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ブラジルのニュース

2019/07/07 18:10:00 ボサノヴァの父ジョアン・ジルベルト逝く

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  • Posted by住田 育法
 ボサノヴァの親たちのひとり (um dos pais da Bossa Nova) と呼ばれた歌手でありギタリストのジョアン・ジルベルトが2019年7月6日 (土)にリオデジャネイロで亡くなりました。7月10日はボサノヴァが生まれて61年目の誕生日です。
 
 ジョアン・ジルベルトは1958年7月10日にオデオンで「想いあふれて (Chega de Saudade)」のレコード(SP盤78回転)収録を終え、この日がボサノヴァの誕生日となっています。この作品は曲がアントニオ・カルロス・ジョビン、歌詞がヴィニシウス・ヂ・モライス、演奏がジョアン・ジルベルトでした。1959年にアルバムを出しています。

 ポルトガル語を専攻する学生諸君やブラジルに関心を持つ一般市民の方々を対象に、在日ブラジ ル大使館の協力により、著名なブラジル人音楽評論家カルロス・カラード氏を迎えて、ボサノヴァ誕生50周年を控えた2006に講演 (写真) をしていただきました。刊行されたカラード氏のTROPICÁLIAの日本語翻訳書『トロピカリア』(プチグラパブリッシング、2006年) の訳者の前田和子さん (写真) が、講演の日本語への通訳をおこない、予定の時間を30分ほど延長して盛会のうちに終了しました。

 同書の「ジョアン・ジルベルトとの出会い」には、カエターノ・ヴェローゾジルベルト・ジルの人生観を変えるきっかけとなった話を紹介しています。ボサノヴァ以後の時代を代表するブラジルの気鋭の若者にとってもジョアン・ジルベルトの歌い方とギターの演奏はたいへんな感動を与えたようです。

 ジョアン・ジルベルトのご逝去を悼み、ブラジルの民衆音楽 = MPB (Música Popular Brasileira) のさらなる発展を期待します。
  • 1958年7月10日に「想いあふれて」のレコード収録を終え、この日がボサノヴァの誕生日に。この作品は曲がアントニオ・カルロス・ジョビン、歌詞がヴィニシウス・ヂ・モライス、演奏がジョアン・ジルベルト。
  • ブラジル人音楽評論家カルロス・カラード氏を迎えて、ボサノヴァ誕生50周年を控えた2006に行なった講演会のポスター。
  • カラード著『トロピカリア』の和訳者の前田和子さんとカラード氏といっしょに金閣寺にて。

2019/06/01 09:00:00 ブラジル映画『BACURAU』カンヌ映画祭で審査員賞に

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  • Posted by住田 育法
 過去ブラジル映画は、1962年開催の第15回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で『聖女バルバラへの誓い (O Pagador de Promessas)』が最高賞のパルムドール(仏語: Palme d'Or)を獲得しています。そして2010年5月に来日したネルソン・ペレイラ監督が、『乾いた人生 (Vidas Secas)』によって、1964年の第17回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でOCIC (映画と視聴覚の国際カトリック組織 = Organisation catholique internationale du cinéma et de l'audiovisuel) 賞を受賞しました。
 そしてこのたび2019年5月の第72回カンヌ国際映画祭で、ブラジル人クレベル・メンドンサ・フィリョとジュリアーノ・ドルネレスの二人の共同監督作ブラジル映画『バクラウ』が審査員賞に輝きました。この「審査員賞」は、同映画祭において「パルムドール」、「グランプリ」に続く三位相当の賞です。『バクラウ』は、ブラジル北東部ペルナンブコ州「奥地」の小さな村バクラウで展開した、米国の西部劇にヒントを得た銃による暴力を伴うアクション映画です。監督のインタビューによると、ブラジルの奥地において古くから繰りかえされる階級間の争いや干魃による苦しみの問題を、現在の視点から普遍性をもたせて描いたそうです。黒澤明監督の『七人の侍』のように、暴力に立ち向かうヒーローも登場させています。具体的には、「奥地」の小さな村バクラウで皆に愛された女性が亡くなったあと、村が地図の上で抹消されていることに気づいた住民たちが、村の存在を証明し、消滅を避けるために戦うという、冒険科学フィクションと紹介されています。

