■学会動向■


ラテン・アメリカ政経学会2005年度第42回大会(拓殖大学)
研究報告第W部
ブラジル人と政治倫理観


司会:辻豊治(京都外国語大学)
論評:石井陽一(トランスペアレンシー・ジャパン)

発表者:
住田育法(京都外国語大学)

 ブラジル社会の変革を訴えて、2002年大統領選挙の決戦投票で61%、5千300万票を獲得して 当選し、2003年1月に多くの国民の期待をになって就任した労働者党(PT)のルーラ大統領であった。し かし今、ラテンアメリカ特有の伝統的な政治のあり方であるペルソナリズモ(人格主義)やネポティズモ (身内びいき)を反映させた過去の保守的な姿勢を強めている。
 郵便局汚職疑惑に端を発して、ブラジルの政治危機が深刻になった2005年7月初旬に、サンパウロのカトリ ック大学教授が、若者向けのグローボTVの深夜番組 Altas Horas で、「ブラジルは永く黒人奴隷制が続き、 20世紀になっても、独裁政治を経験した国であって、実は今、もっとも民主的になったといえる。もっと将 来に希望を持って良い。それから、ルーラ大統領で凄いのは、彼の経歴だ」と、若者を励ます発言をしてい たのが印象に残っている。
 同時に、そのルーラ大統領が2005年7月下旬に、政府と労働者党をめぐる汚職疑惑による政治危機が高まる中、 「私は非識字の父と母の子だ。私はこの国で頭をあげて(胸をはって)生きる権利を得た。私の頭を下げさせ るのはブラジルのエリートではない」と、自らの正しさを主張し、8月のはじめには、故郷のGaranhunsに帰っ て、ジャーナリズムの政治危機への取組みを批判し、「私が民衆のために出馬すれば、次の選挙にも当選する だろう」、と演説した。これは、労働者党汚職疑惑により招いた自らの失敗を棚にあげて自らの正しさを主張 し、開き直っているようにも思える。このように、「言葉」で強く自らの正しさを訴えかけ るルーラ大統領の姿勢を見るとき、日本人の立場からは「異文化」と映る価値観の違いも感じとれる。さらに、 ブラジル国内の10月はじめの世論調査によれば、汚職疑惑の渦中にいるルーラ大統領にたいして、依然として 多くの国民が高い期待を寄せていることも驚きである。
 本報告では、普遍的な倫理観を意識しながら、ブラジル特有と思える価値観の展開に注目して、今回のルーラ 政権をめぐる汚職問題を取りあげる。具体的には、2005年7月以降の新聞やテレビの報道内容を整理しつつ、で きる限り外国人としてのステレオタイプ的な誤解や反対勢力の側からの一方的な批判を排除して、ブラジルの 現実を知るための観察を試みたい。



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