お知らせ
2023/10/29 12:10:00 語劇祭「王子様の耳はロバの耳」開催のお知らせ
- お知らせ
- 岐部雅之/フェリッペ・モッタ
外大祭のイベントの一つ語劇祭が以下の日程で開催されます。
開催に先立ち、ブラジルポルトガル語研究会のメンバーから意気込みと練習風景などの写真が届いてるので、合わせてご紹介します。
演題:「王子様の耳はロバの耳」
日時:11月4日(土)9時半から(開場は9時)
場所:森田記念講堂
≪メンバーの意気込み≫
●音響担当として語劇に参加しています。演劇に携わるのは初めての経験である上、ポルトガル語を学び始めて間もない私ですが、演者のみなさんのサポートを含め、精一杯頑張りたいです。(奥山紘佑、1年次)
●私は王子役で出演します。芝居をすることに対する不安はありますが、ポルトガル語で演じるという嬉しさも同時に感じています。練習の成果が出せるようベストを尽くして頑張ります。(白井浩士、1年次)
昨年度(2022年度)、ブラジルポルトガル語研究会はディズニーにインスピレーションを得た「Três Felizes Amigos~三人の騎士~」で、最優秀賞など数多くの賞を獲得しました。
今年度も限られた練習時間の中で、メンバー全員が語劇の成功に向けてひたむきに努力しています。
在学生や卒業生のほか、学外の皆様もぜひお越しください。
開催に先立ち、ブラジルポルトガル語研究会のメンバーから意気込みと練習風景などの写真が届いてるので、合わせてご紹介します。
演題:「王子様の耳はロバの耳」
日時:11月4日(土)9時半から(開場は9時)
場所:森田記念講堂
≪メンバーの意気込み≫
●音響担当として語劇に参加しています。演劇に携わるのは初めての経験である上、ポルトガル語を学び始めて間もない私ですが、演者のみなさんのサポートを含め、精一杯頑張りたいです。(奥山紘佑、1年次)
●私は王子役で出演します。芝居をすることに対する不安はありますが、ポルトガル語で演じるという嬉しさも同時に感じています。練習の成果が出せるようベストを尽くして頑張ります。(白井浩士、1年次)
昨年度(2022年度)、ブラジルポルトガル語研究会はディズニーにインスピレーションを得た「Três Felizes Amigos~三人の騎士~」で、最優秀賞など数多くの賞を獲得しました。
今年度も限られた練習時間の中で、メンバー全員が語劇の成功に向けてひたむきに努力しています。
在学生や卒業生のほか、学外の皆様もぜひお越しください。
2023/10/20 10:40:00 古賀麻里子(1年次)さんがスピーチコンテストで優勝
- お知らせ
- フェリッペ・モッタ
10月4日、本学科の1年次生の古賀麻里子さんが、在名古屋ブラジル総領事館主催第6回スピーチコンテスト(第Ⅳ部門 ブラジル国籍を有しない18歳以上)で第一位を獲得したことが発表されました。
古賀さんは幼いころブラジルに住んだ経験があり、自分のポルトガル語能力を磨こうと思い本学科に入学することを決意しました。大学生になり、講義の傍らポルトガル語の自習にも励む毎日を送っています。学科の教員より在名古屋ブラジル総領事館主催のスピーチコンテストのことを知り、入学から数か月という期間にもかかわらず見事に第一位に輝きました。
入賞の発表に際して、古賀さんは「今回のスピーチコンテストで第一位をいただけたことに対し支えてくれた先生方や友達にMuito obrigadaと感謝の意を伝えたいです! 今回初めてスピーチコンテストに応募してみてブラジル社会との日本社会との深い関係や歴史を知ることができ、そして自分の思ったことをポルトガル語で伝えることができる楽しさが得られたと思います。自分の大好きなポルトガル語をこうした形で発揮することができるのが何よりも嬉しいです。今回の経験を通してより自分のポルトガル語を磨いていきたいと思いました」と述べています。
古賀さん、おめでとうございます!