 2002年に富野幹雄氏と共編で出版した『ブラジル学を学ぶ人のために』の第七章「ブラジルの映画」で筆者は「奥地」について次のように説明しています。
 ブラジル映画の魅力
 北東部奥地の舞台
 リマ・バレット監督の『匪賊(カンガセイロ)』(1952年) では、西部劇や時代劇を見るときのわくわくするような物語の展開のほかに、北東部(ノルデステ)奥地(セルタン)の風景やフォルクローレを楽しむことができる。(省略)
 「新しい映画」の開始を告げたネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督の『乾いた人々』(1963年)も、始まりと終わりが同じような場面となっている。映画の最初の場面では、近くを通る牛車の軋む音が聞こえる中、乾いた大地に貧しい牧夫の家族が現われる。映画の最後は、再びめぐってきた干ばつから逃れて、近くに牛車の音を聞きながら、主人公たちが乾いた大地に消えていく映像となっている。殺人の場面が頻繁に登場するブラジル映画の中で、そうした暴力シーンがないことから、この作品は教育の現場でもよく利用されている。


 クレベル・メンドンサ・フィーリョは2016年の同映画祭に『アクエリアス』で参加しており、レッドカーペットで当時の中道左派のジウマ大統領の罷免に反対する抗議行動を出演者と共に行い、国際的に注目されていました。
 ともあれ、このたびの受賞をお祝いし、作品を鑑賞して、友人であるブラジルの映画関係者たちと映画が語る「ブラジルのいま」について直接、議論を深めたいと思います。
  • 第72回カンヌ映画祭審査員賞に輝いた『バクラウ(Bacurau)』の監督たち。Globoより。
  • 映画『(Bacurau)』のポスター。
  • ネルソン・ペレイラ監督『乾いた人生 (Vidas Secas)』のポスター。

2019/05/21 23:10:00 SNSの日常で、いずれがアヤメかカキツバタ

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  • Posted by住田 育法
 今回は、「花」と芸術のかかわりについてです。桜の花びらよりサクランボを喜ぶポルトガルの友人。黄色い梅の実をプラムと思って食べてしまったブラジルの友人。花びらだけを楽しむ日本人は特別なのでしょうかと、ときどき悩みます。そこで「花」の美と日本人ついてとりあげました。

 ブラジルの友人との日常の交流を、私は Facebook で行なっています。そのとき用いる言語はポルトガル語ですが、コミュニケーション手段の写真は、植物、特に「花」です。宗教や政治につながる写真や話題は曖昧に扱って、もっぱら植物への好みにこだわって交流しています。
 最近、意外だったのは、ジャーマンアイリス = ドイツアヤメ = ポルトガル語: Íris germânica (写真) とカキツバタ = ポルトガル語: Íris laevigata, Coelho-orelha Íris (写真) の写真に、たくさんの「いいね」をもらったことです。
 まさに、「いずれがアヤメかカキツバタ」の心境で、ゴッホの作品が大好きなので、ゴッホの油絵を連想させるアヤメも私にとっては第一位、同様にカキツバタも外せないので、これも第一位になります。どちらも好きです。
 面白かったのは、ブラジルの友人たち、特にサンパウロの居住者は日本文化との関係があるので、カキツバタを知っていました。それは、尾形光琳の『燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)』(写真) の影響でしょう。

 私の場合は、ドイツアヤメはゴッホつながり、カキツバタは京都の大田神社のカキツバタのファンだからです。少しカキツバタを詳しく紹介して、学生の皆さんもぜひ、紫の上品な花を来年の5月に楽しんでいただきたいと思います。
 大田神社のカキツバタの見頃は『京都新聞』でも報道されるので、5月の満開のころ訪れると良いでしょう。残念なことに、昨年も今年も台風や鹿の被害などで育ちがよくありませんでした。しかし、平安の昔から伝わるカキツバタの美しさには、花の数が少なくても、独特の安らぎと感動を味わえます。

 SNSには大田神社の案内にしたがって、以下の歌を紹介しています。
KOUYAMA YA/OOTANOSAWA NO/KAKITSUBATA
FUKAKI TANOMIWA/IRO NI MIYURAMU
神山(こうやま)や/
(神山は上賀茂神社の北にある小高い山)
大田(おおた)ノ沢の/
(むかし、この辺りは湿地帯)
かきつばた/
(写真のうすい紫の花)
ふかきたのみは/いろにみゆらむ
(恋の路は、花の淡い紫のように可憐で美しい)
藤原 俊成(ふじわら としなり)の歌。
 
