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ブラジルポルトガル語学科ブログ RSS

2017/12/24 02:50:00 アフロ・ラテンアメリカの古都リオを歩く (6)

  • Categoryブラジル紹介
  • Posted by住田 育法
 アフリカの土着宗教を継承する古都リオの祈り、カンドンブレ(Candomblé) の世界を取上げましょう。

 皆さんは、外国人を京都や奈良のお寺に案内して、仏像の謂れ (いわれ) を質問されたことはありませんか。例えば薬師如来像について、「私が知っている仏陀の像となぜ異なるのか」とか。答えのひとつは「仏がこの世に現われるとき、さまざまなお姿をされるため」でしょう。「宗教」ではなく「民族学」としての判断です。

 さて、今回のアフロの旅のテーマは、黒人宗教の神々の「像」のことです。まさに、いろいろなお姿に出会うのです。
 リオ北部地区のコンセイサンの丘 (Morro da Conceição) のヴァロンゴ庭園 (Jardim do Valongo) を訪れたとき、壁にカンドンブレにおける神々であるオリシャ (Orixa) の中の最年長の水の女神ナナン (Nanã) が祀られていました(写真)。親しみを込めて「お婆さん」とも呼ばれる女神ですから、おそらくこのヴァロンゴ地区(写真)が、北東部のサルヴァドールからリオにやってきた、シアタおばさん (Tia Ciata) のゆかりの地だからでしょう。女神ナナンは、静かで平和であるが頑固だそうです。服装は紫。シンクレティズム (syncretism) として、キリスト教に一致する聖人は聖サンタナ、聖アンナです。

 カンドンブレの神々は、ブラジル映画によく登場します。
 まず、フェルナンド・メイレーレス(Fernando Meirelles)監督の『シティ・オブ・ゴッド』の中で、映画の冒頭で「鶏が逃げた、捕まえろ」と叫ぶ主人公が、小さな子ども時代の1960年代から1970年代になって、銃を操り、弾丸で殺戮を繰りかえす大人になるとき、黒人宗教の伝道師から、精霊の力を授かりますそれは、宇宙の創造神であり、具体的には天地と運命を創造した最高神のオロドゥマレ (Olodumare) またはオロルン (Olorun) が最初に作ったオリシャである性欲と生命力を司る神エシュ(Exu) でした。この神の色は赤と黒、シンボルはオゴ (Ogo = ラッパとひょうたんで飾った杖) です。この映画を私は、公開とほぼ同時の2002年9月2日にリオ州ニテロイ市のイカライ映画館で見ました。その時、たいへん素晴らしい作品だと感動したことが思い出されます。当時のカルドーゾ大統領は、子どもたちもこの作品を見るように勧めていました。実はそのときは、このエシュ(Exu) の心霊を受けることで主人公が名をゼー・ペケーノ (Zé Pequeno) に変えて、そのとき極悪人に豹変する、という展開にはあまり気が付きませんでした。
 エクトール・バベンコ (Héctor Eduardo Babenco 1946 – 2016) 監督がリオを舞台とした銀行強盗団の生活を描いた『ルーシオ・フラーヴィオ、傷だらけの生涯 (Lúcio Flávio, o Passageiro da Agonia)』(1977年) で、平然と殺人を 犯す凶悪な犯罪者の日常を描いています。注目すべきは、黒人宗教について、ネルソン・ペレイラ監督の『リオ北部地区』でサンバの黒人作曲家を演じたグランデ・オテーロ (Grande Otelo 1915 - 1993) が、イエマンジャ (Iemanja)、これは映画ではジャナイーナ(Janaina)と呼んでいますが、この神を信仰し、フラーヴィオを気遣う低所得者層共同体 (comunidade) の住人を演じていることです。イエマンジャはオリシャたちの母であり、妊娠、出産を司ります。したがって、オグン(Ogum) と呼ばれる剣と盾を持ち、体中長い毛に覆われた戦いの神はそのイェマンジャの子とされています。白馬にまたがり槍を抱えて、不正を暴露するために世界中を旅してまわる姿は、観客にとって、フラーヴィオに重なります。 
 もうひとつ、映画が扱った神を紹介します。リオで仕事をした気鋭のグラウベル・ロッシャ (Glauber de Andrade Rocha 1939 – 1981) 監督の作品『アントニオ・ダス・モルテス(聖戦士に対する悪しき竜)』(1969年)の聖戦士です。映画の最後で勝利するのは、奴隷のような立場の黒人の聖戦士であり、成敗されたのは悪しき竜たる地主でした。神はオショシ(Oxossi) で、シンクレティズムとしてのキリスト教の聖人では聖ジョルジュや聖セバスチャンとなるそうです。
  • コンセイサンの丘 (Morro da Conceição) のヴァロンゴ庭園 (Jardim do Valongo) の壁面に祀られているカンドンブレ(Candomblé)の女神ナナン (Nanã)
  • 2017年、映画の舞台となったセントラル・ステーションが望めるヴァロンゴ庭園 (Jardim do Valongo) を歩く。
  • グランデ・オテーロが、イエマンジャ、あるいはジャナイーナと呼ぶ神を信仰し、レジナルド・ファリア (Reginaldo Faria) 演じる主人公フラーヴィオを気遣う低所得者層共同体 (comunidade) の住人を演じる。

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