下記に古賀さんのスピーチ全文をポルトガル語および日本語で記します。
(※古賀さんのスピーチ原文を尊重し、手入れをせず応募されたままにしております。ご了承ください。)
☆☆☆☆☆
Título:A Importância de ter orgulho de si mesmo
Senhoras e senhores, boa tarde! Meu nome é Mariko Koga.
A partir de agora, eu gostaria de falar um pouco sobre a minha experiência quando eu vivi no Brasil e o impacto da sociedade multicultural.
2023 marca o 115º aniversário da chegada do Kasato Maru a Santos. Em primeiro lugar eu quero falar “parabéns!”para a comunidade de nikkei-brasileira.
Deixe-me falar um pouco sobre mim. Eu morei no Brasil por quatro anos. Quando fui para o Brasil como japonesa, a um país que não conhecia, não pude esconder minha surpresa ao notar que havia muitas pessoas com as mesmas raízes que eu do outro lado do mundo.
Antigamente, as pessoas não podiam circular livremente entre os países, então não tinham oportunidade de interagir com outras culturas e pessoas.
Mas agora nós podemos emigrar para outro país por nossa própria vontade. O Brasil é um país multiétnico com pessoas de várias raízes, por isso existem muitas culturas e formas de pensar. Portanto, acho que as pessoas sempre têm o espírito do amor-próprio em seus corações. Pode parecer fácil sentir orgulho de si mesmo, mas não é. Acredito que este é um espírito que não pode nascer sem a diversidade.
Eu gostaria de voltar minha atenção para o Japão também.
Acho que os jovens no Japão hoje se preocupam demais com o que os cerca e escondem seu verdadeiro eu. Acho que o mais importante é não se perder de vista, especialmente agora que a verdadeira diversidade tem aumentado devido à globalização. A exposição a culturas e conhecimentos mais diversos do mundo levará gradualmente à autoconfiança.
No futuro, a globalização progredirá e a sociedade se transformará em uma sociedade mais diversificada e diversa. Espero do fundo do meu coração que nos tornemos uma sociedade onde cada um de nós pense que todos são diferentes e todos são bons.
演題:自分に誇りを持つことの大切さ
皆さんこんにちは。私は京都外国大学ブラジルポルトガル語学科一年次の古賀麻里子です。
これからは私が実際にブラジルに駐在して経験した多文化社会がもたらす影響について少しお話したいです。
2023年は笠戸丸の到着から115周年を刻みます。まず日系ブラジル社会に「parabéns!」と伝えたいです。
ここから少し自分のことについて話させていただきます。私はブラジルに四年間滞在していて、そこでたくさんの日系人の方の恩恵を受けました。自分の知らない国に日本人としてブラジルに行った際に、地球の裏に自分と同じルーツの人がたくさんいたことに当時の私は驚きを隠せませんでした。
昔は自由に国を行き来することができず、他国の文化や人と接する機会がありませんでした。
しかし今は自分自身の意思で他国に移住することができます。ブラジルは多民族国家で様々なルーツを持つ人々が暮らしているため、たくさんの文化や考え方があります。そのため人々の心には常に「アイラブミー」の精神があると思います。自分自身に誇りを持つことは一見簡単そうに見えますが、これには多様な人々がいないと生まれない精神であると思います。
すこし日本にも視野を向けていきたいです。
今の日本の若者は周りを気にしすぎて本当の自分を隠しているのではないかと思います。グローバル化によって今後より一層多様な人が増えていく中で、一番大事なのは自分を見失わないことだと思います。より多様な文化にふれ、世界を知ることでだんだんと自分に自信を持てるようになるのでしょうか。
今後、グローバル化が進み、より一層多様な社会へと変化することでしょう。今後みな一人一人が「みんな違ってみんないい」って思えるような社会になって欲しいと心から願っています。
古賀さんは幼いころブラジルに住んだ経験があり、自分のポルトガル語能力を磨こうと思い本学科に入学することを決意しました。大学生になり、講義の傍らポルトガル語の自習にも励む毎日を送っています。学科の教員より在名古屋ブラジル総領事館主催のスピーチコンテストのことを知り、入学から数か月という期間にもかかわらず見事に第一位に輝きました。
入賞の発表に際して、古賀さんは「今回のスピーチコンテストで第一位をいただけたことに対し支えてくれた先生方や友達にMuito obrigadaと感謝の意を伝えたいです! 今回初めてスピーチコンテストに応募してみてブラジル社会との日本社会との深い関係や歴史を知ることができ、そして自分の思ったことをポルトガル語で伝えることができる楽しさが得られたと思います。自分の大好きなポルトガル語をこうした形で発揮することができるのが何よりも嬉しいです。今回の経験を通してより自分のポルトガル語を磨いていきたいと思いました」と述べています。
古賀さん、おめでとうございます!
