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ブラジルポルトガル語学科ブログ RSS

2016/12/12 02:10:00 東アジア南蛮空間の旅(3)

  • Categoryマカオのニュース
  • Posted by住田 育法
 南蛮空間マカオ訪問の楽しみは、大航海時代の食文化の遺産との出会いです。特に、ポルトガルの赤ワインとインド洋に面した各地のスパイスを利用した、アフリカンチキンとの組合わせは絶妙です。夏至に太陽光線が垂直に照返す北緯23度の北回帰線の通る台湾の、さらに南の亜熱帯にマカオが位置していることも、温帯とは異なる食の醍醐味に私たちを誘ってくれます。それは亜熱帯で甘い熱帯フルーツを味わえる贅沢です。

 ポルトガル人の友人はよく自宅の庭に植えられている果樹を話題にします。植民地であったブラジルでも、庭の植物は砂糖を使ってジャムにできるような果実をつける木を好みます。果樹園のないマカオでは、もっぱら周辺のフィリッピンなどからの輸入ですが、市場はいつもバナナやマンゴーで溢れています。

 中国返還まえの1992年にマカオでポルトガル人のジョゼ-・エドゥアルド・メンデス・フェラン(José Eduardo Mendes Ferrão)さんがポルトガル語と中国語で出版した、和訳すると『植物の冒険とポルトガル人の地理上の発見』というタイトルの本が手元にあります。

ポルトガル語:
A Aventura das Plantas e Descobrimentos Portugueses
中国語:
植物的旅程與葡國航海大發現

 マカオをポルトガル語圏だとすれば、ポルトガルを除く世界9ヵ国のポルトガル語圏は、すべて熱帯か亜熱帯に属しています。したがって、この本が取上げている旧世界の植物、新世界の植物、その多くが、熱帯や亜熱帯の食用のものです。

 大航海時代に、アフリカに面したイベリア半島のポルトガルは、熱帯を「発見」し、その豊かな「果実」を世界に伝えました。『植物の冒険とポルトガル人の地理上の発見』によると、アボガドやピーナッツ、バニラ、グアバ、トマトは中米原産、パイナップルやカジューは南米、チョコレートの原料のカカオはカリブ海に面した南米、パッションフルーツは中南米、パパイアがアンデス地域の原産のようです。

 興味深いのは、現在ではブラジルを代表するバナナやココヤシ、マンゴー、サトウキビの原産地が東南アジアだということです。つまりポルトガル人は大航海時代に、新世界の産物を旧世界へ、旧世界の産物を新世界へ運んだのです。植物のみではなく、家畜などの動物も、そして人も運び、接触させ、発展させたのです。

 南蛮の民が日本に伝えてジャガイモはジャワの芋、サツマイモは薩摩の芋、さらに南米のトウガラシは唐の辛子と呼ぶようになったということも、アジアを拠点に交易を進めたポルトガル人の活動を考えると納得できます。ところでこの南蛮ですが、繁体字を用いるマカオでは「南蠻」と書きます。これを中国語のウィキペディア中文百科にアクセスすると「古代中国で南の民を呼んだ蔑称」という説明のみが強調されています。そのため私は、ポルトガル人に「中国人は南の野蛮人という意味で用いたが、私たち日本人は人道的なキリスト教や歴史を変えた鉄炮などを伝えた西洋への憧れの気持ちから、ポルトガル人のことを南蛮人と呼ぶ」と説明しています。
  • マカオのレストランで食べたアフリカンチキン
  • マカオとリスボンで出版された『植物の冒険とポルトガルの地理上の発見』
  • マカオ博物館の丘の麓のガジュマル(榕樹)

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