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2024/10/24 19:00:00 黒でも良いイメージ?

  • Categoryロシア語圏の豆知識
  • Posted by三好マリア
 ご無沙汰していました。色彩のテーマの続きとして今日は「黒」という色です。黒色に対するロシア語圏の国々で昔から受け継がれてきたイメージについてお話しします。

 「黒」といえば、欧米では黒猫に道を横切られると不幸なことが起こるという迷信があったり、日本でも「ブラック企業」という言い方があるぐらいだから、「闇、不吉、孤独、死」といったマイナスイメージを漂わせる色のようですが、昔のロシア語圏の人々の間では、マイナスどころか実は凄くプラスなイメージをもった色だったのです。なぜなら、それに二つの大事な連想が関わっているからだと思われます。

 まず、一つ目は土です。土が肥沃であればあるほど色が黒いらしいです。今でも、作物が最もよく育つとされる非常に肥沃な土の種類のことをロシア語でчернозём[チェルナジョーム]と言いますが、черно-は「黒」、-зёмは「土」という意味なので、要するに「黒土」のことです。因みに、この「黒土」を日本語で検索してみると、なんと「チェルノーゼム」というwikiの記事がヒットするのです。ここで皆さんは一瞬「あれっ?」と思いませんでしたか。先ほど、黒土のことをロシア語で「チェルナジョーム」と言うと書いたと思いますが、この「チェルノーゼム」は間違いではないか、と。筆者も知りませんでしたが、実はwikiの「チェルノーゼム」はウクライナ語の発音なのです。どうしていきなりウクライナ語かというと、(これはソ連生まれ育ちの筆者も流石によく知っていたのですが)実はユーラシア大陸の中で特にウクライナが黒土に恵まれているのです。おかげで、ウクライナは昔から農業がとても盛んな国でした。筆者も実は畑仕事が大好きで、ウクライナではなくベラルーシでですが、子供の頃からчернозёмとたくさん関わって来ていますが、手触りから何からとても立派なお土なので、昔の人々がその連想から黒色にプラスイメージを持ったのも全然理解できます。

 さて、もう一つの連想は何でしょう。それは、чёрный хлеб[チョールヌィイ・ホゥリェープ]と言って、他でもないあの黒パンです。アジア側はやや違いますが、ヨーロッパ側のロシア語圏の人々にとって、黒パンは主食なのです。スープやマッシュポテト、目玉焼き、お肉などなど、どの料理とも一緒に食べます。ロシア語圏の黒パンは表面が固く、噛み応えがあって、ほんのりとした酸味もあって、独特の食感と味を誇ります。そして、この黒パンも、やはり黒ければ黒いほど栄養分が多く健康に良いらしいです。黒パンの主な材料となるライ麦粉ですが、もともと黒味がかかっており、そこにさらに、皮や胚芽を残して精製度を低くすることで焼き上がったパンをもっと黒くすることができます。

 ここで筆者が黒パンについて調べたことをいくつか共有したいと思います。まず、ロシアでの黒パンの人気の理由の一つは、ロシアの土地が昔から他のどの穀物よりもライ麦の栽培に適していたことにあります。また、ライ麦パンの方が小麦パンよりも栄養価が高く保存性も良いから、長い冬を乗り越えるのに大いに役立っていたので、階級や地位に関係なしに、君主たちも一般農民もみんな同じ黒パンを食べていました。(これは、貧乏人と下級の召使いしか黒パンを食べなかったというイギリスや他のヨーロッパの国々とは大きく違うところでもあります。)

 因みに、筆者は日本のスーパーでもよくライ麦パンを見かけるのですが、ロシア語圏の黒パンのように色が本当に黒いものは希少品です。見かける度につい衝動買いしてしまいがちです。

 さて、最後になりますが、ロシア語圏の人々の「黒」の感覚と、日本人のそれとはどうも微妙に違うらしいです。特に、筆者が昔から理解できずにいていつか誰かに教えてほしいのが、日本人の「肌が黒い」という発想です。できれば、反対の「肌が白い」もセットで教えてほしいのですが、「白」の感覚についてはまた次回お話ししたいと思います。

  • 耕したての黒土畑の風景(https://agroexpert.mdより)
  • その形から「レンガ」とも呼ばれるロシア語圏によくある黒パン(http://ru.freepik.comより)
  • どの伝統料理レストランのメニューにも必ず載るという大人気名物「ガーリッククルトン」(http://ru.freepik.comより)