下記に古賀さんのスピーチ全文をポルトガル語および日本語で記します。
(※古賀さんのスピーチ原文を尊重し、手入れをせず応募されたままにしております。ご了承ください。)
☆☆☆☆☆
Título:A Importância de ter orgulho de si mesmo
Senhoras e senhores, boa tarde! Meu nome é Mariko Koga.
A partir de agora, eu gostaria de falar um pouco sobre a minha experiência quando eu vivi no Brasil e o impacto da sociedade multicultural.
2023 marca o 115º aniversário da chegada do Kasato Maru a Santos. Em primeiro lugar eu quero falar “parabéns!”para a comunidade de nikkei-brasileira.
Deixe-me falar um pouco sobre mim. Eu morei no Brasil por quatro anos. Quando fui para o Brasil como japonesa, a um país que não conhecia, não pude esconder minha surpresa ao notar que havia muitas pessoas com as mesmas raízes que eu do outro lado do mundo.
Antigamente, as pessoas não podiam circular livremente entre os países, então não tinham oportunidade de interagir com outras culturas e pessoas.
Mas agora nós podemos emigrar para outro país por nossa própria vontade. O Brasil é um país multiétnico com pessoas de várias raízes, por isso existem muitas culturas e formas de pensar. Portanto, acho que as pessoas sempre têm o espírito do amor-próprio em seus corações. Pode parecer fácil sentir orgulho de si mesmo, mas não é. Acredito que este é um espírito que não pode nascer sem a diversidade.
Eu gostaria de voltar minha atenção para o Japão também.
Acho que os jovens no Japão hoje se preocupam demais com o que os cerca e escondem seu verdadeiro eu. Acho que o mais importante é não se perder de vista, especialmente agora que a verdadeira diversidade tem aumentado devido à globalização. A exposição a culturas e conhecimentos mais diversos do mundo levará gradualmente à autoconfiança.
No futuro, a globalização progredirá e a sociedade se transformará em uma sociedade mais diversificada e diversa. Espero do fundo do meu coração que nos tornemos uma sociedade onde cada um de nós pense que todos são diferentes e todos são bons.
