2021/06/14 10:50:00 「遠くの人権」なら踏みにじられてもいいのだろうか?
今考えるべき人権問題 ゲストライター
人権教育啓発室
はじめまして。宗田勝也と申します。
「じんけんブログ」の開設、本当におめでとうございます。
突然ですが、初めての国を一人で訪れた場面を想像してみてください。
空港を出て、路線バスに乗り込み、ホテル近くの停留所らしきところで降りる。さあここからホテルまで、どちらに行けばいいのだろう。不安に思っていると、行き交う人が親切に道を教えてくれる。一気にその国が好きになる――。そんな経験はありませんか?
最初の出会いはとても大切だと思うのです。ですから第1回に書かせていただくことを光栄に思うと同時に、キーボードの前で緊張しています。
京都外国語大学とのつながりを紹介します。
2015年4月にネパールで大きな地震が起こったとき、ネパールとチベット難民の男の子を描いた映画のチャリティ上映会を全国の大学で開きました。ネパールとの関わりを持つ京都外国語大生たちともつながり、同年6月、キャンパス内で上映会を開きました。まさに僕にとって、京都外国語大学との最初の出会いでした。学生の皆さんの献身的で、飾らない姿を通して、この大学のファンになりました。2020年度から「ボランティア活動論」という科目を担当していますが、京都外国語大学へ再び通えると決まったときは本当に嬉しかったです。
さて、本題に入ります。僕は2004年から難民問題だけを扱うラジオ番組「難民ナウ!」を作り続けています。その活動を通してミャンマーから日本に逃れてきた難民の方々と出会いました。
皆さんは「ラペットゥ」という料理を食べたことがありますか?
これはお茶の葉を用いたサラダですが、塩味と辛味、少しの酸味、揚げたひよこ豆やピーナッツの歯ごたえが混ざり合った、とても美味しい料理です。日本で暮らす難民の方々の支援、などという大仰なものではなく、好物の「ラペットゥ」を囲み、話し合うことを重ねてきました。現在は、東京で暮らすミャンマー難民・コミュニティの成人に向けた日本語教室と、子どもたちに向けた母語教室を開いています。じんけんブログの観点からは、「学習権」を保障しようとする草の根の取り組みを当事者とともに続けてきた、と言えるでしょう。
この間、難民の方々をめぐる状況にも変化がありました。2015年、ミャンマーの総選挙でアウンサンスーチーさんの率いる国民民主連盟(National League for Democracy:NLD)が大勝すると、「ミャンマーは民主化への道を本格的に歩み始めている」という認識が広がり、日本に逃れてきた方々の中にも本国へ自主的に帰還する人が現れました。
一方で、少数民族が暮らすエリアでは内戦が続いていました。100を超える多民族によって構成されるミャンマー国内には、「民主化」とは異なる状況に生きる人たちが存在していたのです。2019年、僕がミャンマー北部の少数民族エリアを訪れ、国内避難民キャンプへ行ったときも、いかに権力の二重構造(政府と国軍)が維持されているかという多くの証言を耳にしました。そして内戦によって、自分のふるさとに戻れない多くの人たちと出会いました。
2021年2月1日、ミャンマー国軍は、前年11月に実施され、再びNLDが圧勝した総選挙に不正があると主張し、アウンサンスーチー国家顧問兼外務大臣、ウィンミン大統領などを拘束、非常事態宣言を発令しました。国軍が強大な権力を維持し続けていたことが明らかになりました。
国軍の不当な行為に反対する市民は、市民的不服従運動(Civil Disobedience Movement:CDM、良心に基づき、従うことができないと考える法律や命令に非暴力的な手段で公然と違反する行為。職場の放棄などを含み、今回は医療従事者から始まったとされる)を起こし、それに対して国軍が苛烈な弾圧を加えるとともに、平和的な抗議活動さえ犯罪行為とみなすよう法制度を変更するなど、市民の生命と人権を踏みにじっている事実は、ニュースで見聞きしておられると思います。
僕は、ミャンマーの方々と関わってきた自分に何ができるだろうと考え、「とにかく声を上げ続けることが大切」というメッセージを発信していたミャンマーの女性と『ミャンマー ともに歩む/まえに進む―いまの情勢と声』というオンライン番組を週3回、配信しています。小さな試みですが、関心を示し続けることには意味があると信じています。なぜなら、人の関心が薄れたとき、暴力はより激しさを増し、「人の生命や権利」はさらに脆いものとなってしまうからです。
皆さんにとって、ミャンマーはどのような国でしょうか?
ある人にとっては、訪れることを「戻る」と感じるような身近な国かもしれません。ある人にとっては友人のふるさとかもしれませんし、全くつながりのない未知の国かもしれません。
どれだけ遠い国であっても、そこに生きる人の生命や権利に目を向けてほしいです。そしてそれらが危機に直面している時には、小さくても声をあげてほしいと願っています。
この短い文章が「ミャンマーの現在地」との接点となりますように。
宗田勝也 プロフィール
宗田 勝也(そうだ かつや)難民ナウ!代表。2004年、情報発信を通した難民支援団体「難民ナウ!」を設立。京都三条ラジオカフェ(FM79.7MHz)で、「難民問題を天気予報のように」をコンセプトにした同名のラジオ番組を制作し、これまでに延700人へのインタビューを行っている。京都外国語大学、龍谷大学、神戸親和女子大学で非常勤講師。
総合地球環境学研究所研究員。ミャンマー少数民族の自助団体で事務局長を務め、日本語教育にも取り組んでいる。著書に「誰もが難民になりうる時代に―福島とつながる京都発コミュニティラジオの問いかけ」(現代企画室、2013)など。
「じんけんブログ」の開設、本当におめでとうございます。
突然ですが、初めての国を一人で訪れた場面を想像してみてください。
空港を出て、路線バスに乗り込み、ホテル近くの停留所らしきところで降りる。さあここからホテルまで、どちらに行けばいいのだろう。不安に思っていると、行き交う人が親切に道を教えてくれる。一気にその国が好きになる――。そんな経験はありませんか?