2024/09/08 16:30:00 昔のロシアの太陽は赤かった

  • Categoryロシア語圏の豆知識
  • Posted by三好マリア
いきなり質問します。皆さんの太陽は何色ですか。日の出を象徴するあの白地に赤の「日の丸」を国旗にしているくらいですから、日本の太陽は間違いなく赤いです。日本人の子供に太陽を描かせれば赤いのが多く返って来るでしょう。一方で、眩しいからなのか、砂漠の国の太陽は白いイメージがあるらしいです。そう言えば、中央アジアのカラクム砂漠を舞台にした「Бе́лое со́лнце пусты́ни(砂漠の白い太陽)」というソ連時代の映画がありましたね。

しかし、なんと、ロシアの太陽はいずれとも違います。黄色なのです。夕日ではない昼間の太陽なら、ロシアの子供たちはみんな黄色く描くに違いありません。ちなみに、ベラルーシと日本のハーフである筆者の息子に聞いたら「オレンジ色」と言っていました。なるほど、血が混ざれば太陽の色まで混ざるのですね。

赤は日本では情熱や活力を意味することで知られています。だどすると、地球上の活力の源である太陽が赤いのも十分納得できます。では、黄色はどうでしょう。黄色を狂気の色として貫いていたドストエフスキーや、精神状態が悪化していた時にこそ黄色を多く使っていたゴッホなどはさておいて、黄色を愉悦や幸福、そして(純金の色でもあることから)裕福の色とする文化が多いようです。そう考えたら、人を元気にさせ喜ばせるという太陽が黄色いのも分からなくはないですね。

しかし、ここで一つ、ロシア語母語話者でも意識したことのある人が少ないという情報を皆さんと共有したいです.実は、古代ルーシ(昔のロシアの名前)では、日本と同じく太陽は赤かったのです。当時の衣装やカーテン、テーブルクロスなどに太陽を意味する模様の刺繍をよく施していましたが、全部白地に赤でした。また、赤は何よりも血の色であり、青白く貧血気味の顔よりも血の巡りが良く赤くて元気そうな顔(ほっぺた、唇)の方が美しいとされていました。赤=元気、という意識から、赤=美しい、という発想が生まれたわけです。кра́сно со́лнце(赤日)もそうですが、кра́сна де́вица(赤い娘→美女)、кра́сно словцо́(赤い言葉→名言)といった語句が、枕詞のようなものとしてロシアの古典にも定着していたようです。

ロシアの古典といえば、見た目に一つ大きな特徴があります。添付写真にもありますが、各段落の頭文字が赤色で大袈裟なほど大きく美しく綴られていました。Писа́ть с кра́сной строки́「赤い行から綴る」という表現がその時に生まれ、現代ロシア語でも「改行して書く」という意味で受け継がれ、日常的に使わられています。

因みに、「赤の広場」というモスクワの名所はご存知ですか。実は、赤の広場も、煉瓦だから「赤」とかソ連だから「赤」とかではなく、美しいから「赤」なのです。しかも、あの広場はずっと「赤の広場」と呼ばれていたわけではなく、17世紀後半にそこにロシア正教の聖堂などの美しい建物が建てられるようになってからそう呼ばれるようになり、それまでは「売買の広場(Торг)」や「火事の広場(Пожа́р)」と呼ばれていたらしいです。

赤が、活力の色でもあると同時に攻撃性・危険を象徴する色でもあったり、また、黄色も、愉悦を表す色であると同時に狂気の色でもあったりするように、色彩というのは一見矛盾している部分はあっても、人間の様々な感情や意図を表現するための欠かせない手段であり、その地域や民族の文化に深く根ざしている要素でもあるので、皆さんも学んでいる外国語の国の色彩について今度調べてみてはどうですか。

ロシア語圏の国々の色彩についても、筆者はまだまだ言いたいことがたくさんあるので楽しみにしていてください。
  • ロシアの伝統人形マトリョーシカも、ほっぺたと唇が赤く塗られている(写真はロシア民芸品協会のHPより:https://nkhp.ru/)
  • 頭文字を朱墨で美しく綴られた古典の原本(写真はロシア文化省主催プロジェクト「Культура.РФ」のHPより:https://www.culture.ru/)
  • 少し珍しい角度から撮られた赤の広場(写真はモスクワ市観光プロジェクト「МосКультура」のHPより:https://moskultura.ru/)

2024/08/28 16:20:00 カザフスタン短期留学、お疲れ様でした!