演題:自分に誇りを持つことの大切さ
皆さんこんにちは。私は京都外国大学ブラジルポルトガル語学科一年次の古賀麻里子です。
これからは私が実際にブラジルに駐在して経験した多文化社会がもたらす影響について少しお話したいです。
2023年は笠戸丸の到着から115周年を刻みます。まず日系ブラジル社会に「parabéns!」と伝えたいです。
ここから少し自分のことについて話させていただきます。私はブラジルに四年間滞在していて、そこでたくさんの日系人の方の恩恵を受けました。自分の知らない国に日本人としてブラジルに行った際に、地球の裏に自分と同じルーツの人がたくさんいたことに当時の私は驚きを隠せませんでした。
昔は自由に国を行き来することができず、他国の文化や人と接する機会がありませんでした。
しかし今は自分自身の意思で他国に移住することができます。ブラジルは多民族国家で様々なルーツを持つ人々が暮らしているため、たくさんの文化や考え方があります。そのため人々の心には常に「アイラブミー」の精神があると思います。自分自身に誇りを持つことは一見簡単そうに見えますが、これには多様な人々がいないと生まれない精神であると思います。
すこし日本にも視野を向けていきたいです。
今の日本の若者は周りを気にしすぎて本当の自分を隠しているのではないかと思います。グローバル化によって今後より一層多様な人が増えていく中で、一番大事なのは自分を見失わないことだと思います。より多様な文化にふれ、世界を知ることでだんだんと自分に自信を持てるようになるのでしょうか。
今後、グローバル化が進み、より一層多様な社会へと変化することでしょう。今後みな一人一人が「みんな違ってみんないい」って思えるような社会になって欲しいと心から願っています。
2023/10/10 16:20:00 読書感想文コンクール 入賞者が決定!
- お知らせ
- 上田
7月のブラジルポルトガルウィークのイベントの一つとして開催された「読書感想文コンクール」(課題図書:ルイ・ズィンク、黒澤直俊編『ポルトガル短篇小説傑作選』現代企画室、2019)の入賞者が決定し、10月5日に表彰式が行われました。入賞者は以下の皆さんです。
1. 最優秀賞:田村翼(1年次生)
2. 優秀賞:田邊有香(4年次生)
3. 優良賞:古賀麻里子(1年次生)
最優秀賞の田村翼さんは、「普段から本を読むことが好きで、夏休みの北海道旅行中に課題図書を読んだ。また来年もチャレンジしたい」と話していました。普段の暮らしの中に本があるというのは素晴らしいことですね!
入賞者の皆さん、おめでとうございます。
以下に田村翼さんの読書感想文を掲載します。
私がいくつかの短編の中からこの話(「美容師」)を選んだ理由は、その小気味良い一人称の書き出しからです。「髪を切るっていいですね。私も短い方が好きです。」このとても軽やかな書き出しからは、 陽気な女性のエッセイでも始まるような印象を受けます。最初のページを読み終えた時点でまさか彼女が殺人犯であるとは誰も思わないでしょう。
彼女の人生は我慢の歴史です。おじからは性的な虐待を受けました。 夫からは暴力を受け、不倫までされました。しかし彼女は我慢という言葉を使いません。「完璧に誰の邪魔もすることなく」「慣れていた」というような、あくまで自分はそこまで辛くなかったというような言い回しをします。自分が同じ立場に置かれたらと思うと恐ろしい気持ちになりますが、不思議と空から彼女を見下ろしている分にはそこまでつらい印象は受けません。
実際彼女のような人間が自分だった場合、私は非常に不愉快だと思います。自分のことは後回し。他人ばかりを優先して辛い目に遭う。自己主張もできない。しかし彼女にそこまでの嫌悪感を抱かないのはあくまで他人事だからだと思います。むしろ過酷な競争である就職活動などの中では、 彼女のような存在が潤滑油なのかなと思います。彼女は自分がなれなかった競争的な女性を「戦う女」と表現していました。彼女は戦って負けるタイプではく、そもそも戦うことを避けていたのだと思います。
