2017/12/21 11:30:00 アフロ・ラテンアメリカの古都リオを歩く (5)
ブラジル紹介
住田 育法
古都リオの魅力はコントラストの姿です。
すでに何度か取上げているシュテファン・ツヴァイク (Stefan Zweig 1881 - 1942) は、1941年に発行の Brasil, um país do futuro (未来の国ブラジル) で次のように書いています。なお、同書はこの年に、ドイツ語版をストックホルムで、英語版やスペイン語版、スウェーデン語版、フランス語版をニューヨークで発行しています。ポルトガル語版はリオとポルトガルでの出版でした。
Arte dos contraste
Para emocionar, uma cidade precisa ter em si tensões fortes e contrastes. Uma cidade que é só moderna é monó tona, uma cidade atrasada se torna cesconfrotável com o passar d o tempo. Uma cidade proletária traz tristeza, e um local de luxo provoca tédio e mau humor depois de algum tempo. Quando mais camadas uma cidade possui, e em quanto mais matizes de cores seus contrastes se graduem, mais atraente será: assim é o Rio de Janeiro. (2006年発行のポルトガル語版 p. 152)
コントラストのアート
ある都市が人を感動させるためには、強力かつ対照的な緊張感を持たなければならない。近代的だけの都市は単調であり、遅れている都市は時がすぎれば快適でなくなる。プロレタリアートの都市は悲しく、豪華絢爛の町並みはときがたてば不機嫌かつ倦怠感がうまれる。1つの都市により多くの階層があればあるほど、またその階層により対照的な色彩の階段が刻まれていればいるほど、より魅力的となる。それがリオだ。
日本の幕末から明治維新にかけてのころでした。南米ブラジルの古都リオは1822年にポルトガルからの独立を宣言したポルトガル王室の王子ペドロ一世、この息子で、ブラジル生まれのペドロ二世の時代 (1840 - 1889年) を迎えていました。厳格なヒエラルキーを基本とするエリート体制下の貴族と、黒人奴隷制度によってリオのコーヒー農園で働く黒い肌の男たちを、同時代かつ同一空間で受入れる社会が存在したのです。まさに、上流階層の貴族と下層階層の奴隷の好みが共存していたのです。興味深いのは、こうした二極社会が、特異な異種族混淆による日常生活の場で1つの古都リオのブラジル人を形成したことです。
ブラジルの人類学者リア.ザノッタ・マシャードさんは、その社会は「家の外 (rua) ではリーダーである男が、屋内 (casa) においては、子育てや料理をする女性の《愛》によって支配される」ものであると説明しています。リア・ザノッタさんに影響を与えたリオを代表する文化人である人類学者のロベルト・ダ・マタさんは、この社会の特徴は「多様」ではなく「1つ」であることだと述べています。最近のインタビューで「リオの社会は貴族社会と奴隷社会が混淆した伝統的な1つの社会である」と語っています。
古都リオのコントラストをネルソン・ペレイラ監督は映画『リオ40度』(1955年) で表現しています(写真)。これは同監督最初の長編映画です。それまでリオは、瀟洒 (しょうしゃ)な町並の国際観光都市 として描かれる傾向にありましたが、低所得者共同体で生活する黒人の子どもたちの日常生活を取りあげたことで、1960年代に起こる「新しい映画」誕生に息吹をもたらしたのです。写真の低所得者層の居住区は映画の舞台となったリオ北地区のスラムです。これはポルトガル語で favela と呼びますが、近年、comunidade という表現を用いるようになりました。
21世紀の初頭、エリートではない北東部出身のルーラ大統領が誕生し、低所得者層への手厚い保護が一般化しました。社会格差の是正を掲げる連邦政府の強い意向でした。この傾向は中道右派の現政権でも引き継がれています。
すでに何度か取上げているシュテファン・ツヴァイク (Stefan Zweig 1881 - 1942) は、1941年に発行の Brasil, um país do futuro (未来の国ブラジル) で次のように書いています。なお、同書はこの年に、ドイツ語版をストックホルムで、英語版やスペイン語版、スウェーデン語版、フランス語版をニューヨークで発行しています。ポルトガル語版はリオとポルトガルでの出版でした。
Arte dos contraste
Para emocionar, uma cidade precisa ter em si tensões fortes e contrastes. Uma cidade que é só moderna é monó tona, uma cidade atrasada se torna cesconfrotável com o passar d o tempo. Uma cidade proletária traz tristeza, e um local de luxo provoca tédio e mau humor depois de algum tempo. Quando mais camadas uma cidade possui, e em quanto mais matizes de cores seus contrastes se graduem, mais atraente será: assim é o Rio de Janeiro. (2006年発行のポルトガル語版 p. 152)
コントラストのアート
ある都市が人を感動させるためには、強力かつ対照的な緊張感を持たなければならない。近代的だけの都市は単調であり、遅れている都市は時がすぎれば快適でなくなる。プロレタリアートの都市は悲しく、豪華絢爛の町並みはときがたてば不機嫌かつ倦怠感がうまれる。1つの都市により多くの階層があればあるほど、またその階層により対照的な色彩の階段が刻まれていればいるほど、より魅力的となる。それがリオだ。
日本の幕末から明治維新にかけてのころでした。南米ブラジルの古都リオは1822年にポルトガルからの独立を宣言したポルトガル王室の王子ペドロ一世、この息子で、ブラジル生まれのペドロ二世の時代 (1840 - 1889年) を迎えていました。厳格なヒエラルキーを基本とするエリート体制下の貴族と、黒人奴隷制度によってリオのコーヒー農園で働く黒い肌の男たちを、同時代かつ同一空間で受入れる社会が存在したのです。まさに、上流階層の貴族と下層階層の奴隷の好みが共存していたのです。興味深いのは、こうした二極社会が、特異な異種族混淆による日常生活の場で1つの古都リオのブラジル人を形成したことです。
ブラジルの人類学者リア.ザノッタ・マシャードさんは、その社会は「家の外 (rua) ではリーダーである男が、屋内 (casa) においては、子育てや料理をする女性の《愛》によって支配される」ものであると説明しています。リア・ザノッタさんに影響を与えたリオを代表する文化人である人類学者のロベルト・ダ・マタさんは、この社会の特徴は「多様」ではなく「1つ」であることだと述べています。最近のインタビューで「リオの社会は貴族社会と奴隷社会が混淆した伝統的な1つの社会である」と語っています。
古都リオのコントラストをネルソン・ペレイラ監督は映画『リオ40度』(1955年) で表現しています(写真)。これは同監督最初の長編映画です。それまでリオは、瀟洒 (しょうしゃ)な町並の国際観光都市 として描かれる傾向にありましたが、低所得者共同体で生活する黒人の子どもたちの日常生活を取りあげたことで、1960年代に起こる「新しい映画」誕生に息吹をもたらしたのです。写真の低所得者層の居住区は映画の舞台となったリオ北地区のスラムです。これはポルトガル語で favela と呼びますが、近年、comunidade という表現を用いるようになりました。
21世紀の初頭、エリートではない北東部出身のルーラ大統領が誕生し、低所得者層への手厚い保護が一般化しました。社会格差の是正を掲げる連邦政府の強い意向でした。この傾向は中道右派の現政権でも引き継がれています。
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リオ観光のシンボルのポンデアスーカル (Pão de Açúcar) と中心街手前の低所得者層居住地
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サンバ発祥のコンセイサンの丘 (Morro da Conceição) から望む北地区の低所得者層居住地
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映画『リオ40度』の主役の子ども ネルソン・ペレイラ監督が写真提供