点を置いていたため、原本・翻訳の区別はそれほど重要視されていなかった。よってこのようなことが起こってしまうのであった。
展示目録 『日仏文化資料展示会』 より |