■学会動向■


日本ラテンアメリカ学会第24回定期大会
パネルC 現代ブラジルにおける政治と都市問題


コーディネーター:住田育法(京都外国語大学)
コメンテーテー:山崎圭一(横浜国立大学)

発表者:
1.住田育法(京都外国語大学)
2.谷口恵理(筑波大学大学院)
3.田所清克(京都外国語大学)
4.奥田若菜(大阪大学大学院)

 植民地時代のブラジルは、広大な内陸部をかかえながらも、海岸地域の開発を重視し、この傾向は、独立後もしばらく続いた。しかし、世界恐慌によって経済的な混乱が広がる中、反サン・パウロを掲げて新しい指導者ヴァルガスが登場したころから、内陸地域の開発に強い方向性が示されるようになった。こうした政策は、新首都ブラジリアを実現させたクビシェッキ政権や開発優先の国家開発計画を打ちだした軍政によって、さらに強調されることとなった。やがて、1985年に約20年間続いた軍政が終わって民政が始まり、中央集権から地方分権へ、国営から民営化への変化の時代を迎える。そして、2002年に野党労働者党ルーラ名誉党首が大統領選に勝利し、ブラジル国民がさらなる変革を求めていることを証明した。一方、現実の社会では、格差がますます拡大する傾向にある。このような展開を、都市問題を切り口として考えたい。

1. ブラジルにおける新旧首都の役割と社会格差  (住田育法)
 広大な空間の開発を課題としてきた現代ブラジルは、中央集権化と地方分権化を交互に経験している。帝国として独立した国家の中央集権化を支えたのは、リオ・デ・ジャネイロであった。このリオは、サンパウロの勢力が強まった20世紀初頭に都市整備を行い、貧者と富者の住み分けを進めた。やがてヴァルガス革命の時期、リオを拠点とする中央集権化が進む。第二次大戦後の自由主義化の展開において、急激な工業化と中央集権化を、新首都の建設によってクビシェッキが進めた。内陸部の開発が国民の目標とされ、近代的な都市整備が進められる一方で、貧者の居住空間が拡大し、社会格差が顕著となった。こうした、「地域格差の社会格差化」とも呼べるような都市問題の展開を考察する。

2. ブラジリアの社会格差と中央政府の社会政策―ブラジル都市低所得者層への住宅政策、連邦区第12行政地区サマンバイアを事例として  (谷口恵理)
 ブラジルは工業化とともに1950年代以降著しく都市化が進み、90年代にはマイナス成長となるものの、今日では全人口の約80%が都市部で生活している。こうした都市化の流れに伴って、都市部では不十分なインフラや住宅の不足、質の低下など住居環境の悪化が問題となっている。他方、世界でも最悪の所得格差を呈しながらも、近年は社会的側面における改革を重視してきた。報告では、低所得者層向けの住宅政策である賃借住宅プログラム(Programa de Arrendamento Residencial, PAR)に注目し、この実施地の一つであるサマンバイア(Samambaia)を取りあげる。この町は、現知事によってつくられたために、何かと連邦政府の恩恵を受けることが多い。途方もない規模の都市貧困層に対応した住宅政策というのは、ブラジルにとって極めて困難な取り組みである。導入されて間もないこのPARにもすでに問題が生じているが、そうした点も含めた現行の住宅政策の検証を試みる。

3. 「うるわしの都」リオの社会・文化空間の一部としてのファヴェーラ  (田所清克)
1)歴史的に観たリオのファヴェーラと増大の一途をたどるファヴェーラ化現象を、文学誌を通して検証しつつ、都市化現象のひとつとしてみる。
2)対照的な社会のピラミッドに位置する富裕層と最下層の集団が、隔絶しながら併存する、リオのファヴェーラの諸特徴を、メトロポリスとしての構造や、社会・文化空間から捉える。
3)リオのファヴェーラが変容し、他の地域のそれに比べて富裕化の傾向があり、しかも、ラテンアメリカ最大といわれるロシーニャのファヴェーラの例のように、ファヴェーラ内部で階層化しつつあることを示す。
4)連邦および州政府によるファヴェーラ対策と、ファヴェーラ住民を巡る政治文化を考える。

4. ブラジリア建設・衛星都市形成の歴史にみるブラジル  (奥田若菜)
 ルシオ・コスタが飛行機の形に見立ててデザインし、建築家オスカー・ニーマイヤーによって形作られたブラジリアは、政府にとっては、綿密な都市計画の下にコントロールされた理想郷であった。しかし、計画に反して、新首都の周りには数々のファヴェーラ(Vilas Das Invasores)が形成されていく。ブラジリア建設にかかわった労働者、首都によりよい生活を求めて国内移住してきた人々などがその中心であった。人々は既存の衛星都市に住み始め、各衛星都市は拡大を続けた。既存の衛星都市以外に、1960年代、政府によって問題視されたのがブラジリア完成まで建設労働者の町として存在したシダージ・リブレ(のちにヌークレオ・バンデイランチと改名)の周囲で拡大した複数のファヴェーラである。政府はファヴェーラの全住民を移転させるために新たな衛星都市を建設することを計画し、これは、セイランジャと名づけられた。ファヴェーラ住民の町として外部から認識されてきたセイランジャは形成当初からネガティブなスティグマを背負っており、数ある衛星都市のうち最も治安の悪い都市とみなされている。このように、政府の計画に基づくブラジリアとセイランジャは、ブラジルの二面性・表と裏を顕著に表している。報告では、セイランジャ形成の歴史的過程、政府による強制的移住・二つの都市が物語る現代ブラジル社会について考察する。

パネル「現代ブラジルにおける政治と都市問題」 日本ラテンアメリカ学会第24回定期大会プロブラムより(6月7日(土)・8日(日) 於・神奈川大学横浜キャンパス)



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