Win-Win-Win...ボランティア活動
 皆さんは 「Win-Win-Win...ボランティア活動」という言葉をご存知でしょうか。恐らくご存じないと思います。それは私の造語だからです。しかし、英語がお分かりになる方であれば、Win-Winという語句からの造語だと簡単に推測できると思います。そして、その推測で正しいのです。ただし、3個以上のWinが意味するものはお分かりにならないのではないでしょうか?
 実は、この3個以上のWinこそが約7年半前、当時本校に勤務されていたバネズ教諭(カナダ出身)と私とで始めたボランティア活動の特徴なのです。
 平成14年11月30日、バネズ教諭と私は第1回目のボランティア活動を行いました。その活動とはバネズ教諭の発案に私が賛同して始めた英語の授業です。彼女が「英会話」のレッスンを第2土曜日と第4土曜日に行い、私が「英語検定3級、準2級」合格を目標にした授業を第1土曜日と第3土曜日に行いました。彼女の英会話講座は当初から人気が高く、第1回目の参加者は14名でした。記念すべき第1回目の講座には私もオブザーバーとして参加したのですが、参加者の大半は50代後半から60代の方ばかりでした。英語の実力はといいますと、ほとんどの方が英検4級レベルだったと思います。一方、私の第1回目の講座はわずか3名の参加者でした。その後、毎回の参加者数に変動はありましたが、英会話の受講者数は常に10数名、英検講座は5名前後の参加者でした。そして、このような状況は1年半くらい続きました。
 開始して2年後、バネズ教諭が「自己研鑽のために講座を止めたい。」と私に申し出られ、平成16年12月4日の講座が彼女の最後の講座となりました。彼女が講座を止めるのを機に、私は土曜講座そのものを止めるかどうか悩んだのですが、結局、一人で講座を続けることにしました。また、その内容は講座を立ち上げた当初からの英語検定合格を目指した文法、語彙、イディオム、構文、会話表現、音読などを中心にしました。ところがある日、開講当初からの受講生であるNさんが「先生、私達はもっと英会話を習いたいのです。」と正直に胸の内を明かしてくれました。そこで、それ以降は音声を中心とした内容と、文法、イディオム、構文、語彙などを中心とした内容の2本立ての講座に変えました。それが効を奏したのかどうか分かりませんが、今日まで毎回10人くらいの受講生にコンスタントに参加していただいています。
 私の講座では非常によく音読をします。英語落語、有名な人のスピーチ、昔話、ドラえもん、新聞記事等の音読を通して英語のリズム、発音、語彙、イディオム、構文などを身につけてもらうようにしています。レッスンを重ねた結果、確かに音読は上手くなりました。しかし、英語が話せるようになる過程では、どうしても基本になる文、文法、語彙などを暗記しなければなりません。ところが、案外簡単な英文でも、暗唱するとなると多くの受講生にとって難しい作業のようでした。
 その理由は年齢にありました。私もそうですが、還暦を過ぎますと記憶力が極度に低下し、「聞いてもすぐに忘れる。」という現象が起きます。私より年配の方にとっては英文を暗記することが非常に難しいのは頷けます。そのことに理解を示しながらも「ある程度暗記しなければ話せるようにはならない。」と説明してきました。
 そこで、私は受講生の暗記作業を期待して講座の度に重要構文やイディオムを含む文を20個前後印刷したプリントを数ヶ月に渡って配布し続けました。講座でも各文の重要な点を解説したり全文の音読を繰り返したりしました。しかし、多くの受講生は家で復習することなくプリントをファイルに入れて終わりという状況だったのだろうと思います。ところが、受講生のNさんは違いました。Nさんは開講当初から継続して受講されている唯一の受講生です。当初のNさんの英語のリーディングは日本語的な読み方であり、語彙力や文法力もかなり低かったように思います。英語検定でいえば4級と5級の間くらいだったかもしれません。しかし、Nさんの英語に対する情熱や意欲は非常に強く、熱心に勉強される姿に私もよく勇気づけられました。そのNさんが私の次の言葉を信じて暗記作業を徹底的に行っていたのです。
 その言葉とは、「1つの文を10回、20回音読すれば、覚えられるのではないですか。20回でダメなら50回くらいなら覚えられるでしょう。50回でダメなら 100回なら大丈夫でしょう。」というものでした。これは決して口から出任せなどではなく、私の信念から発した言葉でした。この信念は、私のかつての趣味であったゴルフや卓球、そして今でも楽しんでおりますテニスや囲碁の練習法から身についたものでした。この練習法を現在も実践してるのがピアノの練習です。ピアノに触れたことがない、音符が読めない、指が動かない、視力が弱い、補聴器のお世話になっているほどの聴力、それに記憶力の低下という悪い条件下でも、「毎日少しずつ、できるまで繰り返せば必ずできるようになる」と信じて練習を続けておりますと、何とかなる気がします。少しずつ練習を重ねた結果、ピアノを弾き始めて3年半後に「エリーゼのために」を発表会で演奏することができました。発表会までに 1,000回くらいは弾いて練習したと思いますが、本番では何ヶ所か間違いました。しかし、発表のために暗譜をしてこの曲が何とか弾けるようになったことは、その以後の練習に非常に役立っております。このような経験に裏打ちさた私自身の学習法を受講生に説明し、 100回音読を講座中に奨励していたところ、Nさんが実践されていたのです。 ある日、Nさんは私が差し上げた英文のプリントを私に見せながら、「先生が言われたように、100回読みました。」と言われました。そのプリントには書き込みがびっしりしてあっただけでなく、所々鉛筆で黒くなったり、すり切れたりしていました。そのようなプリントが何枚かありました。感動の余り、私はその内の1枚のプリントを借り、他の受講生に紹介しました。更に、そのプリントを数週間借りて私が担当しているクラスの生徒達にも見せました。すると、「わーすごい!」や「おー」という歓声が生徒の中から起こりました。生徒達にも大きな刺激になったことだろうと思います。このように一所懸命学習に取り組んでこられたNさんは昨年英検準2級に見事合格されました。ご本人の努力の賜だと思います。今は2級合格を目指して頑張っておられます。Nさんの努力と成果から「学問を始めるのに遅すぎるということはない。」という言葉を思い出します。
 このことを更に痛感させられるのは、別の受講生のTさんです。Tさんは傘寿に手が届こうかと思われる方ですが、記憶力の非常に素晴らしい方です。時々行って下さる英語のスピーチでは2〜3分の英文を全部暗記して発表されたこともありました。 尼崎から来られる熱心な受講生もおられます。英語恐怖症のようなものを持っておられたようですが、他の受講生との和やかな交流や食事会、あるいは旅行などを通じてその恐怖感を徐々に取り除き、今では英語学習の楽しさを味わっておられるようです。
 土曜英語講座は私のボランティア活動ですが、受講料として 600円頂いております。その理由は、収益金を東京のNPO「民際センター」に送り、そこを通してタイやラオスの恵まれない子供達の教育支援を行っているからです。タイやラオスの小学校では1年間の授業料が1万円とのことですが、この1万円が払えずに小学校教育を受けられない子供が多いそうです。私は過去7年半の講座から得た収益金86万円を民際経由でそれらの国の恵まれない子供達に送ってきました。
 土曜英語講座の収益金で支援される子供たちはWin(利益を受ける状況)、この活動を推進する民際もWin、講座に参加する受講生も喜んで参加されているのでWin、そして多少なりとも色々な関係者に貢献できているのではないかと喜んでいる私もWin、というように「多くの関係者がWinの状態」だと思っています。これが土曜英語講座なのです。

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京都外大西高等学校教諭 前田 久夫