■学会動向■
日本ラテンアメリカ学会第28回定期大会
パネルE 現代ブラジル主要都市における低所得者層共同体比較研究
コーディネーター 住田育法 (京都外国語大学)
コメンテーター 小池洋一(立命館大学)
2003年に中道左派の労働者党ルーラ政権が誕生し、就任後汚職疑惑を背景に一時的な政治危機を迎えたものの、
2006年選挙でルーラが再選され、改めてブラジル社会の改革と発展への期待が高まっている。特に国土や人口規
模が大きく天然資源にも恵まれた4カ国である、いわゆるBRICsの一員として、民主化と変革を基底に、世界に
おける存在感を強めている。こうした展開を受けて、ブラジルの中央政府ならびに地方の自治体の役割に関する、
経済学や地理学、歴史学などに基づく総合的学際的アプローチによって、現代ブラジル主要都市における低所得
者層共同体(ファヴェーラ)の比較研究を行なう。これまで、新旧首都のリオデジャネイロ(人口約614万)と
ブラジリア(人口約236万)、さらに、特にリオデジャネイロとライバル関係にある巨大都市サンパウロ
(人口約1,093万)について研究を続けてきたが、都市の中の低所得者層共同体に絞って調査を行なうこと
によって、ブラジル社会の実情をより鮮明に理解できると考えている。
発表
1.山崎圭一(横浜国立大学)
2.奥田若菜(大阪大学大学院生)
3.近藤エジソン謙二(筑波大学)
4.萩原八郎(四国大学)
1. ブラジル諸都市の住宅財政の近年の動向 (山崎圭一)
ブラジルの都市のかかえる諸問題に大小の都市はいかに対応しようとしているかについて、都市財政の全国的動向
や財政フェデラリズムすなわち連邦?地方間の行財政関係論を軸に考察する。とくにカルドーゾ政権時代とルーラ
政権時代の共通点と違いが何であるかを明確にしたい。また規模別の考察も必要であり、1000万人を超えるサンパ
ウロのような都市と、数万人の都市では、当然問題の現れ方も財政的対応の仕方も異なる。都市行財政の課題は、
生活面にかぎっても医療保健、公衆衛生、学校教育、環境、住宅など多岐にわたるが、全体を概観したのちに、
詳しい考察は住宅領域に絞りたい。
2. 社会の暗部か、中心か―ブラジル低所得者層の経済活動と活動地域の変化 (奥田若菜)
北東部地域や都市に集住している低所得者層は、存在そのものが解決すべき社会問題の1つとして論じられる。
しかし彼らの生活実態の把握は、いまだに外部からの一方的な認識にとどまっている。
本発表では、人類学的調査によって得られた事例をもとに、社会の暗部、停滞として表現されることの多い低所得者
層の生活実践を描き出す。都市部に居住する低所得者の多くが北東部出身であるため、両地域は結びつきが強いが、
経済活動に代表されるそのつながりは外部からはみえにくい。都市に居住する親類や知人は北東部の人々にとって、
雇用機会や教育機会、情報源として重要な役割を果たしている。北東部から都市部への移住は現在も活発であるが、
その形態は変化しており、北東部の中規模都市への移住へとシフトしつつある。本発表では事例を交えながら、彼ら
の日常の活発性、社会上昇の可能性(具体的道筋)、ブラジル全土を領域とする経済活動、北東部を中心とするイン
フォーマルな経済活動の変化を論じる。特に流動性に注目しながら、行政の担い手である中上流階層がもつ低所得者
層へのイメージと、実際の生活実践の差異を明らかにし、ブラジルの都市問題、貧困問題、地域格差の是正を考える
上での留意点を指摘する。
3. 警察と麻薬商人の抑圧、政府や非営利団体や宗教団体などの混同する支援の狭間で活躍するリオデジャネイロ・
スラム街のヒーロー達
(近藤エジソン謙二)
スラム街に住む者は資本主義の脱落者であるのか、もともと資本主義とは縁が無かったのかは不明確だが、中流層や
富裕層が普通だと思う小中学校、高等学校、大学で勉強をし、就職をし、家族を持ち、幸せに暮らすなどのパターン
は彼らの現実とは程遠いことである。成功した者は、成功していない者は自らの責任(努力していない、長く根気良
く続けない、酒を飲んで酔っ払っている、貯金をしないで無駄遣いするなど)でそうなっていると信じるゆえ、たと
え救済に当たったとしても、それは偏見に基くゆえ、効果は限られている。本発表では、スラム街に住む者は、如何
にその究極に不利な状況から打開する方法を模索しているかを語る。スラム街で活躍する、新たなオートバイ・タク
シー、フェア・トレード型の活動、企業と非営利団体とのやり取り、麻薬商人との共存、無くしつつある公共的な参
加空間の再現などに取り組むヒーロー達の例を基に、貧困層自らの取り込みから打開策を考察する。
4. インターネットを通じたファヴェーラ研究の可能性と限界
(萩原八郎)
ここでは、インターネット通信(E-mail)による情報交換ではなく、主にインターネットのウェブサイトなどからの
情報収集に焦点を当てて考察する。具体的には公的機関のウェブサイトやウィキペディアに代表される事典タイプ、
ファヴェーラ共同体のホームページなど様々である。インターネット情報の最大の利点は、検索機能を通じた利便性
と効率の高さであり、近年、情報収集手段としてのインターネットの利用は飛躍的に拡大しており、「インターネッ
ト万能」の観さえある。たしかにインターネットを通じて、日本にいながらブラジルのファヴェーラに関して、その
定義、起源、展開、現状等概要がつかめるだけでなく、詳しい内部情報など自分で現地調査する以上のデータを入手
することも可能である。しかし、それはあくまで参考文献であることを忘れてはならない。
『日本ラテンアメリカ学会第28回定期大会プログラム』より(2007年6月2日(土)・3日(日) 於・南山大学 名古屋
キャンパス)
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