■学会動向■


日本ラテンアメリカ学会第26回定期大会
パネルB ブラジルの都市問題―ムニシピオの形成と都市行政の展開


司会:小池洋一(拓殖大学)

発表者:
1.住田育法(京都外国語大学)
2.谷口恵理(筑波大学大学院生)
3.山崎圭一(横浜国立大学)
4.萩原八郎(四国大学)
5.山田睦男(国立民族博物館名誉教授)
6.奥田若菜(大阪大学大学院生)

 住田らは、現代ブラジルの民主化の進展、 特に労働者党 (PT) ルーラ大統領の登場という政治変動を基底に、新旧首都 の事例を中心として、広大な空間をかかえるブラジルの都市化における社会格差の問題を取りあげて、2003年度定期大会で研 究報告をおこなった。その後も、「現代ブラジルにおける都市問題と政治の役割」をテーマに、ブラジルの都市システムの変 化と地方の社会構造を明らかにするための共同研究を続けている。今回は、これまでの研究を踏まえて、今日5千560団体を超 えている行政単位ムニシピオ(サンパウロやリオデジャネイロのような州都となっている大都市から市街化された集住地を含 む小さな町や村まで幅広い人口規模の「市」)の形成と土地所有や住宅政策などの実情に焦点を絞って都市問題を考えたい。 殊に、植民地時代にさかのぼる過去の遺制という視点をも意識しつつ、今日の農村地区における土地なし農民運動や市街地の ファヴェーラの形成における土地占拠、さらには都市暴力に関わる問題にも触れたい。

1. 都市の形成と土地所有法の歴史  (住田育法) 
 ブラジルにおけるさまざまな都市(ムニシピオ)の誕生・発展の状況を、土地の占有・所有の観点から分類・整理したい。 例えば、セズマリア制が廃止された1822年から帝政下の1850年まで、土地所有法の未整備状態が続いたが、1850年以降は、購 入によって広大な土地を所有する新興の地主層が誕生する。民主化が進んだ1988年憲法で、先住民の土地所有や過去の逃亡奴隷村居住者の権利が認められ、さらに近年になって、占有による土地所有権取得の期間 が10〜20年から5年に短縮され、不法占拠による土地取得が容易になった。この展開にも触れる。

2. ブ連邦区ブラジリアと旧都リオデジャネイロの住宅政策   (谷口恵理)
 本報告では、ブラジルに長らく鎮座する脆弱な都市住環境をめぐり展開されている、政府や国際機関といった各方面の今日 の取り組みを、ブラジルの旧首都リオデジャネイロと現在の首都ブラジリア連邦区の事例をもって紹介する。前者では米州開 発銀行(IDB)のプロジェクトを、後者では連邦区政府の政策を挙げ、それぞれの特色を見いだしつつ、ブラジル住宅政策の多 様性を指摘する。

3. ムニシピオの制度と実態とくに近年の分裂動向(いわゆるエマンシパサン[親権解除])について   (山崎圭一)
 ブラジルの地方自治制度についてムニシピオを中心にまず考察する。歴史的発展過程についても住田報告と重複しない範囲 で若干触れるが、基本的に1988年憲法体制下での制度に焦点を当てる。第2に5560以上あるムニシピオの分類について考察し、 多様性を確認しつつ、分類の方法論上の課題を明らかにする。第3に現状の制度がかかえる矛盾と克服の課題について地方財 政論の観点から論じるが、とりわけ88年以降のエマンシパサン(親権解除)によるムニシピオの分裂動向(総数増大の傾向) を考察したい。

4. サンパウロの都市問題に対する州と市の関係   (萩原八郎)
 サンパウロの目立った都市問題として交通渋滞や治安の問題などがあるが、それらの都市問題に対して、短期的な対症療法 と長期的な根治療法の両方が必要であろう。行政面では市(Municipio)、州(Estado)、連邦政府(Uniao)の3次元に及ぶ が、サンパウロ州都(サンパウロ市)では、都市行政において市よりむしろ州の役割の方が大きいと言える。交通、警察、上 下水道などについて検討してみる。

5. ブラジルの都市犯罪―特性、原因論と治安対策の適合性   (山田睦男)
 ラテンアメリカにおいても、ブラジルはコロンビアなどと並んで、殺人率が高い国として知られている。この報告では都市犯罪の趨勢と特徴、それをめぐる研究動向、治安対策に関する諸説、政府の政策、民間および地域レベルの対策を紹介検討し、今後の展望を得ようとする。日本との比較も試みる。都市犯罪には地域性、種別の違いがあり、一概に論じることはできない。まず、組織犯罪と個人犯罪にわけ、前者に重点をおいて分析、考察する。重点対象としてはサンパウロやリオデジャネイロに焦点をあてる。

6. 「不法」と都市下層民の生活実践   (奥田若菜)
 ブラジルの首都ブラジリア連邦区では、公地の不法占拠が大きな社会問題となっている。一般的に不法占拠は、経済的に貧しい地域出身者が都市に流入することに起因するスラムの問題として捉えられるることが多い。しかし、ブラジリアの場合、中上流階層民による不法占拠も目立つ。今回は、「不法」をキーワードにブラジリア連邦区で起こっている都市下層民、中上流階層による不法占拠の現状と、合法の仕事につかず路上などで収入を得る都市下層民の不法労働の実態を、フィールドワークで得た資料をもとに報告する。

『日本ラテンアメリカ学会第26回定期大会プロブラム』より(6月4日(土)・5日(日) 於・早稲田大学西早稲田キャンパス)



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