■学会動向■


ラテン・アメリカ政経学会2004年度第41回大会(慶応義塾大学)
研究報告第U部
没後50年のヴァルガスの評価


司会:石田信義(京都外国語大学)
論評:乗 浩子(帝京大学)

発表者:
住田育法(京都外国語大学)

 1930年代にブラジルの近代化を進める新しい指導者として南部のリオ グランデドスル州から中央政界に登場し、第二次大戦後は「貧者の父」 としてポピュリスト的政治運営をおこなったヴァルガスが1954年に衝撃 的な自殺をとげて、今年でちょうど50年になる。
 「ブラジル最良の大統領は誰か」との世論調査(1999年5月)によれば、 1位 ヴァルガス 27%、2位 クビシェッキ 14%、3位 サルネイ 13%、 4位 カルドーゾ 11%という結果が示されており、未だ、ヴァルガスはブ ラジル国民から高い支持を得ている。さらに、「ジェトゥリオ・ヴァルガス は19年間政権に就き、貧しく死んだ。僅かサンボルジャに、46ヘクタールの 農場と建設中のマンションだけを残して。」という紹介にあるように、清廉 な政治家としての評価もある。(註 Ronaldo Conde Aguiar, Vito'ria na derrota: a morte de Getu'lio Vargas: quem levou Getu'lio ao suici'dio, Rio de Janeiro, 2004. p.12.)
 ブラジル史において「ヴァルガス時代」として区分されている1930-45年間 のヴァルガスは、当初、軍部の青年将校の運動に繋がるファッシズムや共産主 義に理解を示していた。しかし、サンパウロの護憲運動に勝利した後、憲法を 公布して正規の大統領に就くと、ファッシズムや共産主義を否定して、第二次 世界大戦には連合国の立場で参戦する。連合国の勝利による終戦によって、独 裁体制の長であった政治姿勢が批判されてヴァルガスは下野する。しかし、労働 者に味方するポピュリストとして大統領選挙に勝利して再び、中央政界に返り咲 く。この任期中に、側近のスキャンダルの責任をとって、自殺を遂げたのである。
 ヴァルガスが「ヴァルガス時代」に進めた政策は、工業化の推進、労働者階級 の地位向上、ブラジル空間全体の開発、ブラジル的民族主義の重視などであった。 これを、独裁的な中央集権化政策によっておこない、今日の発展に繋がる国際競争 力のある民族的産業育成の基盤を築いた、と評されている。第二次大戦後のポピュ リストとしての業績は、自殺後の後継者を遺したことであるとされている。ブラジ リア遷都を果たしたクビシェッキ、労働党(PTB)から登場したゴウラール、軍政以 後の民政移管後のタンクレード・ネーヴェスやサルネイなどである。軍政期におい ても、ブラジル全土の開発を目指す経済計画に、ヴァルガス理念の片鱗を観察できる。
 コロルやカルドーゾなどの新自由主義者によって、ヴァルガスの影響が終わった もいえる。しかし今、労働者党のルーラの登場によって、ヴァルガスの政治への「郷愁」が語られ始めているように思われる。現在はヴァルガスが生きた時代とは異なっているが、研究者や政治家によって今、その業績がどのように評価されているかを紹介し、映像や画像を利用しながら、ラテン的な独裁者とも評しうるヴァルガスの実像へのアプローチを試みた。



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