最初の出会いはとても大切だと思うのです。ですから第1回に書かせていただくことを光栄に思うと同時に、キーボードの前で緊張しています。
京都外国語大学とのつながりを紹介します。
2015年4月にネパールで大きな地震が起こったとき、ネパールとチベット難民の男の子を描いた映画のチャリティ上映会を全国の大学で開きました。ネパールとの関わりを持つ京都外国語大生たちともつながり、同年6月、キャンパス内で上映会を開きました。まさに僕にとって、京都外国語大学との最初の出会いでした。学生の皆さんの献身的で、飾らない姿を通して、この大学のファンになりました。2020年度から「ボランティア活動論」という科目を担当していますが、京都外国語大学へ再び通えると決まったときは本当に嬉しかったです。
さて、本題に入ります。僕は2004年から難民問題だけを扱うラジオ番組「難民ナウ!」を作り続けています。その活動を通してミャンマーから日本に逃れてきた難民の方々と出会いました。
皆さんは「ラペットゥ」という料理を食べたことがありますか?
これはお茶の葉を用いたサラダですが、塩味と辛味、少しの酸味、揚げたひよこ豆やピーナッツの歯ごたえが混ざり合った、とても美味しい料理です。日本で暮らす難民の方々の支援、などという大仰なものではなく、好物の「ラペットゥ」を囲み、話し合うことを重ねてきました。現在は、東京で暮らすミャンマー難民・コミュニティの成人に向けた日本語教室と、子どもたちに向けた母語教室を開いています。じんけんブログの観点からは、「学習権」を保障しようとする草の根の取り組みを当事者とともに続けてきた、と言えるでしょう。
この間、難民の方々をめぐる状況にも変化がありました。2015年、ミャンマーの総選挙でアウンサンスーチーさんの率いる国民民主連盟(National League for Democracy:NLD)が大勝すると、「ミャンマーは民主化への道を本格的に歩み始めている」という認識が広がり、日本に逃れてきた方々の中にも本国へ自主的に帰還する人が現れました。
一方で、少数民族が暮らすエリアでは内戦が続いていました。100を超える多民族によって構成されるミャンマー国内には、「民主化」とは異なる状況に生きる人たちが存在していたのです。2019年、僕がミャンマー北部の少数民族エリアを訪れ、国内避難民キャンプへ行ったときも、いかに権力の二重構造(政府と国軍)が維持されているかという多くの証言を耳にしました。そして内戦によって、自分のふるさとに戻れない多くの人たちと出会いました。
2021年2月1日、ミャンマー国軍は、前年11月に実施され、再びNLDが圧勝した総選挙に不正があると主張し、アウンサンスーチー国家顧問兼外務大臣、ウィンミン大統領などを拘束、非常事態宣言を発令しました。国軍が強大な権力を維持し続けていたことが明らかになりました。
国軍の不当な行為に反対する市民は、市民的不服従運動(Civil Disobedience Movement:CDM、良心に基づき、従うことができないと考える法律や命令に非暴力的な手段で公然と違反する行為。職場の放棄などを含み、今回は医療従事者から始まったとされる)を起こし、それに対して国軍が苛烈な弾圧を加えるとともに、平和的な抗議活動さえ犯罪行為とみなすよう法制度を変更するなど、市民の生命と人権を踏みにじっている事実は、ニュースで見聞きしておられると思います。
僕は、ミャンマーの方々と関わってきた自分に何ができるだろうと考え、「とにかく声を上げ続けることが大切」というメッセージを発信していたミャンマーの女性と『ミャンマー ともに歩む/まえに進む―いまの情勢と声』というオンライン番組を週3回、配信しています。小さな試みですが、関心を示し続けることには意味があると信じています。なぜなら、人の関心が薄れたとき、暴力はより激しさを増し、「人の生命や権利」はさらに脆いものとなってしまうからです。
皆さんにとって、ミャンマーはどのような国でしょうか?
ある人にとっては、訪れることを「戻る」と感じるような身近な国かもしれません。ある人にとっては友人のふるさとかもしれませんし、全くつながりのない未知の国かもしれません。
どれだけ遠い国であっても、そこに生きる人の生命や権利に目を向けてほしいです。そしてそれらが危機に直面している時には、小さくても声をあげてほしいと願っています。
この短い文章が「ミャンマーの現在地」との接点となりますように。
宗田勝也 プロフィール
宗田 勝也(そうだ かつや)難民ナウ!代表。2004年、情報発信を通した難民支援団体「難民ナウ!」を設立。京都三条ラジオカフェ(FM79.7MHz)で、「難民問題を天気予報のように」をコンセプトにした同名のラジオ番組を制作し、これまでに延700人へのインタビューを行っている。京都外国語大学、龍谷大学、神戸親和女子大学で非常勤講師。
総合地球環境学研究所研究員。ミャンマー少数民族の自助団体で事務局長を務め、日本語教育にも取り組んでいる。著書に「誰もが難民になりうる時代に―福島とつながる京都発コミュニティラジオの問いかけ」(現代企画室、2013)など。
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2019年、訪問したミャンマー北部の少数民族エリアで国内避難民の子どもたちと
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2015年、京都外国語大学で行ったネパール支援のチャリティ映画上映会学内ポスター
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ミャンマーの女性Swe Sett Ayeさんと続けている「ミャンマー ともに歩む/まえに進む―いまの情勢と声」