2024/09/08 16:30:00 昔のロシアの太陽は赤かった
- ロシア語圏の豆知識
- 三好マリア
いきなり質問します。皆さんの太陽は何色ですか。日の出を象徴するあの白地に赤の「日の丸」を国旗にしているくらいですから、日本の太陽は間違いなく赤いです。日本人の子供に太陽を描かせれば赤いのが多く返って来るでしょう。一方で、眩しいからなのか、砂漠の国の太陽は白いイメージがあるらしいです。そう言えば、中央アジアのカラクム砂漠を舞台にした「Бе́лое со́лнце пусты́ни(砂漠の白い太陽)」というソ連時代の映画がありましたね。
しかし、なんと、ロシアの太陽はいずれとも違います。黄色なのです。夕日ではない昼間の太陽なら、ロシアの子供たちはみんな黄色く描くに違いありません。ちなみに、ベラルーシと日本のハーフである筆者の息子に聞いたら「オレンジ色」と言っていました。なるほど、血が混ざれば太陽の色まで混ざるのですね。
赤は日本では情熱や活力を意味することで知られています。だどすると、地球上の活力の源である太陽が赤いのも十分納得できます。では、黄色はどうでしょう。黄色を狂気の色として貫いていたドストエフスキーや、精神状態が悪化していた時にこそ黄色を多く使っていたゴッホなどはさておいて、黄色を愉悦や幸福、そして(純金の色でもあることから)裕福の色とする文化が多いようです。そう考えたら、人を元気にさせ喜ばせるという太陽が黄色いのも分からなくはないですね。
しかし、ここで一つ、ロシア語母語話者でも意識したことのある人が少ないという情報を皆さんと共有したいです.実は、古代ルーシ(昔のロシアの名前)では、日本と同じく太陽は赤かったのです。当時の衣装やカーテン、テーブルクロスなどに太陽を意味する模様の刺繍をよく施していましたが、全部白地に赤でした。また、赤は何よりも血の色であり、青白く貧血気味の顔よりも血の巡りが良く赤くて元気そうな顔(ほっぺた、唇)の方が美しいとされていました。赤=元気、という意識から、赤=美しい、という発想が生まれたわけです。кра́сно со́лнце(赤日)もそうですが、кра́сна де́вица(赤い娘→美女)、кра́сно словцо́(赤い言葉→名言)といった語句が、枕詞のようなものとしてロシアの古典にも定着していたようです。
ロシアの古典といえば、見た目に一つ大きな特徴があります。添付写真にもありますが、各段落の頭文字が赤色で大袈裟なほど大きく美しく綴られていました。Писа́ть с кра́сной строки́「赤い行から綴る」という表現がその時に生まれ、現代ロシア語でも「改行して書く」という意味で受け継がれ、日常的に使わられています。
因みに、「赤の広場」というモスクワの名所はご存知ですか。実は、赤の広場も、煉瓦だから「赤」とかソ連だから「赤」とかではなく、美しいから「赤」なのです。しかも、あの広場はずっと「赤の広場」と呼ばれていたわけではなく、17世紀後半にそこにロシア正教の聖堂などの美しい建物が建てられるようになってからそう呼ばれるようになり、それまでは「売買の広場(Торг)」や「火事の広場(Пожа́р)」と呼ばれていたらしいです。
赤が、活力の色でもあると同時に攻撃性・危険を象徴する色でもあったり、また、黄色も、愉悦を表す色であると同時に狂気の色でもあったりするように、色彩というのは一見矛盾している部分はあっても、人間の様々な感情や意図を表現するための欠かせない手段であり、その地域や民族の文化に深く根ざしている要素でもあるので、皆さんも学んでいる外国語の国の色彩について今度調べてみてはどうですか。
ロシア語圏の国々の色彩についても、筆者はまだまだ言いたいことがたくさんあるので楽しみにしていてください。
しかし、なんと、ロシアの太陽はいずれとも違います。黄色なのです。夕日ではない昼間の太陽なら、ロシアの子供たちはみんな黄色く描くに違いありません。ちなみに、ベラルーシと日本のハーフである筆者の息子に聞いたら「オレンジ色」と言っていました。なるほど、血が混ざれば太陽の色まで混ざるのですね。
赤は日本では情熱や活力を意味することで知られています。だどすると、地球上の活力の源である太陽が赤いのも十分納得できます。では、黄色はどうでしょう。黄色を狂気の色として貫いていたドストエフスキーや、精神状態が悪化していた時にこそ黄色を多く使っていたゴッホなどはさておいて、黄色を愉悦や幸福、そして(純金の色でもあることから)裕福の色とする文化が多いようです。そう考えたら、人を元気にさせ喜ばせるという太陽が黄色いのも分からなくはないですね。
しかし、ここで一つ、ロシア語母語話者でも意識したことのある人が少ないという情報を皆さんと共有したいです.実は、古代ルーシ(昔のロシアの名前)では、日本と同じく太陽は赤かったのです。当時の衣装やカーテン、テーブルクロスなどに太陽を意味する模様の刺繍をよく施していましたが、全部白地に赤でした。また、赤は何よりも血の色であり、青白く貧血気味の顔よりも血の巡りが良く赤くて元気そうな顔(ほっぺた、唇)の方が美しいとされていました。赤=元気、という意識から、赤=美しい、という発想が生まれたわけです。кра́сно со́лнце(赤日)もそうですが、кра́сна де́вица(赤い娘→美女)、кра́сно словцо́(赤い言葉→名言)といった語句が、枕詞のようなものとしてロシアの古典にも定着していたようです。
ロシアの古典といえば、見た目に一つ大きな特徴があります。添付写真にもありますが、各段落の頭文字が赤色で大袈裟なほど大きく美しく綴られていました。Писа́ть с кра́сной строки́「赤い行から綴る」という表現がその時に生まれ、現代ロシア語でも「改行して書く」という意味で受け継がれ、日常的に使わられています。
因みに、「赤の広場」というモスクワの名所はご存知ですか。実は、赤の広場も、煉瓦だから「赤」とかソ連だから「赤」とかではなく、美しいから「赤」なのです。しかも、あの広場はずっと「赤の広場」と呼ばれていたわけではなく、17世紀後半にそこにロシア正教の聖堂などの美しい建物が建てられるようになってからそう呼ばれるようになり、それまでは「売買の広場(Торг)」や「火事の広場(Пожа́р)」と呼ばれていたらしいです。
赤が、活力の色でもあると同時に攻撃性・危険を象徴する色でもあったり、また、黄色も、愉悦を表す色であると同時に狂気の色でもあったりするように、色彩というのは一見矛盾している部分はあっても、人間の様々な感情や意図を表現するための欠かせない手段であり、その地域や民族の文化に深く根ざしている要素でもあるので、皆さんも学んでいる外国語の国の色彩について今度調べてみてはどうですか。
ロシア語圏の国々の色彩についても、筆者はまだまだ言いたいことがたくさんあるので楽しみにしていてください。