 神社に立ててある案内板の説明の一部を最後に載せておきます。
神山や大田ノ沢のかきつばた ふかきたのみは いろにみゆらむ
(藤原俊成 卿)
 上賀茂神社の御降臨山である神山の近くに在る大田神社のかきつばたに(人々が)よくよくお願いする恋い事(いろ)はこの花の色のようになんと一途(一色)で美しく可憐なのだろうか と歌われているようにすでに平安時代には名高い花として知られておりました。
 この池の広さは約200平方メートルでかきつばたは5月上旬より紫一色の花を咲き初め下旬まで沢一面に咲きます。その姿は、実に幽玄可憐で見にくる人々を魅了します。
 ここのかきつばたは古代から咲き続けた花として又、深泥ヶ池同様古代京都がまだ湖であった頃の面影を残す泥炭地の一つとして昭和14年に国の天然記念物に指定されております。
 かきつばたは、シベリア、サハリン千島および中国、朝鮮とわが国に自生する植物で、アヤメ科アヤメ属に分けられ、かきつばた、あやめ、しょうぶの相違は、かきつばたが水を好む(省略)
 賀茂別雷神社摂社 大田神社
 京都賀茂ライオンズクラブ
  • ゴッホの有名な「アイリス」を連想できる京都府立植物園のジャーマンアイリス。2019年5月に撮影。
  • 大田神社のカキツバタ。アヤメとの違いは、花びらに白い筋があること。2016年5月撮影。
  • 2017年11月に京都国立博物館「国宝展」で展示された尾形光琳の『燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)』の看板のそばで。

2018/10/29 09:30:00 ブラジル大統領選挙結果とAIが導く人類の未来の話(5)

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  • Posted by住田 育法
 ブラジル人が選んだブラジルの未来を決める指導者は右派 PSLボルソナロです。
 昨日2018年10月28日 (ブラジルの27日) の未来が、今日10月29日 (ブラジルの28日) のいまになりました。

 ブラジルは夏時間まえですから、日本との時差は首都やリオ、サンパウロなどとは12時間。
 いま、日曜日の夜の11時を過ぎたところで、最終の集計結果が出ました。
 
 完全な電子投票による選挙は以下のとおり開票率100%で「当選」の結果が出ました。

 2018年10月28日23時9分
 投票結果 開票率 100%
 ボルソナロ (Jair Bolsonaro) PSL 当選
         55.13%
      57,797,073票

 アダジ (Fernando Haddad) PT
         44.87%
       47,039,291票

 白 票 2,486,581票
 無効票 8,608,022票


 右派ボルソナロはイタリア系の両親 (父 Perci Geraldo Bolsonaro, 母 Olinda Bonturi) の子としてサンパウロのグリセリオ (後にカンピナスで出生を登録) に1955年3月21日に生まれています。イタリアは日本とともに第二次世界大戦において枢軸国に属していました。ブラジルは連合国でした。終戦の1945年から73年。いままさにブラジル国内における「平和」と「調和」の絆を期待します。より良いブラジルの「未来」への希望です。

 北東部各地に掲げられた選挙運動中の選挙公報板にブラジルの地域的統合を望むボルソナロの姿勢が感じられます。

 ボルソナロ当選大統領に対して敗北したアダジ候補者は、以下のメッセージをツイッターで送ったとブラジルのグローボ(Globo)が伝えています

"Presidente Jair Bolsonaro. Desejo-lhe sucesso. Nosso país merece o melhor. Escrevo essa mensagem, hoje, de coração leve, com sinceridade, para que ela estimule o melhor de todos nós. Boa sorte!", escreveu Haddad.