率直に怖いなと感じたのは、彼女が夫を刺した後に「悪気はなかった」「わざと(中略)悪いことをするような人間ではなかった」「激昂するような人間でもなかった」と話していたことです。彼女は夫を刺しに行くまでの感情の中に「奇妙な勇気」という言葉を用いています。人を刺しに行くのに、勇気。しかも悪気がないし激昂もしていないとあれば、彼女は自己観察のできていないサイコパスなのではないかとも伺えてしまいます。しかしそうではありません。むしろ文字を追う限り、彼女は自己観察のスペシャリストです。自分が周りに流されて、なんでも受け入れてしまう女性であることを非常によくわかっています。
この話には彼女の半生が綴られているわけですが、 彼女は幸せだったのでしょうか。幸せとはとても曖昧な言葉でもありますが、幸せを得るものだと仮定する場合彼女には難しかったと思います。 彼女は非競争的な性分で反抗心も薄い人物です。しかし彼女はテレビ局の事務員という安定した職につき、そこで眉目秀麗なニュースキャスターの男性と結婚できています。こう見ると彼女の人生はとてもバラ色の人生なのではないかとすら思えますが、この文章に書かれていることのほとんどは彼女が辛かったこと、つまり我慢の歴史です。 彼女の面白いところは一般的に見たら幸運そうなチャンスを掴んでいても、彼女からすれば辛いことばかりだったということです。
この話の題名が「美容師」であることを考えてみたいと思います。彼女は最終的には美容師として働いている描写があります。この話自体も、今カットを行なっている客への話しかけから始まり、最後にはカットが終わったような描写も含まれています。これはあくまで文章全体に及ぶ彼女の一人称の語りが独り言でも妄想でもなく、客を相手にした語りだということが推測できます。彼女は美容師になりたかったと文章中にはありましたが、 時勢や環境の都合から安定した職を求めテレビ局の書類係となりました。そのことが後の事件へとつながるわけですが、彼女がもともとなりたかった美容師という職についているということは彼女の運命を表しているようにも感じます。彼女が夫の命を奪った道具ははさみでした。しかし、彼女が美容師たりえるアイデンティティを確立している道具もまたはさみなのです。話の中に、このような一節がありました。「切ることが私の幸せなんです。(中略)まるでなにごともないかのように滑らかに姿を変えてしまうはさみ」とあります。この記述だけ見れば私はこの話のタイトルは「はさみ」でいいのではないのかとも思いました。彼女の人生を作っているのは良くも悪くもはさみであるからです。しかし私は、作者がつけた「美容師」という題名も大変好きです。はさみはあくまで道具で、それをどう使うかは彼女が決めることです。 彼女は2通りのはさみの使い方をしてしまったわけですが、 切ることが幸せであった彼女にとっては、どちらも幸せであったのかもしれません。夫を刺し殺したはさみも、彼女にとって滑らかに生活を変えてくれる道具でもあると感じました。
最後付加的ではありますが、彼女の語りを聞いていてカットもされていた客の気持ちになってみましょう。萩原浩が書いた「海の見える理髪店」という短編小説の中にこのような記述があったことを覚えています。 理髪師である店主が殺人を告白したとき、 首に当たっているカミソリが冷たく感じたというような内容です。「美容師」の話の中に客の思考などは一切ありませんが、想像してみるとかなり面白いと思います。「はさみ」で人を刺し殺した美容師が、同じ「はさみ」で自分の髪を切っている。彼女から殺人の話を聞いたとき、私がそこに座っていたら、きっと冷や汗を垂らしながら金縛りに遭っていると思います。
1. 最優秀賞:田村翼(1年次生)
2. 優秀賞:田邊有香(4年次生)
3. 優良賞:古賀麻里子(1年次生)
最優秀賞の田村翼さんは、「普段から本を読むことが好きで、夏休みの北海道旅行中に課題図書を読んだ。また来年もチャレンジしたい」と話していました。普段の暮らしの中に本があるというのは素晴らしいことですね!