  • Categoryイベント
  • Posted by三好マリア
今日8月28日に、3週間の必修語学留学でカザフスタンに行っていた2年生の皆さんが日本に帰って来ました!前半と後半で1名ずつ引率の教員が付き添っていて(筆者は前半を担当)、さらに現地スタッフの手厚くきめ細かい対応のおかげで、安心して楽しく留学を満喫して来たらしいです。韓国の仁川空港での乗り継ぎ時間がやや長くて疲れたり、寮生活に慣れるまで時間がかかったり、授業でも最初は緊張してうまく発言できなかったりなど、色々大変だったらしいですが、「自分のロシア語が通じた!」「料理がめっちゃ美味しかった!」「タクシーが安い!」「ロシア語版のUNOでいっぱい遊べた」なんていう歓声がたくさん上がっています。留学先で身につけた知識や経験をこれからもぜひ生かしていってもらいたいものです! 2年生の皆さん、お疲れ様でした!
  • 乗り換えの仁川空港にて
  • 国立博物館でカザフの伝統住居「ユルタ」を外から見学
  • 初級の授業でレフ・トルストイの「種」(Косточка)を読んでいたが、先生に本物のプラムまでご馳走してもらった!

2023/12/15 12:50:00 【オンデマンド配信のお知らせ】シンポジウム「日本におけるロシア語コミュニティ通訳の現状-医療通訳を中心に-」

  • Categoryお知らせ
  • Posted byЮ. Хираи
12月13日(水)に開催されたシンポジウム「日本におけるロシア語コミュニティ通訳の現状-医療通訳を中心に-」を期間限定(2024年1月末日まで)で公開しております。

下記のURLよりお申込みいただいた方のメールアドレス宛に視聴用のURLをお送りします。

ライブ配信とは違い、皆さんの都合の良い時間帯で視聴が可能ですので、この機会にぜひご覧ください。

https://forms.gle/KtrNJmwxvEKANmVz5


2023/12/01 13:10:00 12月13日(水)ロシア語学科主催シンポジウム開催のお知らせ

  • Categoryお知らせ
  • Posted byЮ. Хираи
シンポジウム
日本におけるロシア語コミュニティ通訳の現状
-医療通訳を中心に-


日 時:2023年12月13日(水) 13:30-15:30
形 式:会場(対面式)とオンライン(YouTubeライブ)によるハイブリッド開催
会 場:京都外国語大学 1号館7階 171教室
主 催:京都外国語大学外国語学部ロシア語学科
参加費:無料

プログラム
総合司会 菱川 邦俊 氏
(京都外国語大学外国語学部ロシア語学科長)
13:30-13:35 開会の辞 
菱川 邦俊(HISHIKAWA Kunitoshi)氏
(総合司会 京都外国語大学外国語学部ロシア語学科長)
13:35-13:40 挨拶 
藤本 茂(FUJIMOTO Shigeru)氏
(京都外国語大学副学長)
13:40-15:25 シンポジウム
司会 ミソチコ グリゴリー(MISOCHKO Grigory)氏
(京都外国語大学外国語学部ロシア語学科准教授)
パネラー
ベリャコワ エレーナ(BELIAKOVA Elena)氏 
ロシア語通訳者・翻訳者
「日本におけるロシア語通訳者の状況-キャリア形成、通訳の種類・分野-」

若林 恒平(WAKABAYASHI Kohei)氏
一般社団法人 国際メディカルコーディネート事業者協会 理事代理
「現場で求められる医療通訳」

山田 紀子(YAMADA Noriko)氏
P JL株式会社 代表取締役、ロシア語通訳者
「医療現場における通訳-ロシア語通訳者の経験を踏まえて-」
15:25-15:30 総括

会場参加の場合、事前申し込みは不要です。オンライン参加ご希望の方は、12月11日(月)までに以下のURLからお申込みください。12月12日 (火) にお申し込みいただいたメールアドレス宛に参加用URLをお送りします。同じURLで後日オンデマンド配信(期間限定)を予定しております。

https://forms.gle/KtrNJmwxvEKANmVz5










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