「Jair Bolsonaro 大統領。私は貴殿に成功を望みます。私たちの国は最高の価値があります。 私はこのメッセージを今日、穏やかな心で誠意を持って書いています。メッセージは私たちのすべてに最高のものになるでしょう。幸運を!」アダジ 執筆。
  • 永い経験をもつ投票機器URNA (ポルトガル語: Coletor eletrônico de voto - CEV; 英語: Direct Recording Electronic - DRE) 。
  • 私の知人が住むサンバ発祥の北部コンセイサンの丘にある陸軍省 (国防省) 地理研究所
  • 緑が右派、赤が左派。地域で支持層は割れました。「融和」のときです。地図の出所: Globo - G1。

2018/10/27 11:10:00 ブラジル大統領選挙結果とAIが導く人類の未来の話(4)

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  • Posted by住田 育法
 今日は、2018年10月27日土曜日です。明日の28日の日曜日は、ブラジル大統領選の決選投票が行われます。時計ではいま日本が、10月27日の正午。ブラジルが10月27日の零時。
 決選投票のふたりは、右派の元軍人ボルソナロ下院議員と左派のアダジ元サンパウロ市長。

 筆者掲載の写真はすべて、反アダジに繫がります。
 まず、海底油田で潤ったブラジル石油公社 = ペトロブラス(Petrobras) は労働者党失脚を招いた「汚職」の舞台
 軍隊は右派ボルソナロ候補の過去の職場。最終階位は陸軍の大尉
 写真3 枚目のUFFの法学部は伝統的にエリートの権威主義を支持。

 学生の皆さんと考えたいのは、未来の予測はどの程度、可能かということです。
 ブラジルの世論調査機関のIBOPE (Instituto Brasileiro de Opinião Pública e Estatística) とDatafolha (um instituto de pesquisas do Grupo Folha) の数字は、微妙に異なっています。これは、有権者に質問し、その分析に従って答えを出すのですが、AIの助けを借りているはずです。しかし、基本的な情報は複雑な「こころ」を持つ人間から出ています。

 小学生のとき母に、「なぜ、過ぎ去ったことを調べるの。過ぎたことは誰でも知っているのではないの」と尋ねたことがありました。母の説明は、「過去のことも、分からないことがたくさんある」と簡単でした。ただそのとき、未来のことは分からないだろう、とは考えていました。そうした、「未来」の予測の話です。
 
 いまの疑問は、はるかな未来の話ではなく、明日の大統領選挙の予測です。明日になれば分かりますが、未知なるいまの、スリルたっぷりの「わくわく感」を味わいたいのです。

 人種差別反対や格差を無くすことを強調する人が選ばれるのか。左派のアダジがそうですね。
 あるいは、ドイツ、イギリス、インド、フランスに次いで世界8位にまで国内総生産 (GDP) が成長してきた経済の規模のさらなる拡大を求めるのか。右派のボルソナロです。

 第1回の投票結果はつぎのとおりでした。
10月7日の選挙結果=得票率:
 Bolsonaro PSL 46.03%
 Haddad PT 29.28%

 以下は、未来の決選投票結果を予想する数字ですね。
10月27日のIBOPEの投票予測率:
 Bolsonaro PSL 54%
 Haddad PT 46%


10月27日のDatafolhaの投票予測率:
最新
 Bolsonaro PSL 55%
 Haddad PT 45%


過去 (26日)
 Bolsonaro PSL 56%
 Haddad PT 44%
過去
 Bolsonaro PSL 59%
 Haddad PT 41%

 ともあれ、1億を超えるブラジル人の電子投票結果を待ちましょう

 1988年のブラジル連邦共和国憲法第Ⅳ章第14条
 人民の主権は、すべての者に平等の価値を有する普通選挙および直接かつ秘密の投票により、また、法律の定めるところに従い、次のものを通じて行使される:
 Ⅰ 国民投票
 Ⅱ レフェレンダム
 Ⅲ 人民発議
※1 選挙人登録と投票は、以下のとおりとする:
 Ⅰ 18歳以上の者に対しては義務とする。
 Ⅱ 次の者は任意とする。
  a) 非識字者
  b) 70歳以上の者
  c) 16歳以上および18歳以下の者。
(以下、省略)


 そして、ブラジル人の選択と未来への希望を地球の反対側のアジアの京都から考えてみましょう。
  • 大西洋深海油田の活動を終えてリオの湾内で整備を行うペトロブラスの浮体式海洋石油生産貯蔵積出設備の船とプラットホーム。2018年8月。
  • ブラジルの未来の海を守る若い水兵たちと撮影。2017年の海軍基地公開の日にリオの軍港にて。
  • フルミネンセ連邦大学法学部新入生。キャンバスでコインを求める新入生。先輩たちの「祝福」の1つが仮装と物乞いの「要求」。

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