入賞者の皆さん、おめでとうございます。
以下に田村翼さんの読書感想文を掲載します。
「彼女のはさみの使い方」
私がいくつかの短編の中からこの話(「美容師」)を選んだ理由は、その小気味良い一人称の書き出しからです。「髪を切るっていいですね。私も短い方が好きです。」このとても軽やかな書き出しからは、 陽気な女性のエッセイでも始まるような印象を受けます。最初のページを読み終えた時点でまさか彼女が殺人犯であるとは誰も思わないでしょう。
彼女の人生は我慢の歴史です。おじからは性的な虐待を受けました。 夫からは暴力を受け、不倫までされました。しかし彼女は我慢という言葉を使いません。「完璧に誰の邪魔もすることなく」「慣れていた」というような、あくまで自分はそこまで辛くなかったというような言い回しをします。自分が同じ立場に置かれたらと思うと恐ろしい気持ちになりますが、不思議と空から彼女を見下ろしている分にはそこまでつらい印象は受けません。
実際彼女のような人間が自分だった場合、私は非常に不愉快だと思います。自分のことは後回し。他人ばかりを優先して辛い目に遭う。自己主張もできない。しかし彼女にそこまでの嫌悪感を抱かないのはあくまで他人事だからだと思います。むしろ過酷な競争である就職活動などの中では、 彼女のような存在が潤滑油なのかなと思います。彼女は自分がなれなかった競争的な女性を「戦う女」と表現していました。彼女は戦って負けるタイプではく、そもそも戦うことを避けていたのだと思います。
率直に怖いなと感じたのは、彼女が夫を刺した後に「悪気はなかった」「わざと(中略)悪いことをするような人間ではなかった」「激昂するような人間でもなかった」と話していたことです。彼女は夫を刺しに行くまでの感情の中に「奇妙な勇気」という言葉を用いています。人を刺しに行くのに、勇気。しかも悪気がないし激昂もしていないとあれば、彼女は自己観察のできていないサイコパスなのではないかとも伺えてしまいます。しかしそうではありません。むしろ文字を追う限り、彼女は自己観察のスペシャリストです。自分が周りに流されて、なんでも受け入れてしまう女性であることを非常によくわかっています。
この話には彼女の半生が綴られているわけですが、 彼女は幸せだったのでしょうか。幸せとはとても曖昧な言葉でもありますが、幸せを得るものだと仮定する場合彼女には難しかったと思います。 彼女は非競争的な性分で反抗心も薄い人物です。しかし彼女はテレビ局の事務員という安定した職につき、そこで眉目秀麗なニュースキャスターの男性と結婚できています。こう見ると彼女の人生はとてもバラ色の人生なのではないかとすら思えますが、この文章に書かれていることのほとんどは彼女が辛かったこと、つまり我慢の歴史です。 彼女の面白いところは一般的に見たら幸運そうなチャンスを掴んでいても、彼女からすれば辛いことばかりだったということです。
この話の題名が「美容師」であることを考えてみたいと思います。彼女は最終的には美容師として働いている描写があります。この話自体も、今カットを行なっている客への話しかけから始まり、最後にはカットが終わったような描写も含まれています。これはあくまで文章全体に及ぶ彼女の一人称の語りが独り言でも妄想でもなく、客を相手にした語りだということが推測できます。彼女は美容師になりたかったと文章中にはありましたが、 時勢や環境の都合から安定した職を求めテレビ局の書類係となりました。そのことが後の事件へとつながるわけですが、彼女がもともとなりたかった美容師という職についているということは彼女の運命を表しているようにも感じます。彼女が夫の命を奪った道具ははさみでした。しかし、彼女が美容師たりえるアイデンティティを確立している道具もまたはさみなのです。話の中に、このような一節がありました。「切ることが私の幸せなんです。(中略)まるでなにごともないかのように滑らかに姿を変えてしまうはさみ」とあります。この記述だけ見れば私はこの話のタイトルは「はさみ」でいいのではないのかとも思いました。彼女の人生を作っているのは良くも悪くもはさみであるからです。しかし私は、作者がつけた「美容師」という題名も大変好きです。はさみはあくまで道具で、それをどう使うかは彼女が決めることです。 彼女は2通りのはさみの使い方をしてしまったわけですが、 切ることが幸せであった彼女にとっては、どちらも幸せであったのかもしれません。夫を刺し殺したはさみも、彼女にとって滑らかに生活を変えてくれる道具でもあると感じました。
最後付加的ではありますが、彼女の語りを聞いていてカットもされていた客の気持ちになってみましょう。萩原浩が書いた「海の見える理髪店」という短編小説の中にこのような記述があったことを覚えています。 理髪師である店主が殺人を告白したとき、 首に当たっているカミソリが冷たく感じたというような内容です。「美容師」の話の中に客の思考などは一切ありませんが、想像してみるとかなり面白いと思います。「はさみ」で人を刺し殺した美容師が、同じ「はさみ」で自分の髪を切っている。彼女から殺人の話を聞いたとき、私がそこに座っていたら、きっと冷や汗を垂らしながら金縛りに遭っていると思います。
2023/10/02 07:00:00 本学科の在学生3人、京都府警察鉄道警察隊に感謝状を贈呈される
- お知らせ
- フェリッペ・モッタ
9月28日(木)、京都外国語大学のキャンパス内で開催された式典にて、本学科の在学生3人を含む本学の学生が京都府警察鉄道警察隊より感謝状を贈呈されました。
この度、京都府警察鉄道警察隊が制作する痴漢等防犯リーフレット「ちかん・盗撮ZEROハンドブック」の多言語化プロジェクトに本学と京都外国語専門学校が協力し、それぞれの教員による指導のもと英語・中国語・ポルトガル語・韓国語・ベトナム語の計5言語で学生を中心に翻訳作業を行いました。4号館6階で行われた式典に参加した学生たちは京都府警鉄道警察隊にプロジェクトの意義について語ってもらい、感謝の言葉をいただきました。
ブラジルポルトガル語学科は、岐部雅之講師の文学ゼミに所属する学生3人が中心になり翻訳作業を進めました。岐部講師は近現代ブラジル文学を専門としており、本年3月には編著『ブラジル文学傑作短篇集』を出版しました。岐部ゼミでは学生が主体となり、様々な文学作品の翻訳や再編する(現代風に訳し直す)試みがなされ、翻訳するとはどういうことなのか、物語の視点を変えることにより何が見えてくるかというテーマ等が議論されています。
今回のプロジェクトは日本語からポルトガル語に翻訳する難しさと面白さについて考える良いきっかけになるだけではなく、大学で培われた知識を社会に還元する社会貢献性があることで、岐部講師およびゼミ生の皆さんは喜んでに引き受けたということです。
プロジェクトに参加した山本千夏さん(3年次)は「日本語で助けを求めることが出来ない方々の手助けになればなと思いました。これまで学んできたポルトガル語をこのような形で活かせて、とても良い経験になりました」と述べました。
同じ3年次生である庄田純怜さんは「痴漢はあってはならない悪いことですが、巻き込まれないとは言い切れません。リーフレットを翻訳して駅や施設に置かせてもらえたことは必ず誰かの助けになると信じています」とリーフレットが多くの方々の助けになると語りました。
福田眞彩さん(3年次)は女性としてこのプロジェクトに関わった意義について「痴漢に遭ってもおかしくない私たちが被害に遭わない為にどう気をつければいいかというリーフレットを翻訳をすることが出来て、翻訳の勉強はもちろんですが、自分自身が痴漢に遭った時、もしくは遭っている人を見つけた時どうすればいいのかも改めて考えることが出来ました」と熱い思いを表明しました。
学生の指導に当たった岐部講師は「文学研究とリーフレットの翻訳作業は一見すると関係性が薄いように見えますが、小説や映画で描かれている『犯罪』について議論するきっかけになりました」と述べ、ゼミでの活動や社学連携の重要性について話しました。
なお、感謝状贈呈式の様子は、NHK総合「京いちにち ニュース630」でも取り上げられる予定です。
▼ウェブサイト
「京いちにち ニュース630」
【関連記事】
痴漢等防止リーフレットの多言語化プロジェクトに本学学生らが翻訳協力
京都府警鉄道警察隊から学生らに感謝状を贈呈
この度、京都府警察鉄道警察隊が制作する痴漢等防犯リーフレット「ちかん・盗撮ZEROハンドブック」の多言語化プロジェクトに本学と京都外国語専門学校が協力し、それぞれの教員による指導のもと英語・中国語・ポルトガル語・韓国語・ベトナム語の計5言語で学生を中心に翻訳作業を行いました。4号館6階で行われた式典に参加した学生たちは京都府警鉄道警察隊にプロジェクトの意義について語ってもらい、感謝の言葉をいただきました。
ブラジルポルトガル語学科は、岐部雅之講師の文学ゼミに所属する学生3人が中心になり翻訳作業を進めました。岐部講師は近現代ブラジル文学を専門としており、本年3月には編著『ブラジル文学傑作短篇集』を出版しました。岐部ゼミでは学生が主体となり、様々な文学作品の翻訳や再編する(現代風に訳し直す)試みがなされ、翻訳するとはどういうことなのか、物語の視点を変えることにより何が見えてくるかというテーマ等が議論されています。
今回のプロジェクトは日本語からポルトガル語に翻訳する難しさと面白さについて考える良いきっかけになるだけではなく、大学で培われた知識を社会に還元する社会貢献性があることで、岐部講師およびゼミ生の皆さんは喜んでに引き受けたということです。
プロジェクトに参加した山本千夏さん(3年次)は「日本語で助けを求めることが出来ない方々の手助けになればなと思いました。これまで学んできたポルトガル語をこのような形で活かせて、とても良い経験になりました」と述べました。
同じ3年次生である庄田純怜さんは「痴漢はあってはならない悪いことですが、巻き込まれないとは言い切れません。リーフレットを翻訳して駅や施設に置かせてもらえたことは必ず誰かの助けになると信じています」とリーフレットが多くの方々の助けになると語りました。
福田眞彩さん(3年次)は女性としてこのプロジェクトに関わった意義について「痴漢に遭ってもおかしくない私たちが被害に遭わない為にどう気をつければいいかというリーフレットを翻訳をすることが出来て、翻訳の勉強はもちろんですが、自分自身が痴漢に遭った時、もしくは遭っている人を見つけた時どうすればいいのかも改めて考えることが出来ました」と熱い思いを表明しました。
学生の指導に当たった岐部講師は「文学研究とリーフレットの翻訳作業は一見すると関係性が薄いように見えますが、小説や映画で描かれている『犯罪』について議論するきっかけになりました」と述べ、ゼミでの活動や社学連携の重要性について話しました。
なお、感謝状贈呈式の様子は、NHK総合「京いちにち ニュース630」でも取り上げられる予定です。
▼ウェブサイト
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2023/09/26 19:00:00 フェリッペ・モッタ講師が雑誌「alternativa」の取材を受ける
- お知らせ
- 岐部雅之
本学科のフェリッペ・モッタ講師が日本で刊行されているポルトガル語雑誌「alternativa」(Nippaku Yuai Co., Ltd.)の取材を受け、その記事が571号に掲載されました。
表紙を飾る記事は「Somos malvistos no Japão?」(日本におけるブラジル人のイメージは悪いか?)と題され、専門家および関係者が在日ブラジル人コミュニティーについて意見を述べました。
モッタ講師は国際化の風潮と日系ブラジル人の受入れに関して具体的に言及し、より多様化された日本社会の実現にたくさんの移民を送った日本の過去を知る重要性について主張しています。
雑誌「alternativa」はこちらからご覧ください。
表紙を飾る記事は「Somos malvistos no Japão?」(日本におけるブラジル人のイメージは悪いか?)と題され、専門家および関係者が在日ブラジル人コミュニティーについて意見を述べました。
モッタ講師は国際化の風潮と日系ブラジル人の受入れに関して具体的に言及し、より多様化された日本社会の実現にたくさんの移民を送った日本の過去を知る重要性について主張しています。
雑誌「alternativa」はこちらからご